行こうか
平和な時の騎士以上に気楽な仕事は無い、とリドムは思っている。特に、田舎では。
主にする事と言えば、町の警備と、自分の体が鈍らないように訓練をするだけだ。特に警備は、午前だけ、午後だけ、と人員を割いても十分に人手が足りる。
勿論、戦争が勃発した場合は足りなくなるのだが。
それの他にする事は、偶に狩りに参加したり、事務の仕事を任されたり、その他少々。
飯を食い終え、制服に着替えてから、一旦小間使い達に会いに行く。
今日からは、昨日まで乗っていた愛馬、スタックに乗る事は激減するだろう。
彼ら、彼女らが馬に乗ってみたいというのは何度も聞いていたし、スタックも健康の為、走らせない訳にも行かない。
暇があったら自由に走っても良いように言っておいた。
外に出ると、銀鹿は飯を食っていた場所にまだ座っていた。そして、唐辛子が地面に置かれていて、それをじっと見ていた。
スリルを味わいたいが為に唐辛子も籠に入れたのかな。
そう思いつつも、厩舎に向う。手綱は必要ないとしても、鐙と鞍は必要だ。
銀鹿の体に合うかどうかは分からないが。
スタックの元に歩いて行き、仕切りに掛けてある鐙と鞍だけを取って、スタックに言った。
「すまない。今日からはいつもここの掃除をしている人達を楽しませてくれ」
普通の動物の中で、馬よりも心が繊細な動物は居るだろうか。自分が銀鹿に乗る事を知ったら、スタックの元気が無くなりそうだ。
伝わったかどうかは良く分からない。馬は人語を理解しない。
だが、いつもとは違う事は分かったのだろう。リドムがスタックを連れずに厩舎から出ようとすると、不安げに鼻を鳴らした。
厩舎の掃除に取り掛かっている小間使いに、出来るだけ早く走らせてくれと、伝えた。
銀鹿は既に唐辛子を食べてしまったようで、厩舎を出ると籠を咥えたまま俺の方へ歩いてきた。中身は半分程減っていた。
夜になる前にまた、八百屋にでも寄れと。
鞍と鐙を見せると、少し不満そうに見えたが、取り付けるのには何の邪魔もしなかった。馬と同じものが鹿に取り付けられるだろうか、と不安だったが、大した問題は無かった。
銀鹿の反応を見て、今までにも取り付けられた事があるのだろうか、と思う。
いや、もしかしたら、これまでも同じような事を繰り返してきたのだろうか。
魔獣の寿命は分かっていない。傷を受けて死んだ所は何頭も確認されているが、老衰で死んだ魔獣は1匹たりとも確認されていない。ただ、人間を遥かに超える寿命である事だけは分かっている。
何度も繰り返していたっておかしくない。
毛皮を一通り撫でていると、脇腹に傷の痕があった。……形状から言って、刺し傷だった。それも、大型の獣を殺す為のような、血を流させる為の歪な形をした槍だ。
「お前……」
銀鹿はしゃがみ、リドムに乗るよう催促した。まるで、聞かれたくないかのように。
「……分かったよ」
気付くと、隣にライルが居た。
「行くか?」
「ああ」
今日は、午前中は町の警備、午後は訓練に参加。
変わった日常が始まる。




