and Wolf.
立てるようになり、歩けるようになるまで大して時間は掛からなかった。
男は広い洞穴を歩き、外に出た。久々の外だった。意識があった時間は短いが、体の感覚が洞穴の中に居た期間が長い事を知っていた。
早速風を身に受け、寒さに体が震えた。しかし、それは体を刺すような寒さではなく、柔らかな寒さだった。
冬が過ぎようとしている。辺りで丸まっている狼は男の方を見て、数匹は歩いて来た。
僅かに男は後退った。脳裏には追い掛けて来た犬を殺した事が思い浮かんでいた。少し、今の俺には心臓に悪い。
けれども極寒の中、魔獣の狼のみならず、この普通の狼達は自分の近くに居てくれる事で寒さから助けてくれていた事を男はおぼろげに覚えていた。
傷が完治したのは、彼らのおかげでもあるのだ。
男は座り、狼とじっと目を合わせた。何と思われているかは分からないが、感謝の気持ちを伝えられたらな、と思っていた。
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帰るときが来た。体力も十分戻り、雪も少しずつ溶け始めていた。
男は紺碧の狼とほんの少しだけ話をした。他愛の無い話だったが、互いに心情を知る事は出来た。
狼は、男が自分という魔獣に対しての触れ方から男自身も何かの魔獣の相棒か、それに関わる人間である事を伺い知った。
男は狼が長年に渡って多種多様な体験をして来た事を想像出来た。そして、その体験の内には負のものも沢山含まれているであろう事も。
狼は男を自分の相棒になっても良い人間だとも思ったが、着いて行く気は無かった。喜びや楽しみの最後にあるものは、常にそのプラスの感情の量に倍増される悲しみだったからだ。幾度となく様々な人間と触れ合って来たが、その悲しみに慣れる事も無かった。臆病なのだろうが、大きな悲しみはもう、味わいたくなかった。
男も、万が一狼が着いて行こうと思っても、それを拒絶するつもりだった。非常に役に立つ戦力になるのは間違いない。けれども、オプシディのようにはさせたくなかった。独占欲はあろうとも、それは男にとってはとても大事な事だった。
もし鹿の魔獣の相棒がここに居たら、そっちの方に着いて行け、とも言っただろう。
態々、こんな国に関わる事は無い。不幸への道に引っ張ってしまう事はしない。
男は感謝を伝え、立ち上がった。
洞穴から出て、周りの狼達を撫でながらゆっくりとここを去る。紺碧の狼は洞穴の前で立ったまま、その男を見ていた。
久々の人間だったが、好意を持てる奴だった。そう思った後、狼は洞穴の中へ戻って行った。
男が振り返っても、洞穴の入り口が見えるだけだった。
残ったものは、ずっと腰にあったナイフだけだった。鹿の魔獣がわざと自分から奪わなかったナイフだった。ある意味命よりも重要な機密が入った袋は、遠く高い山頂で雪に埋もれているか、もう、回収されてしまっているか、だった。しかし、それ以上に良い情報も得る事が出来た。男は魔獣の唾液に、この瀕死の自分を全快させた効果があると既に知っていた。
男はその突き落とされた山頂を見上げ、自分が本当に幸運だった事を実感した。あそこから瀕死の状態で突き落とされて、そこから生還したと言っても誰も信じないだろう。
隻眼にはなったが五体満足な命と、ナイフ。弩を失った代わりに、秘薬と言っても良い魔獣の唾液の効果を知った。
「半々、と言ったところか?」
これから帰っても、事実をありのままに伝えるしか無いだろう。俺が魔獣によってボロボロにされた事も、魔獣によって助けられた事も。
罰も賞も、両方受ける事となるだろう。
まあ、もうそんな事は大した事ではない。長い長い時間を経る結果になったが、無事に帰れるのだから。
メルトライが今どうなっているかを分からなくとも、本当に清々しい気分だった。
読んで下さってありがとうございました。
もし良かったら感想、評価をお願いします。前回同様狂喜します。
この2年後を書いた理由は、思い浮かんでいた少しの構想と、裏設定を使い切りたかったから。
少しの構想は、メルトライが3国の王を殺す事。それだけ。
使いたかった裏設定は、2つで、1つしか明示しなかった。
明示した方は、唾液に治癒効果があるという事。
しなかった方は、人間の負の感情が集まっていて、且つ誰の目にも触れていない自然の場所で魔獣が生まれるという事。フリクトもオプシディもメルトライ周辺で生まれている。
最後の狼は2,300年は生きている設定。
狼の名前も男の名前も全く考えてない。名前を呼ばれないなら、付ける必要もないと思った。
1つ、男の性格が少し変わってしまったかもしれないのが心残りだ。
思ったよりも少し長くなった。
さて、もう1つの方もしっかりやるか。




