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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
二年後。
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自由の存続

 派手に起こした火事の影響か、雨が降った。

 油紙で体を雨から守りつつ、男は幸運に思った。水は臭いを紛らわす。臭いの追跡も素早くは出来なくなるだろう。

 骨折の痛みは酷いが、それ以上の事が起こっていないのも幸運だ。運が悪ければ今頃動けない程に弱っている可能性もあるのだから。

 何となく、男は確信を持ちつつあった。

 今回、俺は酷い目にも遭っているが、死ぬ程の運の悪さには遭わないようだ。最善の道を選んで行けば、無事に帰れるだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 様々な事を聞かれ、家の中を長い時間調べられた後、騎士達は去って行った。しかし、ライルだけは残った。

 スタックを埋める穴を掘るのを手伝う為だった。リドムは自分一人でやると言ったが、ライルは手伝うと言って聞かなかった。

 二人で黙々と広く深い穴を掘っていると、ライルが口を開いた。

「……なあ」

 それは、戸惑い、言い辛そうな口調だった。

 リドムはこれから続く言葉に身構えた。

「お前、大丈夫なのか?」

 それを聞いてほっとした。自分とフリクトの事を知っていると言われる気がしたからだった。

 作業を続けつつ、少し間を置いて答えた。

「大丈夫じゃあ、ない。けれど、もう慣れた」

 嘘は吐いていない。フリクトが去ってしまったと思っていた時の事もあり、親以外で信頼出来る者がいなくなってしまう悲しみは、少しであるが慣れていた。

「そうか」

 ライルはそれを聞いて、ただそう言っただけだった。


 墓が作り終わり、スタックは埋められ、適当な石が置かれた。

 ふぅ、と息を吐いてリドムは座った。穴掘りも当然疲れたが、足が動かない振りをして作業をする方が疲れた事もあり、複雑な心境だった。

 ライルは隣で立っている。

「付き合ってくれて、ありがとな」

「ああ」

 その単調な、そっけなく返された返事に嫌な予感がした。やはり、ばれているのか。

 ライルはリドムの左脛をいきなり強く蹴った。

 声は出さなかったが、痛みで顔を顰める。そして、ライルはそれを見た。

 リドムと同じように息を吐いて、ライルは言った。

「大体さ、こんな場所に家を建てるなんて言った時からおかしいと思ってたんだよ。馬を持っている猟師は、偏屈な性格でもなければこんな山の近くに家を建てたりしない。作業小屋は別にあるしな。金は掛かるが町の中の方が便利で楽しいのが普通だ。

 そして今回、お前が殺されなかったのもおかしい。奴等は脱出する為に兵士も普通に殺しているんだ。

 30人は既に犠牲になっている。お前を殺さずに気絶させるメリットは、普通なら余り考えられない。

 殺されなかった理由があるとしか考えられない」

 リドムが返す間も入れず、ライルは続ける。

「お前は、偏屈な性格じゃないだろう? 銀鹿、フリクト・シルリェトを失ってずっと感傷に浸っていたいとか、そんな鬱屈した性格でもないだろう?

 そして、そもそも、フリクト・シルリェトと言う、狙われたらまず助からない、お前に味方している化物が居たから、お前は殺されずに済んだんだろう?」

 嘘は苦手なのだ。

「…………ああ」

 ライルはそれを聞いて、呟いた。

「魔獣は自由だ」

 リドムは諦めたように続けた。

「それが人間全体の常識である事を信じられなかっただけだ。俺がこんな所に家を建てたのは、それが全てだ」

 俺の足が動く事が知られたら、「何故」を聞かれる。いや、魔獣のおかげだろうと察しはつくだろう。そうすれば、俺と居たいフリクトは、自由を奪われる可能性が高い。いや、確実とも言っていい。唾液を毎日のように採取され、もしかしたらそれを皮切りに様々な実験が始まってしまうかもしれない。

 また、フリクトは無理矢理戦争に参加させられる可能性も出て来る。

 そして、これから先フリクトのみならず、これからも生まれて来るであろう魔獣全てが自由ではなくなる。

 それが嫌で、俺はここに家を建てた。

 その結果、スタックは死んだ。

「他の奴等も、薄々気が付いているのは結構居る。けどな、お前の性格からだとすると、喋らなければいけない時が来るぞ。

 痛みを感じたって事は動くんだろ? その足。

 何故、お前の動かない筈の足が動く様になったのか。これから先もメルトライとの戦争は続くんだ。私利私欲の為に来る輩が居ないとしても、お前のように四肢のどれかが動かなくなる人間が生まれる事は必然だ。

 それが動くまで回復する方法があるならば、縋って来る奴は出て来る。俺だってそうなったらお前に、フリクト・シルリェトに縋りたい。

 お前は、それを拒めるのか? その治った理由も秘密にしておきたいんだろう?

 これからも一緒に暮らすなら、それも考えとかなければいけないぞ」

 リドムは黙った。

 ここを去りたくはない。けれども、黙っていたい。

 どうすればいいのだろうか。

「……考えておく」

「今年の冬までには決めておいた方が良いぞ」

「……分かってる」

 今年は大した暑さではない。メルトライが戦争を仕掛ける可能性は少ないだろう。しかし、3国の王が殺されたという事実を持って、3国がメルトライに攻め込む可能性もある。

 リドムにとっては、メルトライが起こした行動は馬鹿らしいとしか考えられなかったが、何を望んでいるか、そう言う人の心の内を知る事が出来ないのも確かだ。

 ……こんな馬鹿らしい事でも、立派な真意はあるのかもしれない。

 ただ、俺にとって重要な事は、そんな真意とは関係無い。2年前と同じく、大義とは比較にならない俺自身の小さな事を悩んで決めるだけだ。

「すぐにでも、決めるよ」

 少し小さな声で、リドムは言った。

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