邪魔すんな
借家に帰ると、既に何人かは外に出ていた。
銀鹿に乗っているリドムを見て誰もが最初は驚いたが、次にそれぞれが浮かべた感情は、大体が羨ましさだった。
敷地内に戻り、銀鹿はリドムを降ろした後に、騎士達の間を余り気にせずに通り過ぎる。
隅の方で座り、走っている間もずっと咥えていた籠を降ろし、中の物を悠々と食べ始めた。
すぐに、リドムの方へ人が集まって来る。馬鹿騒ぎに参加していないとは言え、リドムは敬遠されるような人柄では無い。
とは言え、市場に居た時と同じような質問を繰り返されるのには辟易した。
1回話した後は、適当にあしらって中に入ろうとしたのだが、1人が執拗に付いて来る。
「何だよ、トルチョ。俺は飯を食いたいんだが」
リドムより何歳も年下の彼は聞いてきた。
「どうして、あなたが選ばれたんですか?」
「さっきも言っただろう。俺が一番最初に外に出たからだよ」
「たった、それだけの理由で……納得出来ません」
何だ、不満なだけか。
こいつに雇われそうにはないな、と思いつつリドムは返した。
「そう言われてもなぁ……銀鹿に聞いてみれば? 人語も理解できるし。俺が不満なら、すぐに鞍替えするだろうよ」
幸運を手に入れたリドムが、そんなに軽く言ってしまう事に驚きつつも、トルチョは、「そうしてみます」と言って、踵を返して銀鹿の元に走って行った。
隣に居たライルが、少し心配そうにトルチョの後ろ姿を見つめる。
「ま、大体あの後の事は想像出来るけど」
のんびりと言うリドムは、銀鹿はトルチョに従わない事が分かっているようだった。
食堂に着いて、椅子に座ると、外から騒めきが聞こえた。それを聞いて、ライルがリドムを見ると、少しだけ笑っていた。
暫くして、外に居た騎士達が戻ってきたが、トルチョは2人に肩を貸されてフラフラと歩いてきた。
ライルが、事情を聞いてみると、どうやら食事の最中に何度も執拗に話し掛けたそうで、怒った銀鹿に角で投げ飛ばされたらしい。
「こうなる事が分かってたのか?」
「ま、きっとそうなるだろうな、とは思ってたね。お前もそうじゃないのか?」
「お前ほどに確信は出来なかったが」
「そうか」
「どうして、確信出来たんだ?」
「確信、までは行ってないけどさ。多分というか、絶対、あいつは人間の為に生きてない。自分の為に、人間を利用して生きている」
「……? もう少し分かりやすく」
「要するに、自分がしたい事をしている間は、誰だろうと、俺であろうと邪魔しないでくれって事。
銀鹿はそもそも、自分が人間より下だと思ってないだろうしね。
トルチョは、自分と銀鹿では、地位としては絶対的に上に立つのを前提に、銀鹿に話し掛けたんだろうな。だから、ああなった。
……うん。あいつと付き合うには、最低でも対等な関係じゃないと駄目だな」
「……そうなのか。いや、それだと、お前がどうしても従わせたい時にはどうするつもりだ?」
そっけなく、リドムは言った。
「あいつが望む物で釣ればいい」
銀鹿の性格も、既にちゃんと掴んでいるようだ。やはり、似た者同士なのだろうか、とライルは思った。
どちらもマイペースだし。
朝食が運ばれてきたので、祈りを捧げてから食べ始める。
やはり卵料理で、スクランブルエッグだった。硬いパンをスープに浸して食べる。
唐辛子が入っていた。あの銀鹿が唐辛子を食べる所は見てみたかったが、やはり、飯を食べる事の方が優先された。
リアルな中世ではないです。
いや、リアルにはしたくない。




