答は自ずと見つかった
鍵は壊されていた。誰もが簡単に入れるようになってしまったドアを、リドムはゆっくりと押し、自身は隣の壁に背を沿わせた。
中からは、何かを食べている音が聞こえた。くちゅくちゅと、噛み切りにくいものを食べている音だ。
リドムはすぐに、それが自分の作った干し肉だと分かった。
嫌な事しやがって、とリドムは嘆いたが、同時にそれはリドムにその泥棒の位置を教えていた。
ただ、それから察せられる事は、泥棒は自分を殺せるだけの自信を持っているという事だった。
「おい。何してるんだ?」
声を掛けてみたが、反応は無い。
ただ、干し肉を噛んでいる音は止まった。
リドムが動かずに居ると、中に居る泥棒が喋り始めた。その声は、2年前、冬に聞いた声だった。
「立派な鹿の角があるのを見て、少しだけ嫌な予感はした。だが、そんな偶然は有り得ないと思っていた」
どうしてこんな所に居るのだろうか、という問いに対してはリドムはすぐに察した。
こいつは国王を殺した一人なのだ。
「偶然ってのは重なるものだろう?」
中に居る奴が余裕なのも分かる。身体能力とそれに併さる技術、それと持っている武器も大概の人より優れているからだ。きっと、あの機械仕掛けの弓も持っているのだろう。
しかし、奴は俺を殺せない。
「ここに来るまでに、鹿の魔獣とは遭わなかったのか。残念だ」
返事は無い。また、干し肉を噛む音が聞こえる。
「俺は、毎日あいつに会いに行っている。大雨の日でも、大雪の日でも。俺を殺したら、お前は死ぬまで追いかけられるだろうよ」
「殺さなくても追って来るだろう?」
リドムは、直後に返されたその疑問に答えるのに、数瞬の間を要した。
フリクトが戦争に関わらないと決めた事と、その結果においてフリクトは自分が無事なら必死には追わないだろうという事を、男は知らないと理解するのに必要な時間だった。
「……ああ」
また、静寂が訪れた。男は干し肉を噛むのを止めていた。
単に気絶させれば、一番脅威である魔獣は追って来ないのでは? と勘付かれてしまったかもしれない。
そのアドバンテージに気付いていなかった事を、リドムは心の中で嘆いた。
そして、リドムが言った直後に男は続けた。
「要するに、俺はお前を気絶させて逃げれば良いんだろう」
確かめるつもりで言った事なのだろうが、リドムは返事が出来なかった。
騙せない。そう、確信してしまっていた。
対面向って嘘を吐くのは苦手なのだ。足が動かない事も、フリクトが居る事も聞かれないから隠し通せているだけで、誰かが確かめようとすればすぐにばれてしまう事だ。
そして、そう思って無言でいた時間が、男に確信を与えた。
どちらも動かないでいた。男は干し肉を食い切ったらしく、耳障りな音も聞こえなくなっていた。
「1つ、聞きたい事がある」
リドムが無言でいると、男は続けた。
「2年前のあの戦争の時、俺がお前に放った矢には麻痺毒が塗ってあった。それは、弓を射る時間なんて与えずに、全身に回って体を縛る筈のものだった。
なのに、お前は弓を射って、俺の動きを強制し、結果、鹿の魔獣に突き飛ばされた。
お前、何をした? 魔獣の力でも体に取り込んでいるのか?」
治癒力だけならな、とリドムは頭の中で答えた。
「……血、ではないだろう? それは俺の国でも確かめられている事だ」
「え?」
リドムはつい、声を出していた。そうだと思っていたのに。
「お前も知らないのか。つまらないな」
知っていたとしてもその情報を渡す訳にはいかないが、リドムは少し混乱していた。
血以外に、フリクトの何かを体に取り込んだだろうか。
そして、自分でも驚く程に、すぐに分かった。
唾液だ。
風邪を引いて小屋で籠っていた時の事だ。メルトライのスパイだったミルトによる爆撃を受け、その時フリクトは俺の腕を噛んで引っ張り、梁の下敷きになるのを防いだ後に、自分の身を盾に小屋の崩壊から守ってくれた。
切羽詰まった状況で重い俺を噛んだ時に、入り込んだのだろう。
治癒力だけが向上したという事にも納得が行く。麻痺毒が効き目を発揮するのに若干の時間を要したのも、多分それによるものなのだろう。
リドムは一人で納得し、男が行動するのを待ち続けた。
待っていれば不利になるのは男の方なのだから。
誰かがここを通ればリドムは騎士達を呼べるし、一晩待ってしまえばフリクトが来る。
ただ、そうはならないであろう事も、リドムは分かっていた。
そして、夜が近付いていた。
酷い間違いがあったので編集。




