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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
二年後。
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幸運に助けられる

 歩いていると、未だに解決しない疑問の事が脳裏に浮かんできた。

 自分が愛用している麻痺毒は、血に直接混じった場合、何か1つでもする前に動けなくなる即効性を持っている。気力でどうにか出来るものでもない。

 なのにあの時、自分が2年前の冬、この脇腹の怪我を負った時。この矢を受けた、鹿の魔獣の相棒だった男は自分に矢を射ってきた。

 一体何故、そこまで動けたのか。

 確実に矢は腕に刺さっていた。奴を視界に入れたのは一瞬だったが覚えている。その腕はだらりとしていた。毒は効き始めていたのは確かだ。だが、動けていた。その飛んできた矢を避けた為に、俺は鹿の魔獣に強烈な突進を食らった。

 ……魔獣なら分かる。俺の相棒である白熊の魔獣、オプシディには普通の毒は効かない。

 何故だろう。あの男に魔獣の成分が入っているとでも言うのか? しかし、どうやって?

 魔獣の血を飲んだとしても、特に何の影響も体には出ない。魔獣の血を人間の血と混ぜたら、最悪死ぬだけだ。

 運良く解毒剤を持っていたとも考えられない。

 結あの時は、あの場に居た魔獣を含む全員が生還するという、運が良いのか悪いのか分からない結果が残った。

 俺は、生きている。 


 脳天に矢を突き刺し、偶に表路地を一瞬だけ通るという単調な作業を数回行った後に、とうとう町の外れが近くなってきていた。

 きっともう、俺の顔の特徴も回っているのだろう。それに、死体が既に見つかっている可能性も高い。死体を隠せる場所が無かったのは困った事だった。

 とうとう、裏路地から出なければいけない時が来ていた。建物の数も疎らになり、所々に小さな畑もある。兵士は屋上や路地の至る所に居て、きっと誰も街から出さないようにしてあるのだろう。建物の中を通ってその包囲を突破する事も難しそうだった。灯りも多く、きっと服を奪って偽装しようと言えども、誰も見知らない顔だと分かるのには時間は掛からないだろう。時間としては稼げるのは僅かだ。平時であれば。

 男は一旦少し戻り、兵士の密度が少なくなった場所まで行った。この町では裏路地を通る人間が多いというのに、未だに裏路地の探索が頻繁に行われていない。まだ、幸運にも死体は見つかっていないのだろう。

 心臓の音が少しだけ聞こえた。今、自分は緊張している。後ろも前も、安全な場所ではない。

 久々の感覚に気分は僅かに高揚していた。

 少しの時間だけ待ち、裏路地を見回りに来た兵士を同じように矢で殺して素早く兵士の服を着込んだ。

 袋から煙幕を全て取り出す。煙幕は、火のある場所で使うと爆発するものと爆発しないものがあった。

 理想を男は頭の中で思い描く。

 屋上に居る弓兵達には、元々の役割である視界を防ぐ為、爆発しない煙幕を撒き、路地に居る兵士達には行動そのものを防ぐ爆発する煙幕を撒く。混乱している状況なら、顔が違くともすぐにはばれないだろう。

 ここまで来る間に馬が駆ける音も聞こえた。多分、伝令用だろうが、煙幕を撒いたらそれを奪って逃げる。自国では馬には乗らないが、訓練はしてある。

 爆発音でどうしようもなく混乱してしまったら困るが、その時は走って逃げるしかない。そうはなりたくないな。

 手に引き金を掛けたまま、弩自体は袋の中に入れておく。ナイフを片手に持ち、煙幕はすぐに使えるようにポケットに入れた。

 不自然な程に膨らむ形になったが、別に使ってから表に飛び出すのだから関係ない。

 呼吸を整えて、男は進んでいった。心音は少しだけ聞こえていた。


 流石にそろそろ死体は見つかっていてもおかしくない筈だ。そう思っていると、馬の蹄鉄の音が聞こえた。石畳には良く響く。

 ざわざわと、声が聞こえて来て、足音が屋上から、そして通りから、自分の方へ聞こえて来た。

 理想とは違うが、集まってくれるならそれも好都合だ。

 目の前の向い角からは松明の火が見えて来る。そして、屋上から声を掛けられた。

「ここ辺りには居ないか?」

 心音は逆に聞こえなくなっていた。こういう時にこそ、落ち着くようにもう体が定着している。

「ああ。あっちから来たが、居なかった」

 目の前から数人がやってきて、言った。

「何だ? その袋は」

 男は隣に置いてあった樽に手を置き、平静に答えた。

「この樽の上に置いてあった。中は単なる食い物だったからよ」

「本当か? 見せてみろ」

「ああ」

 近付いて行く間に、男は計3人の身長を記憶した。上に居た弓兵はまだ自分の方を見ている。

 それに今は、表通りは手薄だろう。

 3人との距離が近付いた瞬間、男は爆発しない方の煙幕を地面に投げつけた。

 驚きの声が聞こえた瞬間には男は走り始め、手にしたナイフで3人の首を的確に切りつけた。殺せたかどうかは分からなかったが、その内死ぬだろう。

 上に居た弓兵が怒声を上げ、矢を放った。しかし、狭い裏路地に充満した煙幕の中、男に当たる筈は無く、矢が地面に当たった音が響くだけだった。

 表通りに飛び出し、すぐに辺りを記憶する。伝令係の馬が居る事、向かい側に裏路地への通り道がある事、普通の兵士と、弓兵が数人居る事。

 真下に爆発しない煙幕を張り、裏路地への通り道には爆発する煙幕を張った。ほんの少し後には爆発を起こすだろう。

 走りながら煙幕を更に数個張り、袋の中から弩を取り出して、馬に乗っていた兵士に向けて射った。ほんの少し前に居た所に向けてだったので、当たったかどうかは分からないが、馬は動いていない。

 走っている間に聞こえたのは怒声と、矢が後ろで跳ねる音、それと爆音だけだったからだ。

 悲鳴が裏路地から、そして馬上から聞こえた。どうやら当たったらしい。それに落馬までしてくれたようだ。今日、俺はそこそこ運が良いのかもしれない。

 爆発しない煙幕を張りながら馬の所まで着くと、男は流れるような動作で馬に乗り、屋上に向けて適当にありったけの爆発する煙幕を投げつけながら、腹を強く蹴った。

 そして、兵士の服と共に奪った、無駄に装飾が施されている細剣を抜き、矢に備えながら煙幕の中から躍り出た。

 兵士が集中的に居る後ろを見ると屋上で爆発を起こし、吹っ飛ばされる弓兵が見えたが、同時に煙幕から出て矢を番え、自分を狙っている弓兵も数人見えた。

 更に目の前にも剣を抜いた兵士が居る。

 馬を横にずらしながら、矢を射り、目の前の兵士の一人の胸に当てた。一本の矢がすぐ脇を掠めていった。

 弾くより全速で逃げた方が良いな。

 そう思うと細剣は捨て、更に残っていた煙幕を撒き散らしながら、男は身を屈め、馬を走らせた。主人に忠実な馬でなかったのは幸いだったなと思い、今日の自分はかなり幸運だと、思い直した。


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