グルメだな
銀鹿は馬を早々に引き離して、田園風景の中を駆け抜けていく。
ふと、後ろを見たら、既に馬が豆粒程の大きさになっていた。ライルは馬に隠れてそもそも見えなかった。
この時間に朝飯前の時間に歩く人は、少ない。
早朝から仕事の人は既に仕事場に居るし、そうでない大体の人は食事の支度やら、身支度をしているからだ。
しかし、路上を歩いている人が皆無という訳でもなく。
騎士が銀色の鹿に乗って駆けている奇妙な光景を見たという人は、少なからず出始めていたのだった。
驚く程短い時間で、市場の前まで到着した。
「動物を中に連れて行くのは、原則禁止みたいなものなんだがな。お前は魔獣だ。許されるだろう」
自分でも屁理屈だと分かりつつも、リドムはそう言って、ライルを待たずに銀鹿と共に市場へ入って行った。
「リドムさん、何だそりゃ?」
屋台の親父が早速話し掛けて来るが、リドムは、「魔獣」、と一言だけ言って歩き続ける。
すぐに振り向いて、「俺に仕える事になってる」と付け加えた。
それから後も、その魔獣に敵意が無い事が分かると次々に人が集まって来て、すぐに1人と1頭は身動きが取れなくなってしまった。
どこから来たの? いつから居たの? 似たような質問ばっかり繰り返されて、最初は撫でられたりしていて機嫌が良かった銀鹿も段々不機嫌になってきた。
証拠に、仕草が荒っぽくなっていて、角にぶつかってよろけている人も既に何人か出ている。
リドムには、その内銀鹿が角で誰かを投げ飛ばしそうな気がしていた。
「なあ、八百屋のおっさん。適当に野菜とか果物とか持ってきてくれないか? 金は払うから」
さっさと用事を済ませて、帰ろう。
「応よ。少し待ってな」
そうは言ったものの、銀鹿も強引に人ごみを分けて、付いて行こうとしていた。
転んだ人が立ち上がるのを待たずに、跨いで勝手に歩き続ける。よほど腹が減っているらしい。
そう言えば、と思い出す。庭も、借家の周りも全く食い荒らされた形跡は無かった。普通過ぎて気付かなかったけれど、人間のモノであれば、勝手に何かを食う事はしないみたいだ。
よほど、人間慣れしているな。
そう思ってから、跨がれた豆屋の子供に謝り、急いで付いていった。
八百屋に着く前に、ライルが走って追いついてきた。
「さっさと行くなよ」
「こいつに合わせてるからなぁ。仕方ないな」
本当は、事を早く済ませたいだけだった。
その後も、何だかんだ言っている内に八百屋に着く。
「俺の金の都合もあるんだからな」
念の為に銀鹿に言っておくが、反応は無かった。
分かっているのだろうか。リドムは少し不安になった。
銀鹿は山になっている野菜の匂いを丁寧に嗅いで、慎重に選んだそれを、いつの間にか下に置いてあった籠に1つずつ入れていく。この場では食わないようだ。
芋や梨、とうもろこし、トマト等を取っていた。八百屋の主人からは、全部良いものを取っていると説明され、半ば申し訳ない気持ちになる。
「おい、唐辛子まで取ってるぞ」
「食えない物は取らないだろ。俺も驚いたけど」
そこそこの量を取って、銀鹿は戻って来た。思ったよりも金は掛からなそうで、リドムは少しほっとした。
金を渡している最中に、主人が言った。
「いやあ、普通の馬とかに食わせるのは少し嫌な感じがするけど、こいつに食わせるのでは、そんな気はしないね」
「そうなのか」
主人は、銀鹿にも近寄り、「また来てくれるかい?」と言った。銀鹿は頷いた。
多分、これから毎日のように来る事になるのだろう、とリドムは思った。
ライルが中央の時計台を見て、リドムを急かす。
「時間が無い。もう行くぞ」
買った物が入っている籠が、八百屋のものだと思い出し、リドムも時計台を見てみた。
新しく籠を買っている時間は無さそうだったので、八百屋に言う。
「済まない。この籠、買う」
「毎日のように買ってくれるならあげるよ」
「どうも」
そうして、帰路に着いた。
鹿が食べるものを調べてみたけれど、どうにもはっきりしなかった。
食べてはいけない野菜とかがあるみたいだけれど、書いた中では無いと思う。
因みにトマトは被害に遭ったというブログを見つけた。
唐辛子も、飼料の中に混ぜ込む事がある、って偶に聞くから大丈夫だと思う。




