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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
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正しさとは絶対に必要なモノなのか

 リドムを叩き潰そうとした魔獣の足元で、爆弾が爆発した。同時に、フリクトの顔に唐辛子の粉末が入った袋がぶつけられ、中身が飛び散った。そして、二頭の魔獣は悲鳴を上げた。

 背中を蹴られたリドムは仰向けのまま滑って行く。細剣はフリクトの足元に捨てたままだった。しかし、これから起こる事を考えると、細剣は別に要らなかった。

 また、男にとってフリクトという脅威が無くなったという事は、リドムが人質として意味を為さなくなったという事だった。今にも、男は毒矢を放つだろう。

 リドムは滑りながら、頭を腕で守った。同時に矢を放つ音が聞こえ、リドムの腕に刺さった。

「うぁっ」

 リドムは木にぶつかって止まった。

 塗られている毒はきっとライルやフェライ隊長に使った毒と同じだろう。すぐに、俺は動けなくなる。

 ほぼ、確実に。俺が、魔獣の特性をフリクトの血から受け継いでいなければ。

 とにかく、リドムにとって重要なのは、動けなくなるまでの僅かな時間で、遠距離攻撃が出来なくなった男に毒矢を当てる事だった。

 腰から、雪まみれになった弓を留めている革具ごと引き千切った。矢を受けた右腕は既に動かなくなっている。しかし、片手さえ動けば良かった。立つまでの時間が絶対にない以上、碌な姿勢で弓を放つ事が出来ないのは分かっていた。

 木に寄り掛かり、足に弓を引っ掛けてから、矢を一本だけ抜いた。今、この瞬間にも体の力が抜けていくのが分かる。

 動かなければいけない。

 矢を弦の中央に番え、先を弓に乗せて、右足と左手で引き分ける。

 そして、リドムは前を見た。

 男は、僅かに意識が残っているフリクトの突進を必死に躱していた。両手に機械仕掛けの弓は無く、一つは既に雪の上で持ち手の部分がへし折れているのが見えた。

 熊もまた、意識が残っているようだった。しかし熊はただ、目も閉じて四足で立っているだけだった。

 フリクトもきっとそうだが、嗅覚に加え、視覚も失っているのだろう。きっと聴覚だけでフリクトの位置を探っているのかもしれない。そうだとすると、捕まるのは時間の問題だ。暴れるフリクトから振り落とされたライルが殺されるのも。

 弓を支える右足と左腕が震える。力が抜けていく。俺が、当てなければいけない。男を戦闘不能にした事を、フリクトに伝えなければいけない。

「狙……え」

 男がリドムに気付いた瞬間、リドムは手を放した。


 鋭い弦音がして、矢が飛んで行く。左腕から力が無くなっていき、右足が重力に従って雪の上に落ちた。

 もう、リドムは動けなかった。瞼が閉じる前にリドムが見たのは、咄嗟にしゃがんだ男の真上を矢が空気を切りながら飛んで行き、その直後にフリクトによって跳ね飛ばされた所だった。

 男は悲痛な叫び声を上げていた。瞼が閉じた後に、盛大に雪の上に落ちた音が聞こえた。

 ……リドムも男も、もう動けなかった。麻痺によって、跳ね飛ばされた衝撃によって。動けるのは、フリクトと熊だけだった。しかし、どちらも聴覚だけを頼りに動いている。

 フリクトに勝ち目はあるのだろうか。二度も爆弾を食らい、それでも熊は全く疲労していないのだろうか。

 瞼も動かせない。もう、フリクトに任せるしか出来ない。

 リドムは、自身が毒を食らったのは初めてだった事に気付いた。



 男を倒せたのは良かった。フリクトは目を閉じたまま、周りを察知した。

 鼻も目も使えず、フリクトは熊の位置を分かっていなかった。少しだけ集中が切れていたとは言え、耳も鼻も万全の状態で背後に居るのに気付かなかった程に、熊は隠密に移動出来る。まるで、狼のように。

 今、自分の位置は掴まれているだろう。男を角で突き飛ばした音、飛んで行く男の悲鳴の軌跡。それらは絶対に自分の居場所を熊に伝えている。そして、弓を放ち、音を出したリドムの位置も分かっているだろう。

 そこまで考えて、フリクトは出来るだけ静かに歩き始めた。リドム同様に動けなくなった男の方へ。

 死にたくないのは誰だって同じだろう? リドムが言ったその言葉の意味は、例え自分達が間違った事をしていたとしても、ただ殺されてやる理由は無い、という事なのだろうか。

 生きる為なら、卑怯な手も使う。そこに正しさは要るのだろうか。

 フリクトは、目を開けた。片足は不自然に捩れ、血を流しながらも、必死に這って自分から逃げようとしている男がそこに居た。

 目は治ったものの、まだ鼻は利かず、フリクトは周りを見渡す。熊はどこに居るのだろう。近くには居ないみたいだ。

 そして、少し見回してからフリクトは見つけた。

 …………考えた事は同じだったようだ。

 熊は、リドムの前に居た。そして、熊もまた、フリクトの方を見ていた。

 どちらもまた、動けなかった。

 もし、立場が同じだったなら、もし、自分がメルトライで生まれていたなら、きっと仲良く出来たのだろうと、フリクトは思った。

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