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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
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最善の選択肢と最良の選択肢は違った

 どの位の時間、熊が行動不能になったままなのか、リドムには見当も付かなかった。それに、復活してやってきたとして、もう一度この爆弾を鼻に当てたとして、どの位効くかも分からなかった。

 麻痺した感覚には、大して効かないのではないか? だから、出来ればこのまま一旦逃げたかったのだが、そうも行かない状況に追い込まれているようだった。

 フリクトがライルの隣で止まる。

 リドムは熊がまだ、暴れているのを確認してから出来るだけ素早くフリクトから降りた。その時、やっとリドムは脚の痛みが消えている事に気付いた。

 脚は結局動かないが、痛みが消えたなら、集中出来る。自分の能力がいつも通りに発揮出来るだけで、かなりリドムはほっとした。

 うつ伏せに倒れているライルをひっくり返し、息が微かにあるのを確認してから、ライルが倒れている原因を見る。

 脇腹に変な矢が刺さっていた。抜けないので分からないが、それは金属製でかなり短く、重そうな矢だった。

 ……これも、きっと毒矢だ。毒も、俺が使っているのと似たようなものだろう。

 矢が突き刺さっているとは言え、刺さった場所が急所でないなら少しは動ける筈だ。死にはしないが、暫くの間、動きもしない。

 但し、それは放っておかなければの話だ。放っておいたら、寒さで死ぬか、敵にやられるか、復活した熊に殺されるかのどれかしかない。それに、リドムは、転々と続いている血の痕も追わなければいけなかった。

 そして問題は、この状況がどういうものなのか、という事だった。リドムは応急措置をしてからライルをフリクトに無理矢理乗せて、自身も乗りながら考える。

 敵は複数居たのか? それは余り考えられない。フェライ隊長はともかく、ライルが周りに居る敵を見逃すとは思えなかった。ライルの索敵能力は知っている騎士の中でもかなり高い方だった。

 ならば、あの木の陰に居た奴にライルが射られたという事しか可能性が思い至らない。しかし、どうやって?

 弓というのは、崩れた格好では全く対象には当たらない。振り向き様に射ろうとしても当たらないだろうし、狙う隙に仕留められてしまう筈だ。

 この木の上からは距離もそんなに離れていないし、ライルは弓が下手な訳でもない。狙おうと顔を出して悠長に構える敵よりは絶対に早く射れるし、外す事も無い。

 どうやって、ライルに矢を当てたんだ? フリクトを歩かせて、敵が隠れていた位置に行く。

 ライルが放ったであろう矢は、雪に突き刺さっていた。突き刺さっている角度と、ライルが居た位置からして、敵が体を出したら確実に当たっているように見えた。

「……分からない」

 足場が不安定な状況で、体も出せず、敵の弓矢も避けて、矢を命中させる方法が。矢が短いのも疑問だ。こんな短いのでは、そもそも弓の反発力を生かせない。

 何か、これら全てを可能にする特殊な弓を持っているとしか考えられなかった。

 そして、仮にそういう物があったとして、その敵はフェライ隊長に仕留められなかった。この血がどちらのなのか分からないが、敵のであっても、かなりの手慣れだ。単なる器用貧乏な自分なんかよりはよっぽど強いだろう。フェライ隊長のであったなら、尚更だ。

 そして、そうであったなら、フェライ隊長は無力化され、人質にされた。

 熊は、まだ悲鳴を上げていた。声は遠くからでも聞こえるだろうが、味方が来る事を期待するよりも、敵が先に来てしまう事を警戒すべきだ。

 ここにも居られないし、フェライ隊長を追わない訳にもいかない。やられたとしたら、今しか助けられない。フリクトが居れば何とかなる。どんな人間でも、一対一でフリクトが負けるのは有り得ない。

 リドムはフリクトに、血の痕を追うように言った。

 フリクトは、不満気になる事も無く、走り始めた。熊の悲鳴の音量が弱まり始めた。


 血の痕はすぐに途切れた。

 それに加え、リドムでも分かる程に変な臭いが充満していた。不思議な事に足跡さえも、途中から無くなってしまった。

 フリクトは走りを止めて、必死に臭いを嗅ぎながら少しずつ進んでいく。リドムも周り丹念にを見てみるが、敵の姿は見えなかった。体を隠せそうな太い木もこの辺りには無く、隠れているという事は無さそうだった。

 熊の悲鳴はもう、聞こえなかった。リドムは手に柄に入れたままの細剣と新しい爆弾を持っていた。

 弓を手に持っていないのは、敵が持っている何かより先に射る事は到底出来ないだろうと判断したからだった。爆弾もまだ、数は十分にあり、使う時には惜しげなく使える。

 フリクトは歩き続けた。多分、もう少しで熊が追って来るだろう。

 ライルも乗せている今、そんなに自由な動きは取れないし、フリクトのスピードも少なからず落ちる。そして、この爆弾が同じように効力を発揮してくれるとも限らない。

 ただ一つの希望は、熊が疲労しているかもしれない事だった。あれだけ暴れて元気なままでは無いだろう。また、五感が鈍っているのも、きっと体に影響する。

「リ……ドム」

 ライルが息絶え絶えながらも、言った。

「何だ」

 ただ、急いだようにリドムは聞いた。死なないなら心配している余裕は無かった。その敵の情報だけをとにかく知りたかった。

「敵が持って……いるの……は、小型の弩……だ。片手で操……作出来て、威力も普通の弓……以上にある」

「フェライ隊長はどうなった? 戦闘音は聞こえてただろ?」

「多……分、…………、……やられた。生きているとは……思うけれ……ど」

 ライルも信じられなかったのだろう。フェライ隊長が普通に戦って負けた事など、リドムも見た事が無かった。

「分かった。もう、安静にしてろ」

 その時だった。強く、雪を掻き分ける音が遠くから聞こえて来た。死神がやって来る。

 そして、木の側で、フリクトがいきなり角を雪の中に突き刺した。

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