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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
39/65

未来は誰も知らない

 リドムは、自分がフリクトにとってかなり脅威な物を持っていても、何も素振りを変えなかったのを少し意外に思っていた。痛みが無くなってから考え、それが仲間の騎士同士が武器を持っていても警戒しないのと同じだと分かると、信頼関係は自分が思っているよりも強固になっているのだと思えた。

 フリクトはもしかしたら、夏以降もそんなに変わってなかったのかもしれない。

 俺が片足を動かなくしてからも、全く何も変わっていなかった? フリクトに騎乗した状態で矢の精度が落ちたのは俺だけが原因だった?

 ただ、フリクトが助けてくれなかったら圧死していたであろう俺が思うのもおこがましいが、俺だったら、助けようとした人か何かがの片足が動かなくなってしまったのは、それなりにショックだと思える。

 ……考えてる事が分かる筈も無い。全て分かろうとするのは、流石に自分のエゴだろう。

 リドムは自分のしている事が良く分からなくなってきた。何故、俺はそこまで全てを分かろうとしているんだ?

 …………ああ。そういう事と近いのか。

 リドムは苦笑した。


 歩いていると、すぐにフリクトは見つかった。もう、近くに行かないとシルエットにしか見えない程に辺りは暗かった。

 フリクトは座っていた。リドムの方をちらりと見た後、また首を戻してただ、のんびりとしていた。

 リドムはその隣にゆっくりと座り、フリクトに寄り掛かった。動物というのは暖かい。

 フリクトは少し不満そうに鼻を鳴らしたが、特に抵抗もしなかったのでリドムはそのままで居た。

「……」

 少しの間、リドムは無言だったが、無言でいると変な感じがしてきたので喋り始めた。

「お前の生血を飲んだ奴は居るのか?」

 フリクトは少ししてから、首を振った。

「……そうか。俺は、飲んだ」

 特にこれには何も反応しなかった。

「お前に助けられた時に、お前も少しだけ血を流しただろ? その時に飲んだ」

 これを言っても、何も反応しなかった。

「それからだ。俺は定期的に体がおかしくなる。睡眠時間が極端に短くなり、その後は体調がかなり良くなる。……まるで、お前みたいだ」

 リドムは、そこで溜息を吐いてフリクトから離れた。フリクトが喋れたら、何と言っているだろうか。

 今はただ、どこを見ているかも分からず、無言だ。

「単に、そういう事も終わるのかもしれない。ただ、もしかしたら、続くのかもしれない。更にその効力は強くなるのかもしれない。まあ、何にせよ、この事は誰にも言う事は無いだろうが」

 まだ、無言だった。何の反応もしない。

「……今日がその日だった。木片が突き刺さった部分が、とんでもなく痛んでいた。今はもう痛まない。それに、足は動かないままだ。

 もし、だ。もし、その足が治ってしまったら、俺はもう、人間と言えるのか?」

 フリクトはリドムの方を見た。いきなり向いたので、リドムは少し驚いた。

 ただ、じっとねめつけるようにして、フリクトはリドムを見続け、そして首を振った。

「……そうか」

 リドムはほっとし、そして少しだけ落胆していたのにも気付いた。

 俺は、こいつを羨ましいと思っていたのだろう。ゆっくりと、人間なんかよりも自由気ままに生きられる、この魔獣を。

 そして、また、とても好いていた。フリクトがどう思っているのかは知らない。そして、これからどうなるのかも、俺は知らない。

「……お前は、……いや、いい」

 リドムは止めておいた。フリクトは、どこかを見続けたまま、その先に言おうとした事に対しては何も聞こうとはしなかった。

 可能性。どんな事にも付いて回る言葉。それを聞くのはしなくて良い。

 ただ、不安になるだけだ。

 神様が居たとしても、それは人間の為に居るのでもないし、魔獣の為に居るのでもないだろう。きっと、誰の為にも神様は存在しない。それでも、上手く行く為には、頑張る他は祈るしか出来ない。

 リドムは座って、空が暗く、黒くなるのを見続けた。良い方向に事が運ぶように。それを、神様という、人間が作り上げた物に祈った。


 その後も、リドムはぽつぽつと喋り、フリクトは偶にそれに反応して何かを返した。

 フリクトは、リドムが自分に縛りを掛けているような気がしていた。行ってしまうのは止めてくれと。

 違うとは、何となく分かっていた。ただ、リドムは愚痴を言っているだけだ。それでも、そう言っているようにも思えてしまった。

 覚悟は出来ているのだろうか。リドムが去ってからも、フリクトはそれを疑問に思った。

 リドムが魔獣の能力を手に入れたとしても、それは魔獣ではない。それでも同族と仲良く出来るのだ。人間だけが持つ適応力によって。そして、獣として誰とも仲良く、そして敵対も出来ない自分にとっての、このどうしようもなく埋まらない孤独は、自分と全く同じ魔獣に出会わなければ解消される事は無い。

 確信している事だった。けれども、その為に失う覚悟は出来ているのだろうか。

 その時にならなければ分からない、というのは嫌だった。リドムと別れる時になるとしたら、別れられるのだろうか。

 答えは、人間でさえも教えてくれない。先祖からの思考を積み重ねて得た知恵を有している人達であっても、それは多分一緒だ。

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