当然の帰結は疑問が出ないのだろう
何で、日記をこっちに投稿したまま1日気付かなかった?
もう、赤面ものだよ。(……教えてくれぇ)
フリクトは、慎重にその香辛料が撒かれた場所を避けて歩いて来た。重そうな足枷と首輪が付けられているのが見えた。
……あんなものを付けられたままでも、かなり速いスピードで走れるのか。どちらにせよ、すぐに外してやらないとな。
ゆっくりと歩いて来るフリクトを眺めながら、リドムは木にもたれかかったまま、ほんの少しは忘れられていた痛みをただ、感じていた。考え事も、今はもう余り出来ない。
フリクトには、正直に言おう。熊対策に必要なものだと。熊と出遭ってしまった時、これが無いと俺もお前も、死ぬ可能性が高いと。
太陽が既に昇り始めていた。リドムは、これからやらなければいけない事に対して、げんなりとした。
今日は忙しくなるだろう。痛みとは問答無用に。
フリクトがやって来た。リドムは木に体を預けたまま、言った。
「隠していてすまん。お前が嫌がるのは分かってた。けれど、これはどうしても必要な物だ。……分かるだろ?」
フリクトは、ただリドムの目をじっと見てから、頷いてくれた。
リドムはその素直な反応に、フリクトも俺が何かしらするだろう事を予想していたのかもしれないと思った。
リドムはフリクトの傍に近寄り、足枷と首輪を外しに掛かった。案の定、鍵は掛かっておらず、単にフリクトの体の構造では外せないようになっていただけだった。片足と角が血塗れになっていたのを見て、少しだけフリクトが連れ去った人間に同情した。
ミルトのその後の姿は見ていないが、何にせよ、フリクトは敵に対しては容赦がないらしいな。
きっと、その人間の頭は腐ったカボチャを踏み潰したようになっているだろう。フリクトの足には、脳の欠片みたいな物がくっついていた。
少し時間を掛けて外し終えると、フリクトはやれやれと言った感じを見せ、全く緊張を残していない様子で足や頭をぶらぶらとさせた。連れ去られようとされた事ももう、何とも思っていないような様子だった。
何となく聞いてみた。
「……俺が助けなくても、自力で逃げられたか?」
頷かれて、リドムは少し落胆した。
その日、リドム達が移動する事は無かった。その理由は、スパイと分かったその男達から出来る限り情報を引き出す為であり、また、行路にも時間的に余裕があった。
個人行動を起こした事をリドムは咎められたが、功績が大きかったのでそこまでは言われなかった。
痛みに耐えながら、説教を聞かされるという苦行をやらなくて済んだ。リドムはほっとしつつも、やはり痛みに耐える事しかする事が無く、長い日を過ごさなければいけなかった。
遠くから悲鳴が何度か聞こえて来たが、それは聞こえなかった事にした。死なないで済むにせよ、ミルトのようにまではいかないだろうが、どのみち普通の健全な生活を送れる事はもう無いだろう。まあ、俺が気にする事ではない。
木に寄り掛かっていると、顔位しか覚えていない、話した事も無い騎士が喋りかけて来た。
「なあ、どうしてたった一人で助けようとまで思ったんだ?」
リドムは答えた。
「足の痛みで思考が麻痺してたんです。今日は何故か、かなり痛いので」
「……それだけでも、大馬鹿野郎とも取れるんだが」
年上らしきその人が言った事は至極全うな事だった。リドムもそれは分かっていた。
「まあ、良い結果が残ったんですから」
単なる好奇心で戦争に無理矢理参加しようとしていると言ったら、呆れられるだろうとも思いつつ。
「結果も結果だが、どうしてそんな物を持っている?」
腰の小物入れを指刺され、リドムは使った爆弾を取り出した。
「これですか……。俺は雪の中じゃ、移動はフリクトに頼るしか無いので。もし、熊に遭ってしまったら、こういう物が必須なんです」
「こんなもので怯むのか?」
その一言で、今度はリドムは呆れた。この人は、動物というものを余り知らないらしい。狩りも殆どした事の無いような都会の方の人だろうと思えた。
「雪の中でさえも、少しでも鼻に触れたら、嗅覚の鋭い動物は発狂すると思うんですけどね。何なら自分の体で試してみますか? 人間でも数日は鼻が使えなくなると思いますよ」
「いや、いい」
その人は遠慮するように手を振って、そのまま違う方へ歩いて行った。
ああ、また退屈になってしまった。
痛みの性でただのんびりとも出来ず、怒られていた方が良かったかもしれないと思う始末だった。
夜が近くなり、拷問を行っていた人達も戻って来た。ただ、得られた有益な情報は全くと言って良い程無く、そしてこの近くに村も町も無い事から、数人を残して後は全員殺したという事を聞いた。特に、誰も疑問を呈する事は無かった。
リドムは、脚の痛みがやっと引き始めていた。ただ、ずっと痛んでいたのにも関わらず、結局脚が動かないままというのは、当然と言えばそれまでだったがやはり少し不満だった。
変に疲れた一日だった。そう思いながら、寝る前にもう一度フリクトに会いに行く事にした。何となく、ライルとでもなく、フリクトと喋りたかった。
もしかしたら喋れないのを良い事に愚痴を言いたいだけなのかもな、とリドムは苦笑した。
信頼の関係は、相互利用の関係でもあるらしい。




