戻ったのか
仲間である騎士達が来たのはその夕方だった。
騎乗しての射撃はまだ本調子には戻っていない事に落胆していたら、足の調子が悪くなってきて、戻って来た所に丁度、到着した所だった。
ゆっくりとフリクトから降りて、リドムは少し遠くからその光景を見ていた。少し、その隊の中に入るのを躊躇って、ただリドムは見ているだけだった。
フリクトは、そんなリドムをちらっと見た後に、適当に草を食み始めた。
メルトライとの国境の内、一番狙われそうな場所、即ち一番危険な場所にリドムを含む隊は派遣される。各所から派遣されて来た騎士の中で、選りすぐりがこの避暑地に来ていた。
そして、リドムと同じ町から来た人は見た感じでは十人にも満たなかったが、その中にはフェライ隊長とライルが居るのが分かった。特に、フェライ隊長の白馬は目立っていた。
他は、そんなに親しくはない人達ばかりだった。ただ、全員フリクトに出会ってから模擬戦で戦った事がある人達だったが。
今更ながら、リドムは少しの緊張を覚えた。
生涯二度目の戦争に、自分は特殊な状態で行くのだ。自分の足のみでは立てず、しかしその代わりとなる魔獣と一緒に戦場に立つ。唯一の、弓のみで戦う兵士として。
好奇心で突き動かされて、ここまで来てしまったのか。得た物も失った物も、今の時点で非常に大きい。……普通、そう言うのは全てが終わってから言える事なんじゃないか?
変な感じだ。
リドムはそう思いながら、木の後ろに隠れた。まだ、心を決めると言うのかどういうものなのか分からなかったが、何かを決めていなかった。彼らとは遠い位置に居るとは言え、フリクトは見える位置に居るのだからすぐに見つかってしまうだろうが、それが決まるまでは隠れていたかった。
目を閉じて、深呼吸をゆっくりと、何度か行ってから背伸びをし、背に掛けていた矢筒を外して木にもたれ掛かった。
上を見上げると、数少なくなった、未だに木にへばり付いている枯葉の隙間から青い空が見えた。夕焼けは既に通り過ぎていて、気持ち悪くなる程の純色の青だった。
そして、リドムはまた息を吐いた。
……誰かが枯葉を踏みつぶしながら歩いて来る音が聞こえる。多分、ライルだろう。
「とうとう、か」
口に出して言った事が、何かを決めた気がした。
もう、大丈夫だろう。
リドムは、木にもたれ掛かったまま、その人が来るのを待った。
夜、リドムは皆と一緒に外に居た。戦争の前に豪華な家に泊まるのは、死を覚悟しているようなものだったので、騎士達はその豪華な別荘があるのにも関わらず、野宿をする事にしていた。戦争は死にに行くものでは無いのだ。
「意外と大丈夫そうだな」
火を囲みながら、ライルがリドムの足を見ながら言った。
「いや、そうでもない。確かに、座ったり歩いたりはそんなに不自由なく出来るようになったけどさ、痛みはまだあるんだ」
「そうなのか」
フリクトは傍には居なかった。注目されるのが嫌だという性格では無い筈だが、フリクトにも考える所があるのかもしれないとリドムは思った。
そして、同一視をしている自分にもリドムは気付いていた。
フリクトが自分を選んだのか、それとも違うのかは教えてくれないが、多分、選んだんだろうな。喋れないフリクトの思考を考える時に自分と重ねてしまう程になってから、リドムはフリクトの出会いをそう結論付けていた。
焼いた芋を削った岩塩に付けて食べる。バターが欲しくなる味だった。別荘の中にはあるのだろうが、もう、リドムは別荘の客人でも何でもない。中にあった道具も革鎧も全て持って来てしまった。
「ま、いいか」
そう呟いて、リドムはもう一口齧り付いた。素晴らしい食事からこんな食事にいきなり変わっても、苛立たしくなるような事でもない。
元々そうだったのだし、単にこれまでは休養だっただけだ。これが普通で、騎士として、また自分としてもあるべき姿だ。
そう思うと、夕方した決心が、休息から戻る為にした事だったと分かった。
フリクトが来たので、残りを食わせた。猫舌なのが今更ながら発覚した。




