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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
32/65

悔やんだって仕方がない

 浅い太陽の光が窓から入って来た。

 避暑地でもあるこの場所は猛暑でも過ごしやすい場所だったが、秋の真っ只中の今は、もう既にその役割を終えている。それどころか、寒さがもう本格的に訪れていた。

 暫くすると寝ていた人の顔に光が当たり、彼は薄らと目が覚めた。横に寝転がるとフリクトは居らず、毛布だけが散らばっていた。多分、外を歩いているのだろう。

 リドムは二度寝する事なく、そのまま起き上がった。

「……ああ」

 未だに慣れない違和感を感じて、自然と溜息が出る。

 毎日のように膝から下の左足が動かなくなったのを思い出し、また毎日のようにこの朝の起きた瞬間に後悔をしていた。どうして、あんな馬鹿な事をしたのか。どうして、こんな事になってしまったのか。

 幾ら後悔しようと、その日まで戻れる事は決して無い。リドムはあの日から何度も自分を嗤った。口から失笑が漏れ出る事もあった。余りにもその声は情けなかった。

 もしかしたらフリクトはこの失笑を聞きたくなくて、朝は自分と居たくないのかもしれないと思うほどに。

 自分がこうなってしまったのは、自分だけの性だ。リドムは他の誰にもそれを押し付ける事もせず、感情をぶつける事もしなかった。

 けれど、この起きた瞬間だけはそうしたい衝動に駆られた。自分としてのプライドがそれを抑えてはいるが、その自分がいつまで変わらずに居られるのか、それがかなり不安だった。

 借家にあるのとは段違いにふかふかなベッドもそれを慰めてくれる事は無かった。

 杖を使い、ゆっくりとベッドから降りて立ち上がった。こんな気分を引きずってはいけない。そして、何度同じ思考を繰り返しただろうかと、思いながら。

 自分でも今年の夏までやってきた毎日の素振りは出来なくなったが、違う事を今はしていた。膝から上は動くならば、一応膝を固定すれば歩けない事もない。杖を使えば、幼児よりは早く歩ける。

 また借家にある見た目も軽そうな机とは全く違う、細かな彫刻が刻んであり、いかにも高価そうな机に立て掛けてあったその足を固定する器具を手に取り、慣れた手つきでそれを足に嵌めた。ここ辺りに住んでいる別荘持ちの貴族を主に診察している医者が趣味で作ったものだが、軽くの操作で膝を固定するかどうかを決められる優れものだった。これのおかげで、騎乗もスムーズに出来る。

 カチリとした音を立て、膝が固定された。それから弓と極寒の冬の為の弓専用の手袋、そして吹雪の中でも出来るだけ飛ぶように設計された特注の矢等を持ち、防寒具を羽織って部屋の外に出る。

 そしてやはり、住んでいた借家とは全く違う豪華さの廊下が出迎えた。

 初めてここに匿われる事が決まった時は、領主の前であったのにも関わらず、声を出しそうになる位にかなり驚いた。足が動かなくなっている事や、風邪が悪化しかけている事も一瞬忘れかけた程だった。位や地位の高い騎士ならともかく、普通の騎士であったならば、誰もこんな場所に泊まる経験などしないだろう。もう、その高貴過ぎる生活にも慣れてしまったが。

 リドムはゆっくりと歩いて、その領主カルロの別荘である豪邸から出た。すぐ後ろには雑木林が茂っており、良質な小さな牧場も傍にはある。それなのに、牧場特有の臭いもしない。

 精神的にはそうではないんだが、物質的に人生で最高の暮らしをしているのは今だろうな。

 リドムは苦笑しつつ、雑木林に向って歩き始めた。


 自分の足で立って射る弓は当然と言うべきかもしれないが、命中率が下がった。1本の木に即席の的をぶら下げて毎朝弓をやっているが、時折足が痛む事もあり、それに気を取られてどうしようも無い時は自分でも驚くほどに命中率は下がる。

 そういう時こそリドムは弓は精神面が一番大事だという事を思い知るのだった。

 そんな事は忘れ、無心で弓を射る。ばす、と気合の無い音が風に揺れる的に響く。中々良い感じだ。足も今日は痛んでいない。風も強いが命中率も足がこうなる前と同じ位に良い。手袋も慣れれば使い勝手はかなり良いものだったし。

 これで騎乗も同じようだったら。

 足で体を支えている訳でも無いし、そこまでは関係ないと思ってはいたのだが、やはり騎乗した状態でも命中率は同じように下がっていた。

 しかも、騎乗していない状態よりも命中率の低下は激しかった。もしかしたら、フリクトとの関係が少し違和感のあるような気がしている事が原因かもしれない、とリドムは思っていた。

 次に放った矢は的を掠めて遠くに飛んで行った。


 領主もここに来た時に毎日食べている、何でも出来る初老の管理人グラムが作る意外と質素な朝飯を食べていると誰かが来た。一応、リドムは客人としての立場であり、こういう受け答えもその管理人が先立って行く。

 微妙に聞こえて来る会話から、来たのは交易商人のようだった。

 どうやらここに来てからすぐにリドムが頼んだ物が、今になってやっと届いたらしい。もうそろそろ戦地に行く時期であったのもあり、リドムは少しほっとした。

 グラムがその拳骨より一回り大きい包みを複数持って、リドムに手渡す。

「どうしてこのような物を貴方が?」

「……交渉材料、とでも言っておきましょう」

 グラムは野暮にこれ以上聞く気は無かったが、聞いても言わない気がした。

 そんな、後ろめたいような言い方だった。 

本当に弓は難しいです。

今はもうやってないけど。

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