爆弾付きの足、か
小柄で筋肉質な体をした、ここの騎士達を束ねる人間が石畳に靴の音を静かに打ち鳴らしながら、料理を持って歩いていた。
行先は約半年前、リドムと話した場所だった。中央の大きな焚火とは離れており、高い花壇の縁が座る場所としても適していて、ゆっくりと誰かと話をするには適した場所だった。
しかし、今はリドムも、魔獣も居ない。その代りにリドムの親友であるライルだけが、半年前と同じようにその場所に居た。ライルもフェライも、明日、ほぼ確実に起こる戦争に行く。
「食うか?」
「いえ。いいです」
ライルはただ1人で、そこに座っていた。彼も、リドム以外にこういう祭りで喋ったりして楽しめる相手が居ない訳ではない。ただ、そうするのは気が進まないだけだろう。
「周りに人は居ないか?」
「居ません」
即答され、フェライは彼が斥候としてかなり質の高い騎士である事を再認識した。光源である焚火からも遠く、視界が効かない中でそう言い切れる自信がライルにはある。果実酒を飲んでから、ライルは喋った。
「あいつ、本当に大丈夫なんですか?」
リドムは、左足が動かなくなった。木片が突き刺さった場所が悪く、足を動かす為に一番重要な部分が切断されてしまっていた。
夏から秋に移り、そして冬が来ようともしている時だ。そんな長い時間があれば、骨折であれども大概は治る。それと、幸いな事に命に関わる程の風邪を併発する事も無かったと聞いている。傷自体は既に大体治っているだろう。
ただ、足が動かないのは治らない怪我だ。普通に考えて歩けないのではもう、騎士として生きる事は無理だろう。普通ならば。
そうなってもリドムは何故か、メルトライとの戦争に出たがった。周りが幾ら止めても、自分はフリクトに乗って矢を射るだけだろう、自分で歩けなくとも戦えると言い張って、自身の意志を曲げる事は無かった。
どうして戦争に出たいのかは、言わなかったが。
「……俺も分からん。どうせ、もう数日後に会う事になるんだからその時に見ればいい」
リドムは、メルトライとの戦争場所になるであろう場所の近くで治療をされている。流石に身動きが殆ど取れない中でスパイが狙っている場所に居させる事はしなかった。
まだ、騎士の中にスパイは居るだろうが、リドムとフリクト以外に重要な事柄はこの町には無い。
戦力となる人間は他の町に比べると比較的多く居るがそれだけだ。ミルトを使ったスパイ探しもしたが芋蔓式のように他のスパイを捕える事が出来た、なんて事も無く、またリドムが襲われた時の手口もそんなに巧妙でなかった事から、この町に多くはスパイは居ないだろうとも領主や、その近くの人々は結論付けた。
その時点でリドムを町に戻す事までは流石にしなかったが。
フェライはライルが返事をしないのを見て、何とはなしに喋り始めた。
「……戦争ってのは、普通、個々の強さはそんなに必要ない。勿論、それも重要な事だが、戦略、規律の取れた行動とか、集団としての強さがそれよりも重要になって来る。
だが、メルトライとの戦争だけは別だ。吹雪の性で視界はほぼ通らず、どんなに加工を施した矢でも長距離は飛ばせない。戦況を指揮官が知る事が出来ない。
リドムが襲われた時に使われた爆弾も、あの吹雪の中では上手く使えない事が多いし、それに雪が威力を半減させてしまうのもある。
集団で行動しようにも、罠が仕掛けられていれば一気に何人も死ぬ事になる」
「知ってますよ。メルトライの戦争だけは、個々の強さが最も重要になって来る、って事は」
「ああ」
どうやら、ライルは気が短くなっているようだ、と思った。上官である自分の話を折る程に。
「リドムは1回目にメルトライとの戦争に参加した時、何故生き残れたと思う?」
「あいつは自分が器用貧乏だと言ってますが、要するにそれでしょう。様々な場面で、様々な事が出来たから、他の人よりも幅の広い行動をする事が出来た。その為じゃないですか?」
「俺も同意見だ。今回は、あいつの足が魔獣に変わった。大雑把に見れば、俺はそれだけだと思うんだがな」
「そう、ですか」
その足は自分の意志で完璧に動かない。だが、弓で戦争に挑むリドムにとっては最大の防御ともなる。
フェライは肉串を噛み千切ってから言った。
「今は考えなくて良いだろう。命令だ。この冬の為に腹が限界になるまで食え。その考える力は冬まで取っておけ。
今年は最も厳しい冬が来るんだからな。幾ら蓄えておいても損は無い」
「はい」
フェライは肉に齧り付きながら去って行った。
「……その魔獣には、まだ分からない点があるんですけどね」
ライルは聞こえないようにして呟いた。リドムからその銀鹿、フリクトについて聞いた事だけが不安だった。
フリクトが何故、戦争に出たがっているのか、その理由は嘘かもしれないのだ。その意思がリドムにとって幸となるか不幸となるか、全く分からない。
魔獣は、人間とは違う。根本的に自由な生物だ。何にも囚われず、人間で言う身勝手な行動も自由として起こす。
幾ら仲が良くなったとしても、リドムを助けた事があったとしても、その点はきっと変わらない。
その足は、爆弾付きかもしれない。
ライルは酒を貰う為に、歩き始めた。




