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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
29/65

こうもやられてしまうとは

 軋む音が連続して聞こえた。夢の砂漠にはその音は似つかわしくなかった。

「……ん」

 リドムはその音で目を覚ましたが、まだ体は怠く、火照っていた。自分が引いた風邪はそう簡単には治らないらしい。

 重い体を腕で押し上げると、ずるりと体に掛けていた毛皮が落ちた。自分を起こした音を立てたであろうドアは開いていて、外からじめじめとした生温い風が入って来ていた。それは火照った体には涼しかった。

 ドアの先に、フリクトが何かを見ているのが見えた。ドアも開けっ放しにして何をしているんだろうか。そう思いながら眺めていると、フリクトの耳がいきなり立った。

 そして、いきなりリドムの方へ走って来た。

 何だ? そう思った瞬間、爆発音が小屋の周りで一斉に響いた。


 支柱の場所に的確に仕掛けられた爆弾は、元々頑丈な作りでも無かった小屋を破壊するには十分だった。

 一斉に支柱は破壊され、屋根が丸ごと落ちて来る。リドムはその瞬間何が起こったか分からなかった。身を守る事も出来ず、崩れ落ちて来る天井と自分を助けようとしてくれているフリクトを眺めているだけだった。

 梁がリドムの真上から落ちて来る。フリクトはリドムの腕を咥えてそのまま小屋の奥へと走って潰されるのを防いだ。周りを囲っていた板が全て倒壊し、フリクトは自分の頑強な体でそれがリドムの無防備な体に当たるのを守る。折れた木材が幾度となく体にぶつかり、そして刺さり、落ちて来た屋根が容赦なくその広い背中を叩きつけた。

 そして、暗闇の中に閉じ込められた。

「う……」

 リドムは状況をやっと理解しつつあった。スパイがやってきたのだろう。何て情けないザマだ。態々風邪を引くような行為をした上に、そこを狙われたとは。

 そんな俺をフリクトは体を張って守ってくれた。……我儘は言えない。フリクトに指示をしなければ。

 魔獣であるフリクトならば、この瓦礫の中からも楽に脱出出来るだろう。

「……ありがとう、フリクト。…………俺は大丈夫だ。

 だから、お前がまだ十分に動けるならだが、さっきまで来ていたスパイを殺さずに捕えてくれ。頼む」

 真っ暗な中では返事を見る事は出来ない。けれど、フリクトは自分の言う通りにしてくれている事は分かった。倒れている自分のすぐ上で、瓦礫を掻き分けて外に出ようとしているのが聞こえた。

 ただ、次の瞬間フリクトはまた瓦礫の中に戻った。同時に爆発がまた起こった。時間差で確実に仕留めるようにもう数個の爆弾が仕掛けられていたのだ。

 瓦礫が揺れ動き、フリクトは大丈夫なものの、更に体に何かが刺さったのを自覚した。

「大丈夫だ。行けるなら、行ってくれ」

 リドムも、一応は大丈夫なようだった。口調も変わらず、血の臭いも、自分から発せられる少しの臭い以外は感じられなかった。

 フリクトはすぐに瓦礫を押しのけて、脱出した。


 走っている内に体に刺さっていた木片は取れた。血も走っている内に止まった。

 怒りは、スパイであるミルトに対して、そして自分に対してもあった。何故こうなってしまったのか。フリクトはリドムの保護者では無いのだが、リドムを無防備にさせてしまった事に対して、また、完璧に守れなかった事に対して怒りが募っていた。

 殺しはしない。殺しは。十二分に痛めつけるだけだ。

 山を出るとすぐに馬が見えた。全力で走っていた筈なのに、その姿を見つけると怒りで更に加速出来た。もう、馬とは比べものにならない程に。

 ミルトが自分の方を向いた。唐辛子の粉末を投げつけられる可能性は、高い。鼻を地面に擦り付け、泥で覆った。勿論、それだけで完璧に防げる訳が無いとは分かっているが、唐辛子への耐性も少しは付いている。

 直撃でなければ、少しは耐えられる自信はあった。

 段々と近付いていく。引き付けられているのは分かるが、正面突破しかする気は無かった。ただひたすらに早く、ミルトを痛めつけたかった。

 至近距離から矢が放たれたが、角でそれを受け止めた。フリクトにとっては楽な事だった。次にミルトは小袋を大量に地面に落とした。爆弾か唐辛子か分からなかったが、落ちる間に何も袋の口から発せられていなかったので爆弾と判断し、爆発する前に道の端を通って躱した。

 後ろで小さな爆発が起こる。足を止めてくれてくれたら嬉しかったのだろうが、そうはいかない。

 既にフリクトはやろうと思えば馬を転ばす事も出来る距離に接近していた。ただ、唐辛子だけを警戒して少しだけ襲い掛かるのを躊躇っていた。

 そして、ミルト自身も唐辛子を投げつけてこようとは未だにせず、フリクトに対してもう一度矢を放った。

 それを角で受け止め、フリクトはその可能性に思い至る。

 ミルトは唐辛子を持っていない。いや、自分が唐辛子に弱いと知らない。

 理由となる事柄はあった。動物が辛さに弱いと知っていても、自分が唐辛子を食べている理由がそれを克服する為だとは知っていない。魔獣だから唐辛子が好きだと勘違いしている可能性は大いにある。それに唐辛子の粉末にやられた事がある事をミルトは知らない。そもそも、自分の事をフォルトルースの時代の事も含めて知っているのはリドムとここの領主、チビのフェライだけだ。リドムの友人であるライルでさえも、詳しくは知らない。

 スパイの情報網で知った可能性がある事は否めなかったが、まだ使わないとは、持っていない可能性の方が高い。持っていたとしても、鼻はガードしてあり、目も閉じればいいだけだ。

 臭いで場所は分かる。耐えられる自信もあるのだ。

 そして、フリクトは馬の後ろ脚に角を引っ掛けた。

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