変だな
喉が焼け付くように渇いていた。行った事も無い砂漠が眼前に広がっている。
歩いても歩いても、眩しく光る砂しか目には入らなかった。暑くて、喉が渇いていて、今にも倒れそうだったが、それでも歩き続けた。不思議と倒れない気がした。
ざむ、ざむ、と砂の上を歩き続ける。本で見て想像したのと全く同じような砂丘や砂嵐が展開されても、一番出て欲しいオアシスはいつまで経っても出てくれなかった。
砂漠の中にぽつんとある、緑の楽園。そう言えば、オアシスでなくとも針の木とも呼ばれているサボテンから水を取れるとも聞いた事があるな。
だが、それに気付いたとしてもそのサボテンすらも見つからないのでは意味が無かった。
ああ、俺はいつまで歩き続けるんだろうか。その時、何かが軋むような音がした。音源は何だと辺りを見回してみるが、周りにあるのは砂ばかりだった。
確か、こいつの名前はミルトだったな。
リドムが寝ているのを見てそっと小屋に入ったリドムの友人は、毛皮を掛けて寝ているリドムの姿を見てフリクトに小さく聞いた。
「風邪を引いているのか?」
フリクトは頷いた。
「ま、こいつの性格からして、昨日も普通にやってたんだろうしな。良いもの持って来たんだ。起きたら飲まさせておいてくれ」
そう言って、革袋に入った丸薬をリドムの傍に置いた。フリクトはその様子をじっくりと見ていた。
夏の前、信頼出来る騎士にのみ教えられた、メルトライに関する情報があった。それはリドムとフリクトにも教えられた。
この中にメルトライのスパイが居る可能性がある、と。
ラインスプルがメルトライに実質的に負けてしまったのも、ラインスプルの騎士の中にスパイが紛れ込んでいて、中から攪乱したからだった。そして、そのスパイ達はかなり長い間ラインスプルの騎士として潜んでいた。
スパイとは思えなかった。土地を奪う為に人質にされた騎士達は口を揃えて言った。
彼らにとっては長い、友人としての歴史があったのだ。
そして、その情報を得てから全ての騎士の身元の調査が内密に行われた。少しでも不確かな部分があったりしたら、それは幾ら騎士としての年月が経っていようが要注意人物とされた。
そして、その中にミルトも入っていた。
……もし、スパイがこのフォルトルースに紛れ込んでいたとしても、戦争中に攪乱するという同じ手は出してこないだろう。なら、何をするのか。
その1つの答えにリドムは予測を出していた。同時にフリクトも同じ事を想像していた。
戦争が始まるまでに自分達は狙われるだろう。
この薬が誰が持って来たかを知らせる術は一応ある。この小屋にも文字盤はあった。ただ、ミルトがずっとこの場所に居たとして、リドムが起きたとしたら。
フリクトは体が弱った動物は全てにおいて弱ると知っていた。思考も鈍り、判断力も無くなる。
リドムはその薬の臭いがする丸薬が毒かどうか、分からずに飲んでしまう可能性がある。それを止めたとして、気まずい思いをするだけなら良い。
問題は、本当にミルトがスパイだったら、だ。フリクトは最初の相棒を失った時の事を繰り返さない為に、毎日のように唐辛子を食べていたが、はっきり言って今、あの唐辛子の粉末を顔に掛けられても耐えられる気はしなかった。
また、意識を失い、暴れてしまうのでは。
そして、騎士のような人間を何もさせずに殺せる自信も無かった。
「じゃあ、帰るよ。今日も俺は訓練があるからね」
何か、その言葉に違和感を感じたが、フリクトはその言葉にほっとした。帰ってくれるならそれで良い。
ミルトはすぐに立ち上がり、軋んだ音を立てながらドアを開けて外に出た。
外はまだ、夜明け前だった。
……ちょっと待った。フリクトはその違和感に気付いた。
訓練があるとしても、すぐに帰らなければいけない程に急ぐような時間じゃない。飯を食ってないにせよ、まだまだここに居られる時間はある筈だ。急ぐような理由が無い。
嫌な予感しかしなかった。外に出るとミルトは既に馬に乗って駆けていた。
何をする為にここに来た? 疑問に思った時、変な音が聞こえた。
どんな場所でも使えるような実用化はまだ遠い、火薬を使った兵器、爆弾。聞こえる音は、その爆弾が爆発する寸前に聞こえるそれそのものだった。
そして、人間とは並みにならない聴覚は、それがこの小屋の周りに複数ある事を教えていた。




