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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
暑さと寒さに苛まれて
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冷えるな

 ……夏は中々過ぎなかった。暑さによって倒れる人も多く、死者も既にかなり出ていた。

 それでも、リドムとフリクトは淡々と訓練を続けていた。正確に言うならば、フリクトはリドムに従って背に乗せていただけで、訓練をしているとは言えなかったが。

 今日も、いつものようにリドムは夜遅くに松明を持って1人で帰り、既に暗くなっている借家に戻る。夜でも異常な程に蒸し暑いこんな夏で、体はそんなに休められず、日に日に自分の疲労は積み重なって、酷くなっている。なのに、星空はいつものように綺麗だった。

 もう片方の手には仕留めた小動物が何匹かぶら下がっていた。大きい狼や鹿は山に置いて来てある。早朝に他の人が取りに来てくれる手筈だった。

 星空を見上げながら、乾ききった道を歩く。もう、暑さで頭を働かせるのも面倒になりつつあった。山に籠っている最中でさえ、既に直感で動いている時が多い。こんな茹だった状態で山なんかに居たら、その内蛇に噛まれてしまうんじゃないかと思うが、今の所は特に大した怪我もしておらず、蛇自体も見ていない。

 このまま、弓だけに心血を注いで夏は過ぎていくのだろうか……。けれど、それは少し不安があった。

 初めに鹿を仕留めた時、リドムは心底しまったと思った。根本的に違う部分があるとは言え、同族を殺した。けれど、フリクトは特にそんな大した反応を見せる事は無かった。

 見せる事はしなかった、のかもしれない。どちらにせよリドムは聞く事を恐れた。聞けないまま、リドムは今も同じように全ての獲物に対して弓を放っている。

 もしその時気付いて、それからずっと鹿を見逃していても、きっと今と同じように悩んでいるだろう。働かない頭でもそれは分かる。……フリクトは自分自身の事を何に近いと思っているのか。人間? それとも獣?

 何となく、それをそのままにしていては不安があった。どう不安があるのか、上手く言葉にして表す事は出来なかったけれど。

 人間同士の事が完璧に分からないのは当然。言葉で簡単に意志疎通が出来る同族でさえもそうなのだから、魔獣の気持ちが分からないのも当然だ。ただ、分かろうとする事を放棄してはいけない。

 まだ、フリクトは自分に対して何か大切な事を隠している。それは、戦争が始まる前までには聞き出さなくてはいけない。

 ……フリクトが嫌がるとしても。また、自分達に不利益があろうと。


 借家に戻ると既に灯りは殆ど消えていた。

 毎日持って帰っている獲物を捌いておく為に料理人が待っている。鮮度が落ちない内にすぐに解体をして保存処理するそうだ。リドムもそういう事をやった経験は幼少の頃にあるが、もう基本的な血抜き位の事しか覚えていない。解体を手伝おうとも、ただ足手纏いになるだけだろう。

 ドアを開け、その足で中肉中背の顔も普通な料理人に獲物を渡した。外見とは裏腹に、結構質の良い料理を作ってくれる。

「毎日こんな遅くまで済まんな」

「いやいや、おかげで金が浮いて助かってます」

「それはどうするんだ?」

「まだ、決まってませんよ」

 大体の場合は家内の為に何かしら使っているそうだが、その浮いた金を使って稀に豪勢な料理を振る舞ってくれる時がある。ここの使用人達の給金が余分に多い時自体も少なく、それは数年に一度だが、ここに居る騎士達の密かな期待であったりもした。

 リスの小さな体に刃物を入れていくのを見てから、リドムは水を浴びにまた外に出た。……すっきりして、早く寝なければ。


 次の日。その日は今までの日照りの鬱憤を晴らしてくれるかのように、大雨が降っていた。

 しかし、そんな天気でもリドムは同じように山へ行き、フリクトに乗って弓を射っていた。とっくに体は冷え切っていたが、ただただ、リドムはその日も無心になって周りの環境を感じていた。

 遠くでも何かが動く感覚がすれば、そこにすぐに狙いを定め、射る。何が起ころうとも、やる事はそれだけだ。

 太陽が見えない日は、時間を測る術が無い。それに大雨の中、雨宿り出来そうな場所も殆ど見つからず、休む気も起きなかった。ただ淡々と続けていた方が楽に思えた。

 フリクトがゆっくりと山の中を歩き回る。雨の日、どの動物もそんなに移動したりはしないだろう。こんな雨の日にずぶ濡れになっていたら、あっという間に体温を奪われて体調を崩してしまう。その隠れている動物達をリドムはずぶ濡れになりながら、探し出し、仕留め続けた。

 ただ、獣がやって駄目な事を、人間がやって駄目な筈が無い。当然の如く、暗くなり始める頃にリドムは熱を出していた。気付くと、フリクトに乗っているだけでも辛かった程に。

 どうやら、今日は帰れそうにない。

 

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