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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
色褪せない過去
24/65

嘘っぽい気がするな

 松明も付けず、フリクトの嗅覚のみを頼りにしてリドムは借家に帰っていた。

 リドムは無言だった。フリクトの背に乗せている樽が落ちないように手を乗せ、ただただ歩いていた。

 フォルトルースとメルトライの戦争の最中、魔獣と対峙させたと思ったら、突如として騎者と共に消え、死んだとも思われていた魔獣。それが今、隣に居る魔獣だった。

 領主カルロが言った、フリクトがもしかするとメルトライのスパイなのかもしれない、という事については即座にフリクトは身振りで否定したが、肝心な、この魔獣が何故戦争に参加しているのかという問いに関してはリドムを含めて誰も知らない。フォルトルースからの情報でも、フリクトは気紛れで参加していた、という事しか書かれていなかった。

 だが、気紛れ、とはリドムには到底思えなかった。領主もそう思っていた。

 そして、領主から言われた事は、それがはっきりするまでメルトライの戦争には参加させず、また給与も元に戻す、という事だった。

 リドムは別に戦争に積極的に参加したい訳ではないが、騎士である以上、参加する事に対して嫌な気持ちも抱いていなかった。だが、今は違った。フリクトが戦争で何を求めているのか、それを知りたくて、戦争には参加したい気持ちだった。

「……聞かせて貰ってもいいか?」

 リドムは暗闇の中、フリクトの身振りも見えないだろうに聞いていた。

 手を乗せている樽ごしに、フリクトの身振りが伝わって来る。頷いてくれているのが何となく分かった。


 誰も居ない借家に着く。鍵は厩舎の中に隠してあり、フリクトの背から酒樽を降ろしてリドムはそれを取りに行った。限りなく真っ暗に近い夜でも、星は光っている。灯りから離れて時間が経った今、ほんの少しだけ周りの様子がリドムには見えていた。

 愛馬スタックとは、今でも週に一度はリドム自身が乗っている。その日以外も、いつもは馬の世話をしているだけのここの使用人達が乗っていて、リドムが毎日に乗っていたような距離に負けない位に走っていた。

 ただ、リドムが余り自分に乗らなくなった事にスタックは少なからず不満を抱いているようで、無愛想になっているのがリドムには感じられていた。

 ブルル、と厩舎の中の馬が鼻を鳴らす。色んな馬の頭を撫でながらリドムは厩舎を歩いた。どれが誰の馬だかは分からないが、スタックだけはすぐに分かった。

 撫でようとしたら、鼻で腕を突かれた。

 乗る頻度を増やした方が良いかな。そう思った。

 

 鍵を外し、玄関にあるランプに火を付けた。

 咥えていない時間の方が短いフリクトの籠にそれを入れ、リドムは酒樽を持って自室に向った。後ろから角をあちこちにぶつけながらも、フリクトが付いて来る。

 フリクトが来る前と比べてリドムの自室で変わった事と言えば、フリクトと会話する為の文字盤と、上質な毛布が加わった事だけだった。毛布はフリクトがリドムに買わせたもので、外で寝ない時はそれに乗って寝ている。贅沢な事だ、とリドムはそれを見る度思っていた。

 酒樽を置き、玄関から持って来たランプは火を消して玄関に戻しておき、自室にあるランプに火を灯す。ほんのりと部屋が明るくなった。

 そうした後に、リドムはベッドに座ってフリクトに話し掛けた。

「……さて、これまではお前の時系列に沿って話を聞いて来た。金もたんまりあるし、冬は遠い。俺はお前がどうしてここに来たのか、カルロさんの話も聞いて凄く気になっているが、お前が好きなように話して良い。そのままお前がハリクルに出会ってからの事から続けても良いし、俺やカルロさんが知りたい事を先に話しても良い」

 フリクトは、足を動かして文字盤に触れていく。

 リドムはそれをじっと見つめた。最初に出した単語は、“ハリクル”だった。



 夜遅くまで続いた祭りが終わり、この借家にも次々と人か帰って来る頃にはリドムは既に寝ていた。

 フリクトが戦争に参加したい理由は、端的に言えばかなり短い文章で纏まった。

 --ハリクルがメルトライの兵士の一人に殺された。そいつを殺したい--

それだけだった。フリクトはそれだけを文字盤で伝え、後は座ってリドムを見ていた。

 リドムの幾つかある推測の内にそういう事は入っていたが、いざ言われてみるとどうにも腑に落ちなかった。考え方によっては辻褄は合うが、合うだけであって本音とは違う気がした。

 そもそもラインスプルに行くかどうか迷っていたあの日のフリクトからは、その復讐という感じは見られなかった。動物、ましてや魔獣の表情なんて良く分からないが、あの時のフリクトはそんな恨みなんて見れなかった。何というか、弱々しい感じがしていたとリドムは思っていた。それに、半年位の間一緒に過ごしていたが復讐者のようには見えない、というのもあった。

 ただ、考えるとしては時が遅かった。考えるのは明日以降にしよう。そう思って、リドムはすぐに寝る事にした。

 寝たのを確認すると、フリクトは目を閉じた。

 

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