流石に寒いな
祭の絶頂はいつの間にか過ぎたようで、賑やかな雰囲気は少しずつ冷めていっていた。
リドムとライルは、フリクトが持って来た籠の中にあった干した果物を少し貰って食べていた。二人と一頭に話し掛けて来る人達は少しばかり居たが、独身として生きている彼らに何かを感じるのか、そんなに深い話はせずに、長い時間話す事は無かった。
そんな中、いかにも高貴そうな服を着て、フェライを連れてやって来た人が居た。ここの領主、カルロ・リシャールだった。
リドムとライルは少し酔っていたが、すぐに立ち上がり、敬礼をする。
「フリクト・シルリェト、か。聞いた通りの外見だ」
何故、それを知っているのですか? そうリドムは聞きたくなったが、易々と質問をして良い立場では無い。黙ったまま、リドムは敬礼を続けた。
「都から来た情報だ。フォルトルースに居た事も分かっている」
フリクトは食べるのを止めなかったが、耳を立てていた。カルロはそれを気にせず、続けて言った。
「ライル・パンパ。一旦ここを離れてくれないか? 彼とだけで話をしたい」
「はっ」
そう言って、ライルはすぐに背を向けて暗闇の中に歩いて行こうとした。
「盗み聞きは厳禁だぞ」
フェライは念を押した。ライルが斥候として有能である事は周知の事実であった。
「分かってます」
振り向いて言った後に、ライルはすぐに見えなくなった。念の為、フェライが周りに誰も居ない事を確認してから、カルロは口を開いた。
「フェライから、貴方はフリクトについて色々と知っている事を聞いてます。何の手段でそれを聞いているかも、気になる事は気になりますが、それは置いておいて」
そして、リドムの前に紙束を渡した。
「これがフォルトルースが纏めた、フリクト・シルリェトに関する全ての情報です。私は既に全て読みました。欲しいですか?」
リドムは、少し考えてから言った。
「……いえ」
「そうですか。……仲が良いというのも本当の様ですね。ですが、言っておかなければいけない事は言います」
カルロがフェライを従えて、去って行った。それを見届けた後、リドムは長く、息を吐いた。領主と一対一で話したという緊張と、話していった内容が、リドムを精神的に疲れさせていた。
少しして、ライルが戻って来た。片手には双眼鏡を持っていた。
「もう少し明るい場所に居れば、読唇術が使えたのに」
勿論、フェライが周りに居ない事を確認してからの台詞だ。もし、聞こえたら何をされるか溜まったものではない。
リドムは、それを無視したように言った。
「……先、帰る」
疲れているその声を聞き、ライルは事情を聞こうとするのを止めた。
一体、何を言われたんだろう。
ライルは、フリクトの背中に酒樽を上手に乗せるリドムを見ながら、思考に耽った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
騎士ハリクル・トルレとの生活も順調で、フリクトもかなり質の良い生活を送っていた。この頃には文字も覚え始め、自分の名前もどう書くか覚えていた。
秋の初めに、一人と一頭は領主に呼び出された。今年は天候が怪しい。先にメルトライとの国境で警戒をしていてくれ、との事だった。
フリクトはそれを喜び、そして少しの不安にも苛まれた。今までの中で一番危険な場所に行くのだ。人間の集団としての強さを知った今では、平静ではいられなかったし、また、長年待ち続けていた願いが成就する可能性があったのも、それに加わった。
初雪が降る頃、指示された場所に着いた。馬に乗っている人は居ない。これから来る寒さに馬は耐えられない。騎乗して動けるのは、ハリクルだけだった。
ただ、他の人も馬が無いとは言え、何もなしでは雪で体が埋もれてしまうこの場所で素早く動けるようにはしてある。
足にスキー板を付ける事によって、埋もれる事無く雪の上を移動する訓練もきちんと積んでいた。
ハリクルがする事は、唯一騎乗した状態で滑る事なく、雪の上に高く体を出せ、足場を安定出来るという点から、弓での狙撃が主となった。
フリクトにとってそれは敵を近くで多く見れないという点からして残念な事でもあったが、我慢する事にした。
遠くからでも敵は見える。魔獣が居たら、すぐに分かるだろう。
雪の中、一人と一頭は訓練に勤しんだ。
そして、強風が一層強くなり地吹雪が起こった時に、不意に戦争は始まった。




