表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
1.良く晴れた秋の日
2/65

雇ってください

 男はドアに背を付けて、一度深呼吸をした。

 待て待て、何故、鹿が居る? そもそも、銀色の毛皮だったぞ。

 そこで、男は1つの可能性に思い至る。というよりも、それしかなかった。

 あの鹿は、魔獣だ。


 魔獣。

 それは、奇妙な存在だった。

 生まれた所は誰も見た事が無い。体躯も普通の動物とそんなに変わらない。だが、体の色だけは普通の動物とは違う。また、かなり強靭な体と、人間並みの高い知能を併せ持ち、人語も理解する事が出来る。

 今でも研究は進められているのだが、上記したような大まかな共通点以外、まだ殆ど何も分かっていない。


 何故、魔獣がここに来ているのか。男には皆目分からなかった。

 さて、どうしたらいいものか。そう思って、指を顎に持って行って考えようとすると、今度はノックが聞こえた。

 コンコン、と至って乱暴ではなく、人が普通にノックをするように、だ。

 男はまたもや硬直した。魔獣である事は間違いなかった。

 思考があらぬ方向へ走り始める。要するに、男は現実逃避をし始めた。

 今日の朝飯は卵料理なら、スクランブルエッグか、ベーコンエッグか、何だろうな。

 もう一度ノックがされた。男は現実に戻された。どうやら、外にいるソレは、男を急かしているようだ。

 男は少し考えてから、きっと害意は無いだろうと思い、恐る恐る、ドアをもう一度開けた。

 やはり、見たものは間違いでは無く、そこに居たのは銀色の鹿だった。立ち上がっている姿はかなり大きく、角も、今まで見た鹿のどれよりも立派だった。

 けど、男の関心はすぐに鹿自体から逸れ、鹿が首から提げている木の板に向く。

 くい、と鹿が首を動かした。どうやら、その木の板を調べるよう言っているみたいだ。

 男はやはり、恐る恐る鹿に近付き、その板に手を付ける。


 ――馬より役に立ちます――

 ――美味しい食べ物を鱈腹と、良い寝床で雇ってください――


 そんな事が板には書かれていた。

 男にとっては、本日3度目の硬直をした。

 前代未聞の出来事ではない。魔獣が人間に仕える。そういう話は聞いた事があるが、かなり珍しい出来事であるのは確かだった。

 こんな運が舞い込んで来るなら、宝くじでも当たればいいのにと、心底男は思った。

 害意が無い事も分かり、かなり驚いたものの、幾らか男は落ち着いた。宝くじが当たる方が良かったにせよ、男にとって幸運が舞い込んで来たのは確かだったし、使う当ての無い金も沢山溜まっている。

 どれだけこいつが大食らいであったとしても、何年かは雇ってやれる位の金は十分にある。

 男は立ち上がって、鹿をもう一度見てから言った。

「まだ試しだが、雇ってやろう」

 そう言うと、手の甲を舐められた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ