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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
色褪せない過去
19/65

傷を舐め合っていたのかな

 リドムが考えていたのと同じく、フリクトも張り紙を見てからずっと、考えていた。自分は行くべきか、行かないべきか。この建物の隅の風の当たらない、良質な藁が敷かれている所に座り、どれだけ食べても慣れない唐辛子を食べ続けながらも。

 既に、この大きな借家は静まり返っていた。しかし、まだリドムは起きているだろう。気が抜けているようで勘は鋭い自分の雇い主は、これから自分が何をしようとしているのかも勘付いているに違いない。

 今日のリドムの挙動は、何か違和感を感じられたから。

 フリクトは思い返していた。自分が戦争に参加したい事は初日でばれた。だけれど、それに頷きたくなかった。それに頷いてしまったら、自分が何の為に戦争に参加したいかも全て見透かされてしまいそうな気がした。

 人間は、寂しい事を寒さで例える事がある。フリクトは、その寒さから解放されていない。心にも、春のような暖かさが欲しかった。

 唯一、それを手に入れる望みが戦争にあった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 数年が経った後に、老婆は死んだ。

 いつも通り普通の朝が来ても、老婆が起きなかった。フリクトが不思議に思って老婆に鼻を当ててみたら、既に老婆は冷たくなっていた。

 その瞬間、隠れていた孤独がフリクトに襲い掛かった。人語を理解出来るようになってから、フリクトは様々な事を学んだ。

 自分が魔獣という存在である事、寿命が無い事、本当に珍しい存在である事。自分を知る為に人間に出会い、そして自分以外に魔獣というものを見た事が無いと言った老婆の言葉で、フリクトは孤独を感じざるを得なかった。

 森の中で感じていたよりは、孤独は薄い。意志疎通出来る相手が居るという事はフリクトにとって、とても癒される事だった。しかし、孤独感は消え去らない。自分と同じ、魔獣に出会わない限り、この孤独は満たされないだろうと思った。

 老婆と一緒に居る時、老婆の話を聞いている時でも、それは心の片隅を占めていた。ましてや、自分だけになった時は、それが心を支配しようとまでしていた。けれど、自分と心を交わせる老婆が居ると言う事が、それを和らげていた。

 老婆が死に、自分が生物として全く違う事を今までにない程に強く実感させられた。自分には寿命が無いという事が、眼前に突き付けられていた。何年が経っても、自分に起きる変化は角が生え変わる事だけ。季節と同じように、それは恒常的な変化であり、成長、老衰といった変化はフリクトには無縁だった。

 フリクトは、老婆が死んだ事を嘆き、悲しんだ。しかし、それを越える孤独がフリクトを最も悲しませたものだった。


 葬式は行われなかった。老婆は天涯孤独だった。子供は病で死に、夫には先立たれ、兄弟姉妹も居なかった。

 老婆は往生した家と共に火葬された。ガラスが割れ、中の全てが燃えて行き、それは灰となって舞い散り、空と同化した。死んでから、魂は空の彼方に行くと考えられており、肉体は灰として付いて行かせる。それが人間流だった。

 炭となった、数年を過ごしてきた家をフリクトは呆けたように眺めていた。焦げた臭いが鼻を突いていた。

 暫くそうしていると、一人が近付いてきた。最初は自分を恐れたように見ていたが、それでも普通に接してくれるようになった一人だ。

「燃やす前に、家の中を点検してみたんだけど……こんなのが見つかった。老婆が死ぬ前にお前に渡すつもりだったんだろう。これを首に掛けて人に見せれば、ここに来た時のような事は起きないと思う」

 フリクトの目の前に小さな紐付きの板が手渡された。この時まだ文字までは読めなかったが、その人が持っていた板からは老婆の匂いがしたので、そのまま首にそれを掛けて貰った。

「馬より役に立ちます。美味しい食べ物を鱈腹と、良い寝床で雇ってください、だとさ。これで相手が承諾すれば、その二つは保障されるだろう。だが、お前が老婆を手伝っていたように、何かしら人の為に働かなければいかんが」

 フリクトは、老婆が孤独だったのを知っていた。また、老婆もフリクトが孤独だった事を分かっていたのだろう。老婆は、自分と死別しても、フリクトは森へは帰らないと確信していた。そうでないと、こんな物作っていないだろう。

 フリクトは目を瞑った。強く、長く。そして、決心した。

 ここから去ろうと。だが、当然、森に帰る訳でもない。自分は本当の孤独から抜け出したかった。自分と同じ魔獣に出会うまで歩き続けようと、フリクトは決めた。

 立ち上がり、その男に頭を下げ、フリクトは背を向けた。

 男は、ここから去ろうとするフリクトに声を掛けようとしたが、止めた。男には、フリクトは単に気紛れでふらふらしている魔獣に見えていた。ヴェナリばあさんの所に居たのも、その気紛れだったのだろう。

 自由って良いよな。

 男は見当違いの事を思いながら、銀色の鹿が地平線へ歩いて行くのを見続けた。

毎日投稿が辛くなってきたぞ。

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