何となく分かってきた
銀鹿の走り方には癖があるが、別段それが強いという事も無く、そこまで強く違和感を感じる事は無かった。
その為、騎乗した状態での射撃も数刻の練習で、馬に乗っている時と同じ質で出来るようになった。
日が沈み始めた頃、銅鑼が鳴った。集合の合図だった。
全員が集まり、模擬戦闘に入る。リドムは溜息を吐いた。
今日、最も注目されるのは自分だろう。
ここの騎士達の監督官であり、自らもかなり位が高い騎士であるフェライが、白馬に乗っていつものように大声で騎士達に話をする。
「さて、リドム・クアッツが魔獣を雇ったのは既に周知の事実であるだろう」
そう言われるのは予想できた事だが、最初にそれを言うか。
リドムは呆れつつも話を聞く。リドムの隣に居る銀鹿は、耳を立てながらも籠の中に顔を突っ込んで野菜を食べている。
いいよな、お前は。人間のきちっとした部分には参加しなくて良いんだから。
「ただ、その魔獣がどの位の戦力になるのか。それがまだ分かっていない。人を投げ飛ばす力を持ち、馬よりも速く走り、犬のような優れた嗅覚をも持ち合わせるとしても、実戦で役に立つかは別物だ。
しかし、だ。
その角で突かれれば馬でさえも、戦闘に出れなくなってしまうかもしれん。投げ飛ばされれば、打ち所が悪ければ死んでしまうかもしれん。それを承知で戦う者は居るか?」
そこで、フェライは一旦口を閉じた。途端に周囲は騒めき始める。リドムは溜息を吐くだけだった。こうなる事も、予想は付いていた。
銀鹿も、耳を畳んでいるだけだった。意味のない喧騒は聞く価値も無いのだろう。
騒めきが収まらない中、フェライは大声で言った。
「もし! 勝ったとしたら!」
一気に静まり返る。
「今月の給与を倍にしよう!」
歓声が至る所から上がった。ただ、リドムはもの凄く嫌な予感がした。その、倍にする為の給与は俺の給与から出されると、フェライ隊長は言ってるんじゃないのか? ここまでは、予想が付かなかった。
リドムは銀鹿をもう一度見た。銀鹿も、リドムの方を見ていた。
「……俺も頑張らなくてはな」
銀鹿は頷いた。
話が終わった後に、リドムはフェライの元へ行った。確認と、それが当たっていた場合の譲歩をして貰う為だ。
「何だ?」
ライルと同じ位の背丈なのに、滲み出る威厳に加え、白馬に乗って見下ろされているので、どうしてもほんの少しは畏縮してしまう。
「俺にはリスクしか無いようなのですが。そもそも、給料が倍になった場合、その給料はどこから出るのですか?」
「お前の給料からだ。だが、全額ではない。魔獣を持っている騎士は、基本給が3倍になる」
「えっ」
驚く間も無く、フェライは続けた。
「だが、もし、万が一。万が一、お前が負けても、給料の三分の一が減らされるだけだ」
ただ、それは、負ける事は許さないと言っているのと同義だった。
「……分かりました」
「ならば行け。すぐに始めるぞ」
「はい」
敬礼をして、訓練用の武器庫に向う事にした。
歩きながら、リドムは銀鹿に話し掛ける。
「お前が今朝見たように、俺は素振りを毎朝のようにやっている。ただ、剣の腕前は中の上って所だ。特別上手い訳じゃない。
ただな、騎士となる前の見習い時代に、全ての武器を一応扱う。大概の奴は得意不得意がはっきりと表れるものだが、俺はあんまりそう言うのが出なかった。所謂、器用貧乏ってやつだな。
で、俺も戦争には1回だけ出た事がある。北の国、メルトライと戦った。
そこで一番良かったのは、封じる、叩く、切るの3つの組み合わせだった。遠距離から敵の動きを少しだけでも封じ、そこを叩き落としたり、切り裂いたりして生き延びた。
卑怯、と偶に言われるが、器用貧乏な俺にとってはそれが一番良い戦法だ。今回もそれをしようと思う。
今回は、一対一だ。俺が使うのは細身の剣、ハンマーやハルバード等の間合いが広い武器、それと投げ物か何か。
最初に俺は遠くから攻撃を仕掛ける。それで怯んだりしたら、その瞬間に突進。駄目で、もし相手が突進して来たりしたら、こっちも突進。同じく遠距離からの攻撃をされたなら、回り込む。
お前を最大限に生かしたやり方もあるんだろうが、今回は俺に従ってくれないか?」
銀鹿は少しした後に、頷いてくれた。ただ、その少しの間はリドムから見ると、自分の戦い方が銀鹿自身にとって有利かどうかを考えているものでは無かった。
今はそれを聞く時ではないが。
「ありがとう」
武器庫はすぐ近くだった。
「じゃあ、ここで待っていてくれ。支度をしてくる」
まず、革鎧を着て、胸当てを付け、兜を脇に抱える。使うのは、刃引きされた剣や、柔らかい布で包まれたハンマー等、傷つける事は出来ても、殺す事は出来ない武器。
一番怖い怪我となるのは落馬だ。
「さて、今日は何を使おうかな……」
戦う時にリドムが言うその口癖は、周りの人からすると呆れるものだった。リドムにとって最も得意な武器は、毎日のように素振りをしている細剣なのだろうが、他の武器を使うとしても技量に大差はない。
他の人は、先にさっさと出ていく。全員、多くても2つの武器しか持っていない。だが、最後の方に出て来たリドムは4つの武器を持っていた。
腰に細剣、背には長い柄のハンマー。それだけでもおかしいのに、投げナイフの束を肩に掛け、鎖分銅も持っている。
「さて、行こうか。次はお前の防具だ。似合うのがあれば良いんだが」
銀鹿の反応は、そのおかしな恰好の性で一瞬遅れた。
今更だけど、時間について修正をしました。
1日を36等分している設定で。




