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Deer! and Bear?  作者: ムルモーマ
1.良く晴れた秋の日
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詮索しないで欲しいな

 泥棒が、金持ちそうな人の盗みをして違う町へ行く事を繰り返していた事や、パン屋は、トイレや休憩室に外から簡単に入れる窓があったから、一時的に働いていた事なんて、リドムにとってはどうでも良かった。

 尋問をするのも、後始末をするのも、午後の警備の担当に任せて、さっさと昼飯を食いたかった。

 捕まえた張本人だから、そういう訳にもいかないのだが。

「賞与が貰えるのは嬉しくないのか?」

 片腕を骨折し、非番をしているリドムの同期のトールはそう聞くと、リドムは報告書を適当に書きながら、溜息を吐いて言った。

「そりゃ、嬉しいけどさ。金の掛かるこいつを雇ってる訳だし」

 リドムが羽ペンで差した先では、銀鹿が日溜まりの中でのんびりとしていた。

 鹿の睡眠時間は短いと聞くが、魔獣となるとどうなのだろうか。

「だけれど、腹が減った。それには何も敵わないよ」

「何か買って来てやろうか?」

「ああ……頼む。手軽に食えるもので」

「米か? 小麦か?」

「……サンドイッチで」

「分かった」

 そう言って、トールは詰所から出て行った。

 報告書には、端的に言えば、魔獣の力を借りて泥棒を捕まえました、と書かれていた。

 噂よりも早く、自分が魔獣を雇っている事がここの領主に知られる事となる。

「面倒な事になるなぁ」

 もう一度、リドムは溜息を吐いた。領主が欲深、貧汚等という性格でない事だけが救いだった。

 リドムの頭の中には、欲深な領主が銀鹿を奪おうとして、銀鹿が全員投げ飛ばすような光景が浮かんでいた。そうなるとしたら、自分はその責任を問われ、銀鹿は殺される前に姿をくらますだろう。

 そんな事には万が一にもならないにせよ、領主の館には行く事になる。珍しいものは誰だって見たいものだ。

 

 報告書を書き終えた所で、トールが帰って来た。

「ほらよ、金よこせ」

 リドムは、言われた金額を渡して、葉に包まれているサンドイッチを受け取った。

「……形からして、俺がいつも見ているサンドイッチとはかなり違うようだが」

「今、流行り始めているサンドイッチだよ。ミートローフ、それに合う酢漬けの野菜、チーズが一緒に挟まれている。

 1つとは言え、ボリュームは凄いぞ」

「へぇ……」

 報告書は適当な場所に放り、早速包みを開けてみる。

 出来立てのようで、湯気を放っていた。パンも、普通のサンドイッチとは使っているものが違うようで、それに何かフニャフニャしていた。

「ああ、済まん。パンが湯気で湿気てるな」

 何だ。元からではないのか。

 少し落胆しつつも、大きく口を開けて齧り付いてみる。

 初めての感覚だった。当然、この中の具材は全て食べた事がある。しかし、それは単なるパズルのピースを眺めていただけのようだった。

 今、それらの具材が混じり合っている口の中では、パズルの完成形が見えているようだった。

 普通のサンドイッチとは一線を画す、パズルの完成形。平面が立体になったような驚き。

 気付くと、二口目を口の中に入れている。

「美味いだろ?」

 答える事も憚らしかった。ただ、口の中をこの驚きで満たしていたかった。

 食い終えると、リドムには、その至福の時間が一瞬で過ぎてしまったように感じられた。

 口の中が何も無くなり、力を抜いて一息を吐くと、トールが言った。

「これが、このサンドイッチの本当の美味しさではないんだぞ? パンが湿気てなければ、更に美味い」

「……そう、なのか」

 でも、次に食べるのは暫く後にしておこうとリドムは思った。何度も連続して食べるのには、勿体ない美味しさだった。

 リドムはそのまま味の余韻に浸っていたかったが、時間の都合上、そういう訳にもいかない。

 訓練には参加しなくては。

 遅刻は許されたが、欠勤は許されていない。

 後少しだけ、少しだけ休んでから。そう自分に言い聞かせ、暫しの間、リドムは椅子にもたれかかった。


 銀鹿に乗って、町からは少しだけ離れた場所にある訓練場に行く。遅れた事を報告してから、訓練場の中に入った。

 最初に基礎的な運動、それから自由に武器を使って、個人やグループで訓練、そして最後に模擬戦闘をするというのが普通の課程だった。

 偶に、大半の騎士が集まって集団戦をやったり、体力が落ちていないかを確かめる為にひたすら走らされたりもする。

 訓練において、特に体力が劣っている者は給与が少なくなる。そして、全体的に劣って来ると、引退という形になってしまう。要するに、これに参加する事が即ち、騎士としての質を測る事と同義であった。

 ただ、優れていると、戦争が起きた時にすぐに駆り出されるので、ほどほどにやっている騎士も多かった。

 今日は普通の課程のようで、既に自由な訓練の時間に入っていた。楽をするつもりだったので、比較的楽な、弓矢の鍛錬をする事にする。

 的場に向かう途中、ふと、浮かんだ疑問を聞いてみた。

「なあ、お前。戦争に参加した事あるのか?」

 銀鹿は答えなかった。そのまま自分の言う通りに歩き続ける銀鹿を見ていると、これ以上聞いてはいけない気がした。


ハンバーガーは1904年誕生らしい。でも、ハンバーグ(ミートローフというのにしたけれど)とかの原型はずっと前に出ていたし、誰かが発想していてもおかしくないかな。

それと、サンドイッチとかハンバーグとか、語源は人の名前だったりして、こういう異世界設定で使うのはどうかと思う点もあるけれど、逆に全て造語にしても読み辛いだろうから、そのままにした。

それと、紙はある程度貴重なもの。


騎士の訓練は、最低限必要な事を抑えた(つもりの)上で想像。

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