指輪
ある晴れた日曜日のことである。
香子は珍しくすることがなく、先月引っ越して来たこの町を知るために、出掛けることにした。
今まで家から学校の通学路しか行き来したことがなく、本当にまだこの町について何も知らないのだ。
とりあえず行くあてもないが着替えて家を出ることにした。
「南町商店街」
という古びたアーチを潜り、香子は足を早めた。
此処は通学路なのでよく知っている と思い、裏口に出てみることにした。商店街とは裏腹に怪しい雰囲気を醸し出している。
香子は怖くなって、また商店街に戻ろうとしたとき、ある一軒の店が目に付いた。
「錫宮骨董品店」
という茶色く古びた看板が、なぜだか香子の目を引く。足がその店に向かって動いて行き、ドアノブに手を掛けドアノブを引く。
店に足を踏み入れてから香子は焦った。何の目的もなく店の中に入って来てしまったのだから。
すると奥の方から
「いらっしゃい」
と言う声が聞こえて来た。
中からでてきたその声の主は、30代前半といったところだろうか。真黒な肩までかかるかかからないかくらいの長さの髪で、目の下には隈があり、灰色の浴衣を着崩して着ているような、いかにも怪しそうな男がでてきた。
香子は怖くなったが、このまま帰るのは失礼だと思い、とりあえず話しかけることにした。
「こっこんにちは。ここってどういったお店なんでしょうか?」
看板に骨董品店と書いてあるのに、香子はなんとも間抜けな質問をしてしまったと思ったが、男は気にせず
「看板に書いてあるとおり、骨董品も売ってるけど、他にも色々あるかな。なんでも屋みたいなこともやってるし。まぁおいてある品物でも見てってよ。値段は俺、錫宮に聞いて。」
錫宮と名乗った男に言われたとうりに、店の中をみることにした。
お茶碗、グラス、ネックレス、時計、電話、眼鏡…… 本当になんでもある店だ。
すると香子の目に一つの指輪が目に入った。シンプルな指輪で、それでいて真ん中の赤い、ルビーのような宝石は光り輝いている。とても綺麗な指輪だった。
「この指輪はいくらなんですか?」
手持ちのお金があまりなかったので、多分買えないだろうとは思っていたが、一応聞いてみることにした。すると錫宮は
「あれ?いいもんにみつけたねぇ その指輪、実はもう一年もそこにあるんだよ。物は良い筈なんだけど。はめてみたら?」
錫宮にそう言われたので、香子は指輪をはめてみることにした。
小さいので、小指サイズだろうと思い、はめてみると、すんなりと左手の小指に入っていった。暫く指輪をながめていて、抜こうと思ったのだけれど
「あっ あれ?」
何度も引っ張ってみても指輪が抜けない。
「あれー 抜けなくなっちゃったの?」
と錫宮が気楽そうに言った。
「はい。すみません。」
香子は焦り、うろたえながら答えた。すると錫宮が香子の近くまできて、指輪をはずそうとしながら
「はずれないねぇ じゃあ仕方ないから そのまま持って帰ってくれて構わないよ。」
なぜだか錫宮は笑っている。
「えっでも。私そんなにお金持ってませんし。」
香子は指から指輪を引張りながら答えた。どう頑張っても抜けそうにない。
「だから いいって。抜けないんだから仕方がないでしょ?それにその指輪と君との相性は最高なんだよ。もう本当に良過ぎるくらいなんだ。それに、本当に抜きたいんだけど抜けないときは、また此処に来ていいよ。そのときは抜いてあげるからさ。」
と、錫宮はわけのわからない事を言っている。指輪に相性などあるのだろうか、等と香子が思っていると
「いいから、いいから。」
と言われ、店から追い出されてしまった。
香子は呆気にとられ、店の外で呆然としていた。もう一度店に入ろうとドアノブに手を掛けてみたけど、ドアが開かない。締め出されてしまったようだ。
まぁいいか と思い、香子は家に帰ることにした。
錫宮骨董品店 で思った以上に時間をとってしまったようで、もう日が暮れていた。
家についてから香子は指輪をながめていた。本当に綺麗だなぁと思っていたけれど、はずさなければならない。
香子の通っている学校は名門の私立高校で、アクセサリー類を身に着けて学校にいってはいけないのだ。
なんとかはずそうと試みたが、どうにもはずれそうにない。
でも、明日は祝日だからまだ平気だと思い、指輪をはめたまま眠りについた。
翌朝、香子は目が覚め、小指に違和感を感じたのでみてみると、あぁ、指輪をしたまま寝てしまったんだ ということに気付き引っ張ってみるがやはり抜けない。 まぁまだ時間は沢山あるから良いと思い、朝食を食べ、今日一日は何処へも出掛けずのんびりと過ごすことにした。
とはいっても、左手の小指が気になる。明日までには必ず抜かなければならない。
洗剤を垂らしてもみたし、指輪をまわしてはみたももの、はずれそうもない。そうこうしているうちに、もう午後6時をまわってしまって、香子が困っていると、錫宮の言っていた言葉を思い出した。
「本当に抜きたいんだけど抜けない時は、また此処に来ていいよ。」
香子は昨日と同じ道を歩き、同じアーチを潜り、同じ裏道にでた。するとそこには昨日て同じ
「錫宮骨董品店」と書かれた看板があった。ドアノブに手を掛けて引くと、昨日とは違って、鍵はかかっていないようだ。香子は安心して店の中に入ると、昨日と同じ格好をした錫宮がでてきた。
「いらっしゃい。やっぱり抜けなかったんだ。」
と言われたので香子は
「はい、明日学校で、うちの学校厳しくてはずさないと駄目なんです、だから」
と香子がそのさきを言いかけたら遮るように錫宮が
「どうしても俺にはずしてほしいと」
「はい、そうなんです。昨日本当に外したくて、でも無理な時は抜いてくれるって言いましたよね?」
と、香子が言うと錫宮はいつもの調子で
「言ったけど、でもいいの?本当に抜いちゃって… たやすくははずれないよ その指輪は」
「はい、学校に行って、没収されるなんて絶対に嫌なんです だから」そう香子が言うと
「本当にいいんだね?」
といつものしゃべり方とは打って変わって真剣な目をしていた。香子は少しその鋭い眼に戸惑ったが、香子も真剣に
「はい。」
と言った。そのとき香子は指輪を抜く事が出来る塗り薬か何かをもらえるのかと思っていた。
すると、錫宮はいったん店の奥に行き、戻って来たとき左手に持っている物をみて香子は驚いた。
「あっあのっ それ…何に使うんですか?」
自分の予想がはずれてることを願いながら、冷や汗を流し香子は錫宮に尋ねた。
「え!?あぁだってどうしてもぬけないんでしょう?
だったら切るしかないよね 指ごと。」
そう、錫宮の左手に握られていたのは、斧だったのだ。錫宮は気楽そうに言うのだけれど最後の言葉はいつもより低めで、眼は鋭かった。香子は怖くなって
「じ…冗談はやめてくださいよ。そんなこと…」と言った。だが錫宮は香子のいうことなどお構いなしに、にじり寄って来る。香子は後退りをするのだが、壁があって逃げ場はない。錫宮は香子の左手を握り、近くにあった白いタオルに包んで自分の胸の高さまでもっていき
「じゃあ いくからね」
と言った。もう香子は怖くて声も出ない。涙を流し震える香子に錫宮はなんらためらいもなく、左手の小指を切った。
小指の残骸はタオルに包まれたが、血は止まる気配もなく流れていく。錫宮と香子の回りは血塗れになり、香子は痛さと怖さで気を失ったのだろう。錫宮は香子の脈をとり、息をしているか確かめたが呼吸はない。
ショック死のようだ。それでも香子の左手の小指の付け根からは血が流れてくる。
錫宮は香子の切断した小指から指輪を引っこ抜いて
「また…か」
と呟いた。
「だから、相性が良過ぎるっていったんだけどね。良過ぎて指輪が君からはなれたがらないんだ。って言ってももう聞こえてないか。」
と、錫宮は力なく笑った。
「さてと」
と言い、香子の血塗れの亡きがらを地下倉庫にしまい、指輪を元の位置にもどした。その指輪は香子が貰ったときと変わらず光り輝いている。
これからも、錫宮骨董品店で自分に見合った人間がくるのを待ちながら。
ホラーとしては生温いと思い、その他にしてみたした。
ここ文章がおかしい!!とかいうところがあったらすみません。
読んで頂いてありがとうございました。