第2話 虚弱への慈悲深い対応
お風呂、というものをアツシからきちんと教わることになったんだけど?
まずは、陶器でも木製でもない湯船に、道具を駆使して湯を張り。薬剤で体を洗うそうだが、方法を知らないと言えば『……異世界だと普通じゃないのか』と納得され、服をまくってから使い方を教えてくれた。ポンプ式の入れ物だが、ガラスではないようだ……それを押して、出てきた薬剤を手に乗せた。
「擦っていくと泡立つ。手伝うから、全身洗おうぜ」
介護の経験もあるのか、アツシは僕の体を見ても偏見を持つことなく手で優しく肌を泡立ててくれた。無性な嬉しさが込み上げてきたが、自分のためだとしっかり泡立てていく。ふんわりした感触が心地よくて、いつまでも包まれたいところだが。
「面倒だから、髪は俺が洗う。ユディさんはじっとしてろ」
口調はいささか荒いが、他人を気遣える良い男の子だ。髪もゴシゴシと泡立ててくれて……シャワー、と言うので遠慮なく泡落とせと言ってから、アツシは濡れないために扉向こうに行き。
僕が大丈夫かなと思いながら……言われた蛇口をひねれば、お湯が水魔法のようにバシャっと出てきた!? 勿体無いけど、泡を全身落とすために使うと……ほっとした気持ちになれた。
こんな解放感はいつぶりだろうか。壮年を越えてあったためしがない気がした。
「えーっと、止めて……うん、泡は無くなった」
これで終わりにしては、まだ湯船に入っていないのだけれど。シャワーの音が消えたくらいに、アツシが扉を開けてきたのはいいけど……手に何かの袋を持ってきた??
「終わった? 湯船つかるのに良いの持ってきたんだ」
薄水色の湯船の中に、パリッと袋を破って……黄色の粉を迷わず入れていく?? ほんわかだが、柑橘系の爽やかな香りがしたよ。
「いい匂いだ……」
「ぬるめに入れてっから、しばらく浸かっていいぜ。それと、ぬいが気に入ってくれてたんなら……と」
アツシは、さらに『桶の中に置物』のような道具を渡してくれた。しばらく眺めていられるように……と、ぬいぐるみではなく、特殊な素材でできた人形を用意してくれていたらしい?! ちょこんと愛らしく、目がつぶらではないか!! すっごく可愛らしい!!
「クロニクルってゲームのトップキャラクター、ナルディアってイケメンだぜ!! ユディさん、さっき手作りぬいの話してくれてただろ? 俺のイチオシがそいつ」
「……いいのかい? 濡れても」
「そいつは大丈夫。保存用と観賞用は別々であるんだよ」
「……じゃ、遠慮なく」
お湯の中に落とさないよう、まずは僕がゆっくり入ったんだけど。ただの湯より、なんだかとろみがあって体を包んでくれるようだ!! 疲れとか怠さが飛んでいく様……桶もしっかり持って、浮かべてあげると人形さんも喜んでいるような気がした。
「んじゃ、のぼせそうになったら出ていいから」
ごゆっくり、とアツシは扉を閉めていく。けど、どこにも行くわけじゃないのか、あのベッドの上に乗った音が聞こえてきた。
「……ふーむ。なかなかに、良い造りと見た目。それに、この感じ」
桶の中に入れてもらった、ナルディアという名前の人形。ゴーレムでもない素材なのに、きちんと生命体の核を感じる。もしかして、と空いてる手で印を結び……ちょんと額を叩いてみた。




