第14話 悪戯でない、愛情
僕が一気に言い切ると、マリアーノちゃんは赤い目をちょっとだけ潤ませた。そこから何度か瞬きしたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻っていく。
「たしかに、わたくしは貴方様の魔力の影響を受けておりません。いいえ、そのように見せました」
「……ということは、召喚は」
「はい。わたくしの核そのものは『精霊』。わたくしの人格である『魂宿り』と融合した上での存在です。なので、わたくしは主さまをお慕い申し上げる『マリアーノ』としての姿ですわ。決して、貴方様を貶したりなどと致しません。あのように、蕩けるような魔素を……このまま潰えさせるなど、致したくありませんもの!」
悪戯、ではないけれど。そもそもの魂宿りがきちんとなされていたマリアーノちゃんのねんどろいど。そこに扉として召喚した精霊が、逆に呼び起こして今のマリアーノちゃんを『創って』くれた。
僕と僕の魔素を殊の外気に入ってくれたようだから……自分は男の子だけど、僕の終活をさせないためにねんどろいどを媒介にホムンクルス化させた。
自分が寄り添えば、見た目は美少女だから普通の女の子には敵うはずがない。そんな真摯な気持ちをぶつけられて、僕は……僕は!!
「じゃあ、その。勘違い……しなくていいんだ」
「……主さま?」
「僕は君を、外見抜きに慕ってくれる心遣いが嬉しかったんだ。だから、その……ずっといっしょにいてもらえるのは願ってもないことだ」
「! では!」
「……よろしく。愛しい子よ」
「はい!」
ぎゅっと腰回りに抱きついてくれたときに、ふわっと香る入浴剤の香り。温水プールにはいろんな香りがあったのに、薔薇の香りが一番強い気がした!! このまま……このままなら、えっと……口付けもいいよね!!?とか、柔らかいほっぺに手を添えてみたんだけど……。
「フラグぶったぎるけど、やめときなよユディさん」
「ここ、大通りだし。お二人さん、めっちゃ目立ってるよ」
やっぱり、あんまりよろしくなかったみたい!! ちらっと後ろを見たら、『あらまあ……』って銭湯から出てくるご婦人とかの注目の的になってた。
非常に残念だけど、公の場でキスはやめておいた方がいいかもしれない。マリアーノちゃんも残念がっていたけど、また自分から腕を組んでくれたからそれで我慢だ。
色んな建物と明るい街灯のおかげで、夜道でも普通に歩けるけど……これからの生活にどんな潤いが増えるかどうかも楽しみになってきた。
マリアーノちゃんとは半分くらい元いた世界での生活もするから、それはそれで楽しみだと思う。アツシの部屋へ戻ってから、マリアーノちゃんがさあさあと僕らの部屋への扉に急ぐんで……今日はとりあえず帰ろうと、アツシらにはじゃあねと言った。
「向こうは向こうで。こちらはこちらで……長い夜を楽しみましょう?」
ね?と、にっこり微笑んでくれた彼が僕をベッドの上に押し倒し……チュッチュとキスしてくれたってことはつまり!! アツシらは昼の続きで、僕は僕で初めての夜をマリアーノちゃんと愉しむってこと!!?
反論しようにも、しっとりした口吸いから意識が蕩け……もう何にでもなれと体の力を抜くのだった。
次回はまた明日〜




