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本屋でのひととき

本日2回目の更新です。

……………………


 ──本屋でのひととき



 土曜日。


 俺はショッピングモールの1階エントランス付近で古鷹たちが来るのを待った。


 期せずして早めについてしまったので、どう暇を潰そうかと思っていたときだ。


「しののめっち!」


「おう、古鷹。また随分とお洒落してきたな……」


 古鷹は文学少女っぽい私服で着飾ってきていた。涼しそうなワンピースをメインにいろいろとで、随分と張り切ってきたみたいだ。


 今日は本屋巡って、羽黒さんの入部祝いするだけなんだけどな。


「なあ、古鷹。聞こうと思ってたんだけど眼鏡はどうしたんだ?」


「前々からコンタクトにしようと思ってたからだぜ。その方がお洒落でしょ?」


「前の眼鏡は少し野暮ったかったからな。でも、似合ってないわけじゃなかったぞ」


「そ、そう? 似合ってた?」


「というか、眼鏡をかけていたお前しかしらなかったから違和感がある」


「何だよ、それー!」


 声も喋り方も俺の知る古鷹なのだが、何か別人みたいで脳がバグりそう。


「ところであたしからも少しいい? 羽黒さんとはどういう関係なの?」


「説明するとややこしいし、それに羽黒さんのプライバシーにもかかわるんで、そう簡単には話せないんだよ」


「ふうん。じゃあ、これだけ答えてくれるかい。羽黒さんと付き合ってる?」


「それはない」


 俺は古鷹の質問に即答した。


 羽黒さんは確かにフレンドリーだし、俺を使って匂わせ作戦なることをやっているが、付き合っているかと言われれば明白にノーである。


 俺ごときがおこがましいって話でもあるし、同時に俺だって選ぶ権利はあるという話でもある。ばりばり陽キャの羽黒さんはとても眩しいし、ばりばり思い込みと暴走が激しい羽黒さんはとても迷惑で。


「そっか、そっか。それならいいんだけど」


「何がいいんだよ?」


「秘密~」


 何だよ。やな感じだな。


 俺と古鷹がそのような話をしていたとき、エントランスの方に動きがあった。


「やあ、同志東雲!」


「お、おっす……」


 長良部長に伊吹だ。それから──。


「おーい! 主賓の到着だぞー!」


 いつも通り騒がしい羽黒さん。


 長良部長と伊吹はさほどではないが、羽黒さんは割とお洒落してきている。というか、祝われる気満々だな、この人。


「はいはい。まずは古鷹の買い物からな。そのあとで入部祝いしよう」


「オーケー! 行こう、行こう!」


「そっちじゃない、こっち」


 羽黒さんは張り切った様子で先頭を進み始めるが盛大に進む方向を間違ってやがる。


 俺たちは2階に入っている本屋に入った。


 長良部長と伊吹は真っすぐラノベコーナーに向かい、羽黒さんはちょっと見渡したのちに漫画コーナーに向かう。残された俺は古鷹の方を見た。


「どんな本を探しているんだ?」


「んー。恋愛もの、かな?」


「疑問形かよ。決まってないの?」


「ほら、いろいろ見て回りたいじゃん」


 そういうと古鷹は俺を従えて本屋を一般文芸コーナーから回る。


「これ、読んだ? 今年、賞を取った作品。滅茶苦茶面白かったよ」


「俺、ラノベしか読んでないから読んでない。お前が勧めてて、賞を取ってるっていうなら興味はあるけど……」


「なら、今度貸したげるから読みな」


「分かった、分かった」


 一般文芸の簡単そうな読み物ではなかったが、古鷹が勧めているということは悪い本ではないだろう。俺はその本を裏返してあらすじを読んでみるが、確かに面白そうなあらすじであった。


「けど、あたしのおすすめだから読んでくれるんだね」


「お前の勧める本、どれも面白いもん。センスがあるよ」


「へへっ。嬉しいね」


 こいつの貸してくれた本はいろいろあるが、どれも面白かった。古鷹は選書のセンスがあると言って間違いない。


「で、お前はどんな本がいいんだ?」


「それだけどさ。しののめっちのおすすめはない?」


「俺のおすすめか……」


 そう言われると割と困る。俺は別に古鷹のように選書のセンスがいいわけじゃないからな。『うわ! これ、地雷だ!』ってのを何度も引いては後悔しているのである。


「古鷹、ラノベでもいい?」


「全然いいぜ」


「なら……」


 俺はまだ部室においてなく、また図書室にもなく、そして古鷹が読んでなさそうな一冊を選び取った。


「これだな。『残念属性なヒロインですがパーティ加入をお願いします』。個人的に凄く面白かったぞ」


「へえ。どういう内容なの?」


「タイトル通り、ファンタジーな世界でどこか残念な属性がついたヒロインたちが主人公とラブコメする話だ。俺の好みはアルコールがないと手が震えて呪文が唱えられないアル中だけど滅茶苦茶強いシスター」


「面白そう。流石はしののめっち。伊達にラノベばっかり読んでないね」


「うるせえ」


 からかうように笑う古鷹に俺は苦笑して返した。


「じゃあ、これにするよ。ありがとね、しののめっち」


「どういたしまして」


 古鷹も楽しんでくれるといいけど。……待てよ。割ときわどい下ネタとかあった気がしてきたが大丈夫か……?


「新刊もいろいろ出てるね」


「そうだな。榛名先生に何冊か部費で買ってもらえないか交渉してみるか……」


「高校生には次々に出る新刊は辛いぜ」


「全くだ」


 未だバイトをしてなく、今後もバイトをする気もない俺たちにはラノベの購入も大きな買い物なのである。そもそもうちの高校はバイトの規則が滅茶苦茶うるさいしの、そう簡単にバイトもできないのだが。


「じゃあ、そろそろ長良部長たちと合流──」


 俺がそういってレジの方に向かおうとしたとき、古鷹が俺の手を握った。少し汗ばんでいるが柔らかい手の感触に俺は戸惑う。


「ねえ。もう少しふたりで一緒にいない……?」


 古鷹は何か熱に浮かされたような顔で俺の方をじっと見る。


「そりゃもう少しぐらいならいいけど……。何か他に用事あるのか?」


「ないよ。ただこのまま一緒に過ごしたいだけ」


「それってどういう意味……?」


「分からないのかよー?」


 古鷹はにやりと笑って見せる。もしかして、これは……?


「あ。いたいた、東雲君、古鷹さん! 本、選べた?」


 と、ここで乱入してきたのは羽黒さん。で、俺と古鷹が何やらいかがわしい雰囲気を放っていたのを悟ったのか、妙に気をまわして、はっとした表情を浮かべやがった。


「ご、ごゆっくり~……」


「待て待て! 違うぞ!」


 すーっとフェードアウトしようとする羽黒さんを俺は呼び止める。


「また冗談なんだろ、古鷹?」


 それから俺はそう確認するように古鷹に尋ねた。


「……へへっ。まあね。冗談だよ、冗談」


 古鷹は視線を僅かに逸らしてそう言った。


「……そういう感じではない感じ? 私の早とちりかな? そうかな?」


「そうそう。勘違いだよ、羽黒さん」


 そう言って足早に古鷹はレジに向かっていた。


「……ねえ、東雲君。もしかして私、来ない方がよかった……?」


「……分からん」


 何なの? なんで急に古鷹はああなっちゃったの?


 誰か答えをプリーズ!


……………………

今日の更新はこれで終わりです。


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