放課後は大混乱
本日2回目の更新です。
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──放課後は大混乱
昼休みになると俺と羽黒さんは決まったように屋上に繋がる踊り場に向かう。
「あのね。私、文芸部に入ることに決めたよ。今日の放課後に入部届を出したいんだけど、文芸部の担当の先生って誰?」
「榛名先生。現国の」
「ああ。あの先生か。ちっさいよね、あの先生」
「ちっさいな」
榛名先生はちっさい先生である。以上。
「で、あれから阿賀野とはどうなの?」
「正式にバスケ部に入るかどうか悩んでるって相談されたぐらい。やっぱり今度の休みはみんなで出かけようって言ってるし。はあ…………」
羽黒さんは深々とため息を吐く。聞かない方がよかったか。
しかし、バスケ部か。高雄さんは浮気を疑っていたけれど、部活に熱心ならばただ男同士の熱い青春しているだけなのか?
いや。バスケ部に可愛いマネージャーが入ったという話だったな。それ目当てか?
高雄さんと調べてみることになっているが、はてさて。
「そう言えば東雲君は彼女とかいないの?」
「いません。いたらこんなことしてられんだろ」
それこそ浮気になってしまうわ。
「それもそうだよね。けど、東雲君優しいからモテないことはないと思うんだけどなぁ。今度、友達の女子を紹介してあげよっか?」
「ノーサンキュー」
「ええー? 何でー? 東雲君も恋しようぜー?」
「ノー」
まさに恋愛でトラブってる女のそれに巻き込まれてたくない。青春はしたいが俺まで修羅場の真っただ中はごめんである。
「気が変わったらいつでも言いなよ? あと、これは昨日のお礼ね」
そう言って羽黒さんが爪楊枝で刺して差し出すのはタコさんウィンナーだ。
「……思ったけど、俺にやるより阿賀野に弁当作ってきた方がいいんじゃない?」
「それも考えたんだけどね……。お母さんがお弁当ふたつ作るのは大変だって……」
さも自分の手作りのような顔しておいて、お前が作ったんじゃないんかい。
* * * *
そして、放課後。
今日は高雄さんと阿賀野について調べることになっている。
担任の先生が遅刻したせいで他のクラスの生徒が帰っていく様子を眺めることになったが、ようやくうちのクラスのホームルームが終わった。
さて、これから高雄さんと──。
と思ったらマナーモードにしていたスマホがバイブした。
何だ? と思ってスマホを見るとメッセージが着信している。伊吹からだ。
『東雲! 部室に知らない人がいる! 至急助けろ!』
……知らない人って?
というか、いつも助けを求める古鷹はどうした?
「東雲君」
「ああ。高雄さん、ちょっと待ってくれ。一度文芸部に寄ってもいいか?」
「ん。構わないが……。あたしは先に体育館裏で待っているぞ」
「すまん」
高雄さんにそう断ってから、俺はまず伊吹のSOSに応じるために文芸部の部室へと向かったのだった。
で、文芸部の部室前では伊吹がおどおどとした様子で部屋に入れずにいた。
「よう、伊吹。長良部長は?」
「ま、まだ、来てない……。け、け、けど、し、知らない人間が中に……」
「まさか泥棒……?」
俺はちょっと焦って扉をガラガラと開けた。
「お? よーっす、しののめっち!」
そこにいたのは古鷹の声で話す、古鷹に似ているようで、古鷹とは微妙に違う感じがする女子だった。
古鷹は眼鏡をかけていたはずだが、この女子はかけておらず。古鷹は飾り気のない髪型をしていたはずだが、この女子はお洒落なショートボブで。古鷹は制服をいじったりしていたなかったはずだが、この女子のスカートは短い。
「……古鷹、だよな?」
俺は一応そう確認する。
「イエス。どしたの、そんな顔して」
「随分とイメチェンしたなぁと思って……」
俺と古鷹がそう話している背後で伊吹が部室を覗き込んでいた。こいつはこいつで友人がイメチェンしたら知らない人認定になるがばがばセンサーの持ち主だと判明した。
「古鷹……?」
「そだよ!」
「よ、陽キャになってる……」
伊吹、お前自分の友達をそんなゾンビ映画で噛まれた跡が見つかった人間を見るような目で見るなよ。
「あー。事情がありそうだが、俺は今日用事があるので休みます。では!」
「あ! ちょっと待ち──」
古鷹も恋を知る時期か。相手が誰か知らんけど幸運を祈る。しかし、俺を巻き込まないでくれ。もう俺は恋愛関係のトラブル相談はごめんだ。
どんどん俺の青春が平均から外れているような気がするんだよ。
* * * *
それから部室を去って、俺は体育館裏までやってきた。
「ちゃんと来てくれたか」
「ああ。約束したからな」
「では、行こう」
高雄さんの羽黒さんへの友情は本物だ。俺もそういう思いには応えたい。
高雄さんに連れられて俺たちは裏口から体育館を覗きこんだ。
「あそこに阿賀野がいる」
俺は素早くバスケ部のユニフォームを着た阿賀野を見つけて報告。
「マネージャーと言うのは……」
「あれじゃないか?」
男子バスケ部が練習している中、ひとりジャージと体操服の女子がいた。
結構可愛い女子である。ちょっと日焼けしていて、髪もショートで、ゆるふわ系の羽黒さんとはまた違った可愛さの女子だ。
「確かに可愛い女子だな。だが、凛の方が可愛いはずだ」
可愛さのジャンルが違うから競わないと思うぞ。
と、俺たちが眺めていたら、ちょうど阿賀野がシュートを決めた。勢いよくジャンプしてドンとボールをリングに叩き込んだ。すげえな……。
「やるなあ、阿賀野!」
「どうも!」
バスケ部の先輩らしき選手が阿賀野とハイタッチを交わす。
ああいうのも実にいいなぁ。男の青春って感じがするぜ。俺、スポーツは満遍なく苦手だから無理だけどな……。
「なあ、入部のこと考えてくれたか?」
「ええ、先輩。けど、他にも興味がある部活があって……」
「いやいや。お前はバスケ部でこそ輝く男だ。それにこんなに可愛いマネージャーがいるのは、バスケ部くらいだぞ?」
そう言って先輩選手がマネージャーの女子を指さし、その女子が阿賀野に微笑んだ。
「おい。これはやはり浮気じゃないのか?」
「待って待って、高雄さん。まだ判断するには早い」
笑いかけたぐらいで浮気認定はないだろ。
「阿賀野君、入部してくれるの?」
「まだ考えてます、熊野先輩。できればバスケ部でプレイしたいですけど、3年しかない高校生活なんて後悔もしたくないなって」
「そっか。いつでも歓迎するからね。はい、熱いからちゃんと水分取ってね」
「ども!」
そう言って熊野と名乗った先輩女子からスポーツドリンクを受け取る阿賀野。
「もう浮気だ。間違いない。見損なったぞ、伊織め」
「いやいや。あれはまだマネージャーの業務範囲だって」
あんたの浮気判定はピクリン酸かよ。
「じゃあ、プレイ再開だ!」
俺たちはそれからずっと阿賀野を見張ったが怪しいところなどなく、やつの青春を見せつけられただけだった……。
「おかしなところはなかったっすね」
「なかった……のか? あのマネージャー、タオルを渡したり、ドリンクを渡したりと伊織に色目を使っているように見えたが……」
「あれはマネージャーの活動のうちだろ。他の男子にも同じようにしていたし。むしろ仕事しないマネージャーだったら逆に怪しいんだけどな。男目当てで入りましたって感じがして」
「なるほど。東雲君は詳しいな」
「それほどでも」
これはラノベの知識です。実際の経験に基づくものではありません。
「その知識を引き続き借りたい。手が空ていたらまた手伝ってくれ」
「了解」
まあ、阿賀野のそれとは形は違うけど、俺と高雄さんのこれも青春だろ。
平均からはかなりずれてる気がしなくもないが……。
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今日の更新はこれで終わりです。
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