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一緒の帰路

本日2回目の更新です。

……………………


 ──一緒の帰路



「それじゃ、そろそろお開きで」


 部活動の時間が終わったことを知らせるチャイムがなり、長良部長が席を立つ。


「今日はありがとうございました! 楽しかったです!」


「よかったら入部してね。歓迎するよ」


 羽黒さんも満足した様子で、長良部長も笑顔でそう返す。


「そ、それじゃ……。にゅ、入部、無理はしないで……」


 伊吹も最初ほどの緊張感はなくある程度慣れていた。あの伊吹が出会って1時間程度の人間に少しとは言えど心を許したのだ。


 これが陽キャのコミュニケーション能力というものか。恐ろしい女だな……!


「また明日、羽黒さん」


「待って、東雲君。こういう本ってどこで買ってるの?」


 と、長良部長と伊吹が部室を出るのに俺も出ようとしたところ、羽黒さんが本棚の方を指さして尋ねる。彼女が指さしているのは、さっきまで読んでいたラノベだ。


「本屋とか、専門店とか……」


「専門店とかあるの?」


「あるよ。ここからもそう遠くない場所に」


「そっか。じゃあ、帰りに寄って行こう!」


 この発言を解釈するのに俺は暫くかかった。


 この『寄って行こう』というのは羽黒さんのただの意気込みなのか、それとも『(東雲君も)寄って行こう?』というお誘いなのか。適切な方を選択せよ。(配点10点)


 いや、本当にどっちだ……?


「……場所知ってる?」


「知らない。だから、これから行こう?」


 無難な答えを返して正解した。ディスコミュニケーションを回避だ。


「おーい。部室のカギを閉めるから出てくれ」


「すみません、部長」


 俺たちは慌てて部室を出て、長良部長が部室のカギを閉めた。


「それじゃあ、また明日だ、同志東雲、羽黒さん」


「ま、また……」


 ここで文芸部は解散し、長良部長は部室にカギを返しに職員室に向かい、伊吹は足早に昇降口へと走り去った。


「私たちもいこっか!」


「はいはい」


 俺たちも昇降口に向かい、上履きから靴に履き替えると、学校から近くにある同人ショップに向かう。


「ねえ、東雲君。やっぱり専門店で買うのと本屋さんで買うのとは、また違うの?」


「違うね。俺は特典が付いたりするから、できるならば専門店で買ってる」


「へえ。そういうのもあるんだ」


 羽黒さんは嫌味ではなく、素直に感心しているようだった。


 学校前でバスに乗り、ちょっと街中に出かければアニメ専門店はそこにある。この娯楽が少ない寂しい地方都市の、数少ない娯楽スポットだ。


「ここがそうだよ」


「ここかぁ。何のお店だろうって謎だったんだけど、ラノベの専門店だったんだね」


 一軍女子の羽黒さんたるものが俺より街中について知らないはずがないので、この二次元の女の子看板が嫌でも目立つこの店を見たことがないとは思っていなかった。しかし、何の店かまでは知らなかった様子。


 まあ、下手に『オタクの人が通う店だ!』とか言われるよりよかった。


「ラノベは2階だよ」


 俺は羽黒さんを案内してラノベコーナーがある2階に連れていく。


 そこまで大きなテナントではなく、1階はキャラグッズコーナーがあり、2階は漫画とラノベがあり、3階は同人関係だ。


「おお。凄いたくさんラノベが置いてあるね。本屋さんより多い気がするよ」


 一面のラノベコーナーに羽黒さんはちょっとした感嘆の息を漏らす。


「ほしいものって決めてるの?」


「ほら。伊吹さんに勧めてもらったんだ。ヒロインが勝つラノベ!」


「ほうほう」


 スマホの画面を見せる羽黒さんに、俺は伊吹がラインナップした作品を見てみる。


 挙げられている作品はどれも面白いと評判のものばかりであり、確かにメインヒロインがちゃんと勝利する話だ。一端のラノベレビュアーの俺から見ても文句なしのラインナップである。


「しかし、こんなにラノベを売ってるお店があるなんて初めて知ったよ。面白いね!」


 羽黒さんは見るもの全てが珍しいという様子で、目を輝かせている。


「今度、伊織にも教えてあげよっと」


 ……しかし、この言葉からも分かるように羽黒さんは阿賀野の彼女だ。俺の彼女じゃないし、別に俺も彼女にしたいわけじゃない。人の彼女を取るなんて泥棒である。泥棒は道を踏み外しており、平均じゃない。


 ただ今という時間は青春のような気がする。それだけだ。


「どれにしよっかなー?」


「俺的におすすめするなら、この『天使な彼女のせいで堕落してしまった!』だな。羽黒さん、尽くす系ヒロインが好きだって言ってたろ?」


「おお。そうだね、そうだね。なら、これにしよっと!」


 俺が指さしたラノベを羽黒さんは1巻、2巻、3巻と積み上げていく。


 ラノベの大人買いを高校生が……!? やはり恐ろしい女だ……!


「ところでさ、東雲君。3階には何があるの?」


 と、ここで羽黒さんがそう尋ねてくる。


「同人誌とか売ってる」


「どーじんし?」


「出版社が出してるわけじゃなくて、個人で出してる本……かな?」


 そういうカテゴリーで合ってたか、同人誌。


「気になるな。これ買ったら見に行こう!」


「ノー!」


 羽黒さんの提案を俺は即座に拒否。


「ど、どうして?」


「……同人誌は大人が楽しむものだから、その、えっちなやつとかある…………」


 俺がそう小声で説明すると、羽黒さんも顔を赤らめ始めた。耳まで赤くなっている。


「そ、そっか。じゃあ、大人になってからね! 私、全然えっちな話とか興味ないから! 全然興味ないから!」


 大事なことだから2回言いました?


「それじゃ会計してくるね! お会計!」


 そそくさと羽黒さんはレジに向かい、会計を済ませてきた。


 それから俺たちはアニメ専門店を出る。


「はあ。結構な買い物でした。そろそろ帰ろっか?」


「ああ。羽黒さん、帰り道はどっち?」


「駅から電車。東雲君は?」


「俺も電車。下りだけどね」


「私は上りだから、駅でお別れだね」


 そう言葉を交わして俺たちは自然に駅まで一緒に歩くことに。


「今日は楽しかった。文芸部いい人ばっかりだし、こういうお店もあるって知ったし。充実してたなー!」


「匂わせの方の反応はどうなん?」


「……忘れようとしていたのに。はあ、伊織からのコメントはないです……」


「嘘だろ」


 彼女がここまで他の男の存在を匂わせているのに反応なしかよ。もはやその鈍さはマンボウを越えたぞ。


「……正式に告白してないからかなぁ。ほら、結婚式の前に男性の方はバチェラーパーティってやるじゃん? 付き合う前の最後の自由な時間だってさ。伊織もそういう気分なのかも……」


「新婚と恋人として付き合うのは違うと思うぞ。というか、どんな男だろうと告白前にバチェラーパーティはしない」


 俺、女の子と付き合ったことないから本当は知らんけど。


「もしかして、単に私が束縛しすぎなだけ? 私だけ見ててほしいってのは我がままなのかな?」


「デートすっぽかされても阿賀野相手に面と向かって激怒してないから、むしろ自由放任過ぎ」


「そうだよね! ちょっと心配したけど……。恋人を縛る系の厄介な女にはなりたくないから……」


 そんな話をしていたら駅に到着。


「それじゃ」


「また明日ね、東雲君!」


 改札口を潜って、そこで羽黒さんとは別れた。


 ふう。今日も意外なほど青春だったぜ。


 しかし、平均的な青春ってこれでいんだろうか……。


……………………

今日の更新はこれで終わりです。


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