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夏祭りは間違いなく青春です

……………………


 ──夏祭りは間違いなく青春です



 爆竹の音が暗くなり始めた時間に響く。


 お祭りが始まった合図だ。


「みんな、準備は万端か~!?」


「おうよ!」


 羽黒さんが何故か仕切る中で、俺たちが返事する。思わず掛け声を上げてしまったが、どうしてこの人が仕切ってるんだ……?


「それじゃぼちぼち歩いて行こうか」


 長良部長もそう言い、俺たちは旅館からお祭りが開かれている神社に向かう。


 俺たちは私服ではあるものの、浴衣着用者はゼロ。突然決まったことゆえに仕方ないことながら、ちょっと残念である…………。


「虫よけスプレー使う人いる?」


「あ! あたし、使います!」


 結奈さんが尋ねるのに古鷹を始め、俺たちは手を上げる。


 そのようなことをしながら俺たちは旅館から神社に向けて歩き、暫くして到着。


「おお。結構立派な神社っすね?」


 神社は比較的大きく、出店がいろいろと並んでいた。


「焼きそば、タコ焼き、イカ焼き……」


 羽黒さんはそんな出店の食い物ばかりを眺めている。こいつ、夕飯あれだけ食べておいて、まだ食べる気なのか…………?


「恒例の花火もあるから見逃さないようにね」


「おお。花火、いいですね」


 夏と言えば花火だよな。今の俺って凄く青春している気がする!


「それじゃあ、自由に見て回ろうか。お祭りを楽しもう!」


「おー!」


 それから長良部長は結奈さんと伊吹を連れて離れ、俺と羽黒さんと古鷹は一緒に出店などを見て回ることにした。


「ねえ、東雲君。どれから食べる?」


「見て回るじゃないのがいっそ清々しいな」


 もう食べることしか考えてねーぞ、この人。


「あたしは焼きそばかな。お祭りの焼きそばってカップ麺のやつより美味しいよね」


「おお。古鷹さんも食べる? じゃあ、行こう、行こう!」


 古鷹が羽黒さんの提案に乗り、多数決で俺も焼きそばを食べに向かうことに。


 ソースの香りが香ばしく匂ってくる屋台の方に向かう。


「東雲君も食べるよね?」


「夕飯食べたばっかりだぞ。もう入らんよ」


「ええー。男の子でしょー?」


「おいおい。それはジェンダー差別だぞ~」


 今どき男だからいっぱい食べるというのは差別だぜと俺は突っ込む。


「本当にいらないの? 絶対美味しいよ」


「少しぐらいなら食べたいけど、残したら勿体ないじゃん」


 確かにソースの香りがしてきて食欲をそそるが、ひとパック食べきれる気はしない。


「じゃあ、あたしと分けっこしようか?」


「え? いいのか?」


 そこで古鷹がそう提案してくれた。


「いいぜ~。その代わり半分お金出してね」


「分かった、分かった。俺だってただでいただこうって程、強欲な男じゃない」


 俺は焼きそば代の半分を古鷹に渡し、羽黒さんと古鷹はふたつの焼きそばを注文。すぐに鉄板で焼きあげられたあとそれがパックに詰められ渡される。


「う~ん。美味しそう!」


 受け取るやいなやすぐにずずずっと焼きそばを貪る羽黒さん。この食いしん坊だけど、本当に美味しそうに食べるよな……。


「……何、東雲君? じっと見つめても私の分は上げないよ?」


「別にとるつもりじゃないって」


 こいつ、本当に警戒した視線を俺に向けてやがる。本気で取ると思ってんのか。


「ほら、しののめっち。こっちは食べていいぜ?」


「おう。どこかの誰かと違って太っ腹だな!」


 古鷹が焼きそばを割りばしですくうのに俺はそっちの方を向く。


「……あ、あーんして、しののめっち」


 しかし、古鷹は割りばしを握ったまま、俺の方に焼きそばを差し出すのだ。


 え? これってもしかして……?


「お、おう……あーん……」


「そりゃ!」


 口を開けたと同時に焼きそばが突っ込まれた。


「うむ! 美味いな!」


 お祭りで食べる焼きそばは格別だぜ!


「本当に美味しいね」


 古鷹も焼きそばを口に運んで笑み。ちょっと顔が赤い気がする。


 というか、いきなりだったから戸惑ったけど、今俺は古鷹にあーんしてもらったよな? 男子の憧れの女子からのあーんと体験したよな? 羽黒さんのときと違って、優しいあーんだったよな?


 え、何? ひょっとして古鷹は俺のことが好き……?


「どうした、しののめっち? 顔が赤いぞ~?」


「う、う、う、うるせー! あ、あ、あ、暑いからだよ!」


 く、くそう。古鷹の癖に人をどきどきさせやがって……。からかわれているのかもしれないと思うと悔しいぜ……!


「ねえねえ。東雲君、古鷹さん。次はタコ焼きに行こうと思うんだけど、どう?」


「どれだけ食うんだよ」


 こいつの胃袋、底なしか……?


 俺たちは羽黒さんの食欲に恐怖した。


「せっかくだし、神社にお参りしとかない?」


 羽黒さんが食欲に傾く中で、古鷹はそう提案。


「そうだな。そうしよう」


「ええー? まだイカ焼きも綿あめあるよー?」


「ひとりで食べてなさい」


「付き合い悪いなぁ~。じゃあ、あとで合流しようね。私も社殿の方に行くよ」


「オーケー。食べ過ぎて腹を壊さないようにな」


 俺たちは一度羽黒さんと分かれて、神社を社殿に向かった。


「ここって何が叶う神社なんだろう?」


「安産から学業までいろいろらしいよ。さっき神社の案内見たらそう書いてあった」


「へえ。俺たちにもご利益があるといいけど」


 俺たちはそんな言葉を交わしながら社殿に向かった。社殿の傍では巫女さんが神主らしき人とお祭りの運営に忙しそうにしていた。


 社殿は結構年季が入った建物で、祭りの日のために綺麗に掃除されていたが、それでも古ぼけて見えた。


「古鷹、5円玉持ってる?」


「あるぜー」


「両替してくれない? 十円しかなかった」


「オーケー。やっぱりこういうのはゲン担ぎしておきたいよね」


「だな」


 俺たちは賽銭箱に5円玉を放り込むと、二礼二拍手一礼でお参りした。


『神様。どうか俺の青春が平均値に近いながら楽しいものでありますように』


 と、俺は願った。


 隣の古鷹をちらりと見ると、古鷹も何やら願い事をしているようすであった。


「よしっと」


 古鷹はそういうと俺の方を見てにやりと笑った。


「しののめっち。何をお願いしたんだい?」


「まあ、青春が楽しくありますようにってところだ」


「あたしと似たような願いだね」


「そうなのか……?」


 しかし、どうやら古鷹の様子がおかしい。顔は赤いし、俺と視線を合わせようとしない。さっきのことといい、もしかして、これはもしかして……?


「な、なあ。勘違いだったら、凄く申し訳ないんだが……」


「な、何だい?」


 俺は古鷹に思い切って尋ねてみることにした。


「古鷹、お前は俺のことが……」


「待って。お願いだから待って」


 俺の言葉を古鷹が遮る。


「あたしとしののめっちはいい友人、だよね? けど、あたしたちがそれ以上を望んだとき、しののめっちは距離を置いたりしない……?」


「そ、それは……その……」


「それが分からないと、あたしは今は何も言えないんだ。ごめん……」


 これはやはり、そう言うことなんだよな……?


「あたしは今は、その、友達でいいよ。しののめっちのことは友達として今も好きだし……」


 古鷹は顔を赤らめて、視線をそらした。


「そ、そうか。なら、今は友達でいよう。うん」


 俺は女子からこうして好意のようなものを示されたのに、情けなくもそう返すことしかできなかったのである。


「へ、変な空気になっちゃったぜ。本当に今は気にしないでね、しののめっち」


「あ、ああ」


 俺たちはそう言って辛うじて視線を合わせたが、お互いに顔は真っ赤だった。


 そのとき丁度、花火が打ち上げられるのが聞こえた。


「見て見て、しののめっち。花火だぜ」


「ああ。夏って感じだよな……」


 俺と古鷹は揃って花火を見上げる。


 気持ちのいい音を立てて、夜空に花火があげられては色鮮やかな光が舞う。古鷹が俺の隣にいて、そっと俺の傍に寄ってきた。古鷹の体温が感じられる距離だ。


「おーい、東雲君、古鷹さん!」


 と、そこで暴走ガール羽黒さんが登場。片手に綿あめを装備しており、あれからさらに暴食を貪ったということが明らかだった。


「花火綺麗だね!」


「ああ。綺麗だな」


 羽黒さんが満面の笑みなのに、俺もつられて笑った。


 ああ。これって間違いなく青春だよな……。


「ああ。伊織も連れてくればよかったな」


「今度は俺たちの地元の祭りに参加すればいいだろ?」


「そうだね! そのときは伊織と……」


 羽黒さんの方も青春真っ盛りのようだ。


……………………

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