文芸部にようこそ
本日3回目の更新です。
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──文芸部にようこそ
前にも言ったが俺は文芸部員だ。
放課後はその文芸部でラノベのレビューをやるのである。放課後の楽しみだ。
今日も今日とて部活に行こうとしていたとき──。
「東雲君」
おっと。出たな、恋する我がまま暴走ガール羽黒さん……。お次は何だ?
「東雲君も部活なの?」
「そうだけど。文芸部ね」
「……文芸部って東雲君以外に男子いる?」
「部長がいるけど、それが…………はっ!」
俺は羽黒さんのやろうとしていることを悟った。
「流石に部活で匂わせるのは不味いって! 絶対特定されるって!」
「だって! さっき阿賀野に一緒に帰ろうって言ったら『今日はバスケ部に助っ人に行かないといけないから』って断られたんだよ? デートすっぽかした翌日に一緒に帰ることも拒否するとかありえないよ!」
「それついては大いに同情しますがね……」
「このままじゃ私、伊織に振られちゃうかも…………よよよ……」
この女、泣き落としに出やがったぞ。
阿賀野のやつもかなりあり得ないが、羽黒さんもかなり強引だな? このお似合いカップルめ!
「分かったよ、分かりました。けど、特定されても知らないからな」
「大丈夫、大丈夫。羽黒さんに任せておきなさい」
そう自慢げに言うが絶賛彼氏とディスコミュニケーション中の女である。
「じゃ、行こ。図書館だよね?」
「違うよ。部室はこっち」
文芸部は別に図書館で活動しないのだ。部室は別にある。
俺は羽黒さんを連れて文芸部の部室に向かった。
『ようこそ、文芸部へ♪』
と、女の子が書いたようなきゅるんとした可愛い字で書かれた張り紙が貼られた部屋こそ文芸部の部室である。この張り紙書いたの男だけどな!
「可愛い張り紙だね。どんな人が書いたの?」
「次元の向こうに夢を見てる人」
「へえ。ロマンチックだね。流石は文芸部!」
二次元の女の子が好き、を文学的に表現しただけです。
「こんちわー」
俺は行きつけの食堂に出も入るようにがらがらと扉を開ける。
「おお。同志東雲。遅かったじゃないか。今日も今日とてラノベを彩る美少女たちについて熱く議論しようぞ!」
「おーっす、しののめっち。昨日は本屋まで偵察に行ったんだよね? 何か面白そうな本あったー?」
早速そう挨拶してくれるのは文芸部部長の長良良介──読みは『ながららすけ』ではない──と文芸部員で同学年の古鷹澪。
長良部長はいかにもな文系男子で二次元の美少女を愛する男だ。いつも俺とラノベの話をして盛り上がっている。最近では自分でも小説書くようになったとか。
古鷹澪は見た目はメガネで垂れ目のタヌキ系。中身はいわゆるサブカル女子で俺と同じく二軍の人間だ。こいつの場合はラノベも好きという具合で、一般文芸からノンフィクションまで雑食である。
「こんにちは! お邪魔します!」
そこに元気よく羽黒が俺の後ろから挨拶すると長良部長と古鷹がぎょっとして硬直。
家の2階から『ごはんまだ~?』って油断して降りてきたら、1階に知らない人がいて凍ったように固まったうちの猫みたいな反応である。
「あの、どちら様で?」
「羽黒凛って言います。見学できますか?」
「それはもちろん」
羽黒はそう言って部室に入り込み、本棚などを見て回り始めた。
「同志東雲」
「しののめっち」
ここで俺は長良部長と古鷹に部屋の隅に引っ張られた。
「誰? あれ、誰?」
「クラスメイト」
「ご関係は?」
「クラスメイト」
「おのれ、黙秘する気か」
「喋ってるだろ!」
古鷹が詰問するのに俺はげんなりして返す。
「いやあ。隅に置けないな、同志東雲。まさか君があんな可愛い女の子を侍らせるリア充だったとは! ……リア充爆発しろ。マイケル・ベイの映画並みに爆発しろ」
「侍らせませんよ、部長。よって爆発もしません」
今度は恨みがましい視線を向けてくる長良部長。
「本当にただのクラスメイト? しののめっちの彼女とかじゃなく?」
「そう。というか、あの人ちゃんと別に彼氏いるから。阿賀野っていう陽キャ」
「阿賀野伊織? スポーツ抜群で成績優秀な?」
「何だ、知ってるのか、古鷹。もしかして、阿賀野みたいなのが好みだったり?」
「違う。断じて違う。あたしはああいう男は大の苦手なのだぜ」
俺がからかうのに古鷹は真顔で首を横に振った。
「ねえねえ。東雲君、これは何?」
と、ここで羽黒が本棚の方を指さしながら尋ねてくる。
「それは部誌だよ。小説の感想だったり、自作の小説や詩なんかを載せて作るやつ。俺たちはまだ作ってないけど……」
「へえ。自作の小説かぁ……。興味あるなぁ……。東雲君は小説書くの?」
「ノー。俺は読むのが専門。今のところは、だけど」
「それはいつか書くってこと?」
「気が向いたら書いてみたい」
などと文芸部員として見栄を張ったもののアイディアは全くない。俺はラノベの優しいふんわりな世界が好きなだけなのだ。
羽黒もラノベの世界に生まれていれば、何の問題もなく阿賀野とゴールインしただろうに。可哀そうなやつだ。
「書いたら読ませてね。あとこっち来て、こっち」
「はいはい」
また匂わせ写真の撮影である。
文芸部にいるのが分かるように、本棚を背景しながらぱしゃり。俺の方は肩を手がちょっと映るだけ。
「ん。もうちょっと角度変えて、こう!」
またぱしゃり。
「あれー? なかなかうまく行かないなぁ。もう一枚ね」
「はいはい」
ということを俺たちがやっていたときに扉が開いて、俺は阿賀野が乗り込んできたかとびくりとしたが、現れたのは全然違う人だった。
「!?」
初めて人間と遭遇した小動物のごときリアクションをするのは羽黒さんに比べるとやや小柄な女子。同じ文芸部員の──。
と、紹介しようと思ったら扉を閉じてしまった。
そして扉が閉じてからぴこんと古鷹のスマホが鳴る音が響き、古鷹がスマホを取り出して苦笑しながら何かを入力する。
それからゆるゆると扉が開き、様子をうかがうように先ほどの女子が顔を覗かせる。
「あの、こんにちは……」
「こんにちは! 文芸部の人?」
「は、はい。その、一応……」
羽黒が笑顔で話しかけるが、その女子はすすすっと羽黒を避けて通り、そのまま古鷹の下まで逃げるようにして向かった。
「……教室間違えたかと思った……」
「あってる、あってる。しののめっちのせいだぞ~!」
何やら身に覚えのない罪を負わされようとしているが、この女子は伊吹琴葉。文芸部員で、まあ見て分かるようにコミュニケーションが苦手なタイプ。ぶっちゃけてしまえばコミュ障だ。
しかし──おっと今度は俺のスマホが。
そこには伊吹からのメッセージが長々と。
『酷いぞ、東雲。私の知らない人を部室に連れてくるなんて。ここにはみんなが知ってる人しか連れてきちゃダメだって決まってたのに。ルールを破った東雲は罰として1ヶ月間部室の掃除担当をやってもらう!』
いや、そんなルール、いつの間にできたんだよ。伊吹、面と向かわなければいくらでも喋れるのが厄介なんだよな。
「いやあ。文芸部って楽しそうだね。私、放課後暇だから入っちゃおうかな」
そんなメッセージを知らずに羽黒が呑気にそういうものだから、伊吹は今にも死にそうな顔をしている。こいつは比較的性格が似ていた俺と部長に慣れるのにも1ヶ月以上かかったのだ。
まして陽キャなオーラを全身から放出する羽黒はコミュ障の天敵だ。こいつが部室に居座るのはなめくじに塩をかけるかのごとき行為。
「酷いやつだな、羽黒さん……」
「なんで!? 私なんで責められてるの!?」
本当に酷いやつだ。
……………………
今日の更新はこれで終わりです。
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