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本日締切日です

……………………


 ──本日締切日です



 7月がやってきた。


 4月から数えて3ヶ月。もううんざりするほど暑い夏だ。


 そして、7月初週は文芸部の部誌に載せる原稿の締め切り日である。


 俺のは完成したのかって? もちろんできていますとも。


「皆さん。今日は締切日ですよ~。原稿はできていますか~?」


 今日は顧問の榛名先生が部室にやってきてそう確認をとる。


「できてまーす!」


 羽黒さんがそう元気よく声を上げ、長良部長を含めて他の部員も頷く。


「では、このUSBメモリに作品を保存しておいてくださいね。一応先生の方で内容を確認しますが、基本的にはそのまま掲載されますよ~。誤字脱字のチェックは大丈夫ですか~?」


「大丈夫です」


 一応作品は長良部長の方でチェックしてもらっている。


「では、製本の方は先生がやっておきますから~」


 俺たちにUSBメモリが渡され、それぞれの作品をその中に保存していった。


「それでは部誌の完成を楽しみにしておいてください~」


 USBメモリを回収した榛名先生はそう言って部室を去った。


「いやあ。全員ちゃんと締め切りを守れて偉いぞ!」


 長良部長からまずそうお褒め言葉。


「ねえねえ。東雲君はどんなの書いたの? 読ませてくれるって約束したよね?」


「こういうの」


「ほうほう」


 俺は自分の書いた小説を羽黒さんに見せた。



 * * * *



『どうやら俺は落ちこぼれ魔法使いに召喚されてしまったようです』 東雲蒼空



「ええええっ!?」


 耳に入ってきたのは女の子の叫ぶ声。


 その声を上げているのは俺の前の前にいる女の子に他ならない。


 目の前にいる女の子は綺麗な金髪を背中に伸ばした、緑の瞳で、16歳ぐらいの同い年と思われる年頃の子。その子は普通のブレザーの学生服の上から魔法使いの纏うようなローブを羽織っていた。


 その可愛い表情にはパニックの色が見える。


 だが、俺こと北上クロもまた同じようにパニックだった。


「こ、ここはどこだ!?」


 見れば先ほどまでいた高校の教室とは全く違う場所にいた。


 目の前の女の子の他にも、似たような格好の人たちがいて、俺の方をびっくりした様子で見ていた。


「むむむ。これは……」


 そこで唸り声を上げるのは真っ白な髭のおじいちゃん。この人はまさに魔法使いというローブ姿で、映画に出ていたような感じすらする。


 しかし、俺はこんなコスプレ集団の中にいる理由が分からない。


 盛大なドッキリだったりするのだろうか?


「先生! わ、私、何しちゃったんでしょう!?」


「これは……わしにも分からん!」


 目の前の女の子がうろたえながら髭のおじいちゃんに尋ねるのに、髭のおじいちゃんは堂々とそう宣言した。


「君は……? ここはどこ?」


 そんな俺は女の子にそう尋ねる。


「は、はい。私はリリー・アリソン。ここはウィザーズランド魔術学校です。その、私があなたをここに召喚してしまいました……」


「え?」


「わざとじゃないんです! これは事故でして……その……ごめんなさい!」


 そういうわけで俺はこうして異世界に召喚されてしまったのだった。



 * * * *



 出だしはこんな感じで、そこからは北上とリリーが卒業を巡る3つの試験を攻略していく話になる。それから北上とリリーが友情を深め、やがては友情を越えて恋愛関係となるのも目玉だ。


 羽黒さんはそんな俺の小説を黙々と読んでいた。


「凄いじゃん、東雲君! これ、面白いよ!」


「ありがとさん。何とか恥さらしにならずに済んで安心してる」


「謙虚だな~。もっと『面白いだろ?』ってどやっていいのに」


「どやりません」


 羽黒さんが肘で俺をつついて言うのに俺は首を横に振る。


「そう言えば伊吹さんは何書いたの?」


「うええっ!?」


 羽黒さんの関心は次は伊吹に向いた。


「い、いろいろと書いた……」


「まだ秘密にしておきたい感じ?」


「で、できれば永遠に秘密にしておきたい……」


「そっかー」


 羽黒さんでも伊吹に無理やり迫ったりはしないんだな。距離感が分かっているというか、伊吹の態度があまりにもあんまりなせいか……。


「さて、今日はみんな無事に締め切りを守って、部誌の発行も可能になったわけであるし、俺がみんなにジュースを奢ろう!」


「マジすか。やったー!」


 よ! 長良部長、太っ腹!


 というわけで俺たちは中庭に移動して、自販機から好きな飲み物を長良部長に奢ってもらった。


「いやあ。先輩たちが卒業して俺だけ残ったときは文芸部も廃部かと思ったけれど、みんなが入部してくれてよかったよ!」


「本当に最初部員って長良部長だけだったもんね……」


 文芸部には去年までは3年生が4名いて、他は1年生の長良部長がひとりだけだったらしい。で、今年になって3年生が去ったので、文芸部は長良部長だけが残されていたのだった。


 そして、1名で部活が維持できるわけもなく、廃部の可能性もあったが、そこに俺たちが入部したということになる。


「へえ。そんな状況だったんですか。文芸部、楽しいのになぁ……」


「そう思ってくれると嬉しいよ、羽黒さん。君たちも来年は後輩をゲットして入部させてくれ。文芸分の存続がかかっているからね」


「了解です!」


 羽黒さんが長良部長の言葉に張り切っている。この人、本当に文芸部が気に入ったみたいだな。意外である。ちょっと来たら飽きてやめると思ったのに。


「来年か……。3年しか高校生活ってないんだよね……」


「そうだなぁ。長いようで短いよな。3年になったら受験もあるんだぜ?」


 古鷹がぼんやりとそんなことを言うのに俺も相槌を打った。


「そんな君たちにひとつ提案があるのだが、聞いてみないかね?」


 と、ここでどこかどや顔で長良部長が提案する。


「なんです、部長? 面白いことなら歓迎です」


「面白いことだとも、同志東雲。うちの父方の実家が旅館をやっていてね。今度リニューアルするんだが、よければそこに泊まりに来ないかね? かつて文豪たちが旅館で執筆したように我々も旅館で小説を書くのだよ!」


「おお。マジで面白そうじゃないですか!」


 うひょー! 夏休みに面白そうなイベントが出現したぞー!


「同志東雲は来てくれるとして、他はどうするかね? 一応部活動して榛名先生も同行することになっているよ」


「じゃあ、あたしも行きまーす!」


 そして、古鷹が名乗りを上げた。


「楽しそう! 私も行きます!」


 当然ながら羽黒さんも名乗りを上げ──。


「わ、私も……一応行く……」


 小さく伊吹が名乗りを上げた。


「よし。じゃあ、全員参加だね。詳細な日程は終業式までに連絡しておくから、心待ちにしておきたまえ。何と温泉もあるからね」


「やったー!」


 俺、温泉大好き!


 しかし、部活のみんなで出かけるってまさに青春じゃないですか?


……………………

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