東雲’sルーム
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──東雲’sルーム
俺は羽黒さんと古鷹を連れて、自宅へと帰ってきた。
「ここが東雲君の家か。普通だね」
「何があると思ってたんだよ」
俺の家は普通の戸建てで、この住宅街では珍しくもないものだ。
「それでは遠慮なく上がってくれ」
俺は家のカギを開けて、羽黒さんたちを招き入れる。
「お邪魔します!」
「お邪魔しま~す」
羽黒さんと古鷹がきょろきょろと家の中を見渡しながら玄関に上がった。
「あら、お客さん?」
ここで羽黒さんたちの声に顔を出したのは母上だ。パートから帰っていたのか、エプロンをした母上が玄関にひょいと顔を出した。
「まあまあまあまあ! 蒼空ちゃん、女の子連れて来たの!?」
「文芸部の友達だよ」
「それはそれは。いらっしゃい。どうぞ上がって、上がって。あとでお菓子持っていくわね」
「そんなに長居はしないから」
……しないよな?
「それじゃ、俺の部屋はこっちね」
俺は2階にある自分の部屋に向かう。
扉を開けて中に入れば、ベッドと机、そして大きな本棚があるだけのシンプルな部屋が広がる。これが俺の部屋だ。自分でもそこそこに片付いていると思う。
「……意外に殺風景だね? ゲームとかはしないの?」
「ゲームはリビングにあるデカいモニターでやるから、ここにはおいてない」
「そうなんだ」
羽黒さんは興味深そうに部屋の中をきょろきょろと見ている。
見られてヤバいものは置いてないので問題はない。しかし、それでもあまりきょろきょろされると心配になる。
「男の子の部屋ってそこまで何か違いがあるわけでもないんだね」
「何を期待していたんだよ」
などと羽黒さんと話していたら、古鷹はベッドの下を覗き込んでいる。
「お前は何してるし」
「定番のエロ本探し~」
「今どきエロ本をそこに隠しているやつはいないぞ」
「ちぇっ」
古鷹は俺の言葉にエロ本探しを諦めた。
ええ。そうですとも。ベッドの下には隠してないですよ。ベッドの下にはな!
「それにしても東雲君、凄い数の本持ってるね」
「ラノベばっかりだけどな」
「いろいろあるなぁ。いつ頃から集めてるの?」
「中学のときぐらいから」
ラノベを読み始めたのは、ちょうどそのころぐらいからだったはずだ。
どうしてラノベに夢中になったのかは覚えていないが、確か最初は表紙買いだったと思う。中身よりもイラストが可愛いから読んでみるかって、そんな不純な動機だったことは覚えている。
「へえ。しののめっちの蔵書はなかなかのものだね。ラノベばっかりだけど」
ラノベ以外には教科書ぐらいしかない本棚を見て古鷹があきれるやら感心するやら。
「ああ! 凄い!これ限定の特典版じゃん! しののめっちゲットできてたんだ!」
と、古鷹が驚くのは『それ負け』の限定版の特典だ。本当に少数しか発行されなくてネットじゃプレミアがついている。
「ふふふ。学校さぼって買いに行ったからな!」
「不良だ~! けど、いいなぁ……」
古鷹はそう言って限定版を眺めていた。羨ましかろう!
「で、お前ら、目的の品を持ったら帰れよー」
「そうだね。もう時間的に遅いし、長居したら迷惑だよね」
俺は羽黒さんと古鷹が探していた本を本棚から出して差し出すと、羽黒さんたちは鞄にそれを仕舞う。
「蒼空ちゃん。お菓子よ~」
ここで母上がお菓子と麦茶を盆にのせて現れた。
「別にいいって、母上。ふたりともすぐに帰るから」
「そうなの? もうちょっといてくれてもいいのに」
「暗くなると女の子だけじゃ危ないだろ」
「そうね……。蒼空ちゃん、ふたりとも駅まで送って行きなさい」
「うへえ」
でも、確かに最近物騒だし、羽黒さんと古鷹だけを帰すのは少し心配だ。駅まで送っていく程度ならば、別に大した時間もかからないしいいだろう。
「じゃあ、駅まで送っていく。帰る準備はいいかい?」
「ふぁい!」
「お菓子食べて終えてからでいいぞ、羽黒さん」
羽黒さんはしっかり出されたお菓子を食べていた。この食いしん坊め。
俺たちはそれから家を出て駅に向かう。
「伊織の家に行く時の参考にはなりましたか、羽黒さん?」
「なったよー! 緊張せずに済みそう。ありがとうね、東雲君!」
「それは何よりで」
どこがどう参考になったかは分からないが、羽黒さんが満足なら別にいいか。
「しののめっち。今日はいきなりごめんね」
「何だよ、今さら。気にすんな」
「へへっ。懐が広いな、しののめっちは」
古鷹はそう言って俺の背中をポンポンと叩く。
「おうおう。東雲さんの懐はマリアナ海溝並みに深いぞ」
俺は古鷹にそう返しながら、羽黒さんと古鷹のふたりを駅まで送り届けた。
「また明日ねー!」
「また明日」
羽黒さんと古鷹が去り、俺は駅から自宅に戻る。
しかし……俺の部屋に女の子が来たんだよな……。
小学生のときから自分の部屋を持ってるけど、女の子が来たのは初めてのことだ。まさかこんな日が来るとは思いもしなかったぜ。
いや本当に。女の子が遊びにきたこととか一回もねーもん。遊びに来るのは男ばっかりである。そういうものがずっと続くのかと思っていたが、いやはや。
「ただいま」
俺はそうこう考えているうちに家に帰ってきた。
「ちゃんと駅まで届けた?」
「もちろん」
母上が玄関で待っていて確認するのに俺は頷いて返す。
「文芸部のお友達、初めて連れて来てくれたわね。それも女の子!」
「本借りに来ただけだよ」
「それでも蒼空ちゃんが女の子連れてくるなんて初めてでしょ?」
「それは、はい」
母上がおめでたモードだ。このままだと晩飯は赤飯になりそうだな……。
「それでどっちの子に蒼空ちゃんは興味があるの?」
「いやいやいや。だから、友達だってば。彼女とかではないの。それにひとりは既に彼氏持ちだしさ」
「そうだったの?」
「そうだったのです」
凄く残念そうな母上。息子がこのまま彼女を作ることなく青春を追えるのではなかろうかと心配する気持ちは分かるが、それは余計なお世話である。
「なら、今度は彼女を連れてきてね。楽しみにしているから」
「はいはい。いつか連れてきますよ」
「期待してるわよ。それじゃあご飯にするから手を洗ってきなさい」
「了解」
母上に適当にそう返しながら、俺は手を洗うと食卓に向かった。
親父殿は今日は帰りが遅いみたいで、母上が親父殿とスマホで連絡していた。俺もいつか親父殿のように働かなければならんのだろうが、ホワイトな職場がいいなぁと思ったりする。
「お父さんもびっくりしてたわよ。蒼空ちゃんが女の子連れてきたって言ったら」
「別に親父殿に教えなくてもいいじゃん。女の子連れてきたぐらいで親戚一同に自慢する気かよ」
これでは俺に本当に彼女ができたらどうなることやら…………。
もうパーティでも開くんじゃなかろうか? 想像もしたくない……。
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