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原稿の進捗はどうです?

……………………


 ──原稿の進捗はどうです?



 週末は青春を味わったが、月曜になればすぐに日常が戻ってくる。


 目下、俺を悩ませているのは部誌に載せる小説の件だ。


 世界観はぽつぽつとできているのだが、肝心のストーリーがいまいち定まらない。


 というか、主人公とヒロインの関係性について定まらない。


 俺はストレートに好意を伝えてくれる美少女が好きだ。好意をごまかしてて伝わりづらいツンデレとかは勘弁してほしい。


 なので、ヒロインであるリリーも主人公の北上への好意を隠さず、ストレートにぶつけてくれるキャラにするつもりだ。


 だが、ここで問題になるのは北上の性格である。ストレートに好意を伝えられ、どう反応するのか。ここが肝心なのだ。


 一応主人公とヒロインの関係性もテーマの上なので、最終的に結ばれるのは最後のシーンにしたい。北上が『君のことが好きだ!』と言い、リリーが『私も君のことが好きだよ!』というのが最後のシーンを盛り上げる要素としたい。


 だがである。ストレートに好意を向けるヒロインが最初から隠すことなく好意を向けてきて、主人公があっさりとそれを受け入れてしまうとそれが難しくなる。


 この問題を解決するには複数の手段がある。


 1)リリーが主人公に好意を持つのを遅らせる。


 2)北上を鈍感系主人公にしてしまう。


 3)第三勢力の存在を出す。


 1)はリリーが北上に好意を持つまでの過程を書けばいいのだが、それが問題なのだ。俺は恋愛経験が皆無に等しいので、どうすれば女の子が男に惚れるのかがさっぱりと分からぬ。


 2)鈍感系は……行き過ぎると好きじゃない。読んでいて『お前、女の子がそこまでやってるのに無視するのかよー! クソボケがー!』って怒りの方が勝ってしまうときがある。


 3)主人公とヒロインの間に別の魅力的な女の子or男の子が出現。ふたりが素直にくっつくのをかき乱す。しかし、何だか寝取られみたいで気が進まない……。


「う~む……。どうしたものか……」


 そんなわけで俺は放課後の部室でタブレット端末を前に悩んでいた。


「どうしたんだい、しののめっち? 創作の悩み?」


 俺が悩みに悩んでいると、古鷹がタブレットの画面を覗き込んできた。


「なあ、古鷹。女の子が男を好きになるときってどんな感じなんだ?」


「そ、そ、それって小説の話…………?」


「ああ。どうにも上手い具合に書けなくてさ。困ってるんだ」


 男が女の子に惚れるのは分かる。俺も男だからな。可愛い女の子というのは、それだけでもう惚れる理由になり、可愛いということは外見でも性格でも表現できる。


 しかし、その逆は分からない。俺は女の子じゃないからな。


「そうだね……。そんなに難しいことじゃないぜ。ちょっと趣味が合ったとか、カッコいいところを見ちゃったとか、優しいとか、そういう些細なことが積み重なって好きになるってもんじゃん」


「そうなのか。劇的に何かイベントがあってとかではなく?」


「人生ってそんな創作みたいにできてないんだぞ」


「そりゃそうだな」


 まあ、俺が悩んでいるのはその創作上の恋の悩みなのだが。


「それにしてもしののめっちの話も恋愛ものなんだ?」


「恋愛がメインじゃないけどな」


「どういう話なんだい~?」


「教えな~い」


 まだまだ人様に見せるには内容が決まり切っていない。


「けど、大丈夫? もうそんなに締め切りまで猶予ないよ?」


「そ、それはそうなのだが……。古鷹、お前は書けたのか?」


「それなりにね。読んでみる?」


「いいのか?」


「うん。感想聞きたいし」


 そう言って古鷹は自分のタブレット端末を俺に見せる。


 ふむふむ。参考にさせてもらおう。



 * * * *



『暗き森の魔女、騎士を拾う』 古鷹 澪



 それはふたつの月が揃って満月の夜のこと。


「あれは……?」


 森の中の少女の声が響く。


 王国の北部はエルセリオン山脈の麓にある森──そこは昔から魔女が暮らす暗き森と呼ばれてきた。


 事実、そこに魔女はいた。


 魔女の名はメルディ。師匠から魔法を教わって以来、この森にずっと暮らしている魔女だ。その外見はまだ10代の女の子のようだが、これも魔法によるもの。実際にはもっと年上である。


 そんなメルディの前に倒れているのは、甲冑を纏った男性。


 血を流しているような様子はなく、森に潜む魔物に襲われたわけではなさそうだ。


「……どうしました?」


「うううう……」


 メルディが声をかけると男性はうめき声を上げる。


「は、腹が減った…………」


 そして、男性はそう言ったのでした。


「これ、食べます?」


 メルディはそう言っていつ持ち歩いているクッキーを男性に差し出す。男性は顔を上げてクッキーを匂うとそのままクッキーに食らいついた。


「お、美味しい……」


 がつがつと餌付けされるハムスターのようにクッキーを食べる男性。


 やがて元気を取り戻したのか、よろよろと立ち上がる。


「申し遅れた。私はレオン・フォン・グリムシュタット。王国の騎士であり、この暗き森に潜む魔女を討伐しに来たものである!」


「そうですか。私がその魔女ですけど」


「え……!?」


 メルディがあっさりと告げるのにレオンは驚きに目を丸くしたのだった。



 * * * *



 話はそれから命の恩人であるメルディを頑なに魔女と認めないレオンと、そんなレオンを面白がるメルディの話になった。


 ふむふむ。命の恩人ってのは分かりやすい惚れ要素だよな。命を助けてもらっておいて、その恩を仇で返すような真似はできないし。何より、なんだっけ、そう吊り橋効果ってやつもあると思う。


 この古鷹の小説は短編なので、そこまで大きな風呂敷は広げておらず、メルディとレオンがいい感じの間柄になったところで終わっていた。続いていたら、もっとラブラブなイベントとか見れたかもな。


「どうよ、しののめっち?」


「面白い。才能あるよ、お前」


「へへっ。お世辞でもそう言ってくれると嬉しいぜ」


 お世辞ではないんだけどな。マジで言ってるんだけどな。


「というか、もう完成しているとか仕事が早いな……。俺のも手伝ってくれない?」


「別にいいけど。恋愛描写以外、どこでお悩みなんだい?」


「書き出しが重要だって言うじゃん。どういう書き出しにしたらインパクトあるかなと思って。プロットはこんな感じなんだけど」


 俺は考えている魔法学校もののプロットを披露した。


「へえ。面白そうじゃん。このプロットで書き出しと言うと、召喚されるシーンからがインパクトが強いよね」


「俺もそう思うけど、どこから描写していいかと思ってな。召喚された場所の情報とか、周りの人間とか、主人公の心境とか。描写しなきゃいけないものが多すぎて、どれから始めたものか……」


「それならヒロインから描写してみるのは? 他の誰よりも重要な人物だし、しののめっちの話の主軸でしょ?」


「確かに……」


 俺は書き出しをいろいろ考えていたが、ヒロインを最初に描写するのが話が分かりやすくなっていいということに気づかされた。


「助かったぜ、古鷹。これで書けそうだ」


「それは何よりだぜ。頑張ってね。書けたらしののめっちも読ませてよ~?」


「ああ。形になったらな!」


 やはり古鷹は頼りになるな。文学少女は伊達じゃない!


……………………

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