モテ期到来なんですか?
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──モテ期到来なんですか?
ダブルデート当日。
まず重要なのはまかり間違って俺と高雄さんが本気デートしていると思われないこと。それは高雄さんにとっても不名誉だろうし、俺にとっても要らぬ騒動の種となってしまうのだから。
だから、今日の東雲さんはばっちりサングラスで決めてきましたよ。親父殿が持っていたカッコいいサングラスを借りてきたのだ。これで他人が見てもすぐに俺だとは分からんだろう。
そして、俺は待ち合わせ場所である駅前に向かう。
現地には既に羽黒さんがついていた。きっと昨日は眠れなかった口だな?
「おーい、羽黒さん」
「え。ど、どちら様……?」
「俺だよ、俺。東雲だよ」
俺はちょいとサングラスを外して羽黒さんに挨拶。
「……ええー……。なんでせっかくのダブルデートにそんなトンチキな格好してきたの、東雲君……」
「うるせー。カッコいいだろ?」
「映画に出てくるチャイニーズマフィアみたい」
「それはカッコいいってことだ」
羽黒さんが白い目で俺を見るのに、俺はそう言い張った。
「凛、東雲君」
と、ここで待ち合わせ場所に見知った声と知らない人が。
来たのは大きなサングラスをかけたお忍びの女優みたいな人だった。
「……どちら様?」
「あ、あたしだ。高雄だ」
サングラスをずらして顔を見せるのは、確かに高雄さんだ。
「おお。高雄さんかぁ。驚かせるなよー」
「東雲君こそ随分な格好だな」
「うるせー」
俺のサングラスはカッコいいの!
「しかし、不審者コンビじゃん、ふたりとも……。浮くなぁ……」
俺と高雄さんのファッションに羽黒さんは不満げ。この女、自分が無理やりダブルデートにつき合わせているという罪の意識が足りないな?
けど、1日だけなら高雄さんとデートするのもいいよなぁ……。
「それにしても阿賀野はまだなのか?」
「今、駅に着いたって。そろそろ……。いたいた!」
俺が尋ねるのに羽黒さんが満面の笑顔で手を振る。その先には阿賀野がいた。
「おう、凛! それに咲奈と東雲君……だよな……?」
爽やか笑顔のナイスガイのご登場だ。ファッションも決まっているが、俺のファッションを理解するほどのお洒落マンではないようだな。
「おう、今日はよろしく、阿賀野……さん」
「ちょっとよそよそしいから名前で呼び合わないか? クラスメイトなんだしさ」
「じゃあ、よろしく頼む、伊織」
「任せろ、蒼空」
まさか友人の天竜より先に名前呼びを解禁することになろうとは。これが一軍の陽キャの恐ろしさというものか……!
「では、今日のデートプランを説明するね~!」
うきうき気分で羽黒さんがデート計画を披露する。
「まずはね。映画に行くんだよ。それからお昼を食べて、カラオケに行って、それからそれから……」
「おいおい。詰め込みすぎだぞ」
「えへへ。張り切って来ちゃったから!」
こうして羽黒さんと伊織を見ていると、本当にカップルのように見える。
「……どう思います、高雄さん?」
「……仲はとてもいいと思うが……」
高雄さんは困り顔でそう言う。
一見して羽黒さんと伊織は文句なしの美男美女のカップルだ。文句など出ようもないだろう。しかし、その中身は未だにどういう関係なのか分からない男女である。
「おーい! 咲奈、東雲君! 行こう、行こう!」
「はいはい」
俺と高雄さんはウキウキルンルンな羽黒さんのあとに続いて映画館に向かった。
映画館は繁華街にあるもので、俺たちは歩いて映画館まで向かう。
「今日は何を見るんだ?」
「今日はね。ホラー映画だよ。『都市伝説調査隊』っていうの。滅茶苦茶怖いって評判だったから覚悟しろ~!」
「ははっ。それは困ったな」
俺は羽黒さんと伊織の言葉を聞いて動揺する。
ホ、ホラー映画かよ。
実は俺は怖いの大の苦手なのだ……。ホラー映画のあらすじ読んだだけでビビりちらすクソ雑魚メンタルなのである。
「た、高雄さんはホラーは平気?」
「ああ。昔からそういうのは平気だ」
「そ、そうか」
一応デートということになっているので、俺が高雄さんの心配をするが、高雄さんは心配無用と言う具合であった。
ヤバい。このままだとひとりだけビビり散らしてネタにされてしまうぞ。
いやいや。心を強く持つんだ、東雲。ホラー映画を見るときは感情移入し過ぎず、撮影の裏側を想像すると怖くないと天竜も言っていたぞ。
「東雲君、大丈夫か?」
「お、お、お、おう! だ、だ、だ、大丈夫、大丈夫!」
「……本当に大丈夫か?」
高雄さんが心配してくるのに俺が震えながら頷く。
「ひょっとしてホラーは苦手か?」
「…………はい」
「そうか。すまないな。無理やり付き合わせてしまって」
「いや。俺も納得したことだらから別に」
「それでもだ」
そう言うと高雄さんは俺の手を取った。
「怖くないように手を握っておいてやろう。どうだ?」
いきなり高雄さんの柔らかな手の感触が伝わってきて、混乱しそうになった。
「い、いいの?」
「ああ。私も弟が怖いのが苦手でな。昔は手を握ってやったものだ」
弟扱いかい。
でも、こうして女の子に手を握ってもらえるって凄く、凄く青春じゃないか? 青春ど真ん中じゃないか?
それに、これ、一応デートだしな……。
ちょっと前の俺ならばこうして可愛い女子とデートするなど童貞の空しい妄想でしかなかっただろうが、今ではこうして実現しているのである。
まあ、相手は暴走ガール2号の高雄さんなんだが……。
「ね、ねえ。伊織、私たちも手を繋がない?」
「ん? いいぞ。迷子になったら困るからな」
「もー。そんなこと言ってー」
羽黒さんと伊織は本当に彼女と彼氏のように見える。
しかし、微妙に距離感を感じるというか、どこか男女の恋愛関係ではないようにも見える。俺の気のせいだろうか…………?
そんなことを考えている間に、俺たちは映画館に到着。
映画館に貼られるポスターに『都市伝説調査隊』というものはあり、もうポスターだけで滅茶苦茶怖そう……。
「高校生4名で!」
学生証を見せて羽黒さんがそう注文し、チケットを買うと、俺たちはポップコーンや飲み物を買うことにした。
「東雲君、ポップコーンはバター醤油なんだ?」
「ああ。甘いのはあんまり好きじゃない」
「ええー。キャラメルも美味しいよー? ひとつ食べてみ?」
そう言って羽黒さんが俺に口にキャラメルポップコーンをねじ込んでくる。
「う~ん。やっぱりポップコーンはしょっぱいのがいいな」
「そっかー。伊織はどうしたの?」
ここで羽黒さんが伊織にそう尋ねる。
「俺もバター醤油だが、キャラメルも好きだぞ」
「じゃあ、わけっこしようね!」
「ああ」
本当に羽黒さんは今日は楽しそうだ。
「高雄さん。ポップコーン、買えた?」
「ああ。あたしのはスーパースパイシーハバネロ味だ」
「……滅茶苦茶辛そうっすね……」
毒々しいほどに真っ赤なポップコーンを抱える高雄さんであった。
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