故意か過失かのシーソーゲーム
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──故意か過失かのシーソーゲーム
俺はついに部誌に載せるための小説を書き始めた。
あらすじはこんな感じである。
『魔法で栄えた世界“ウィザーズランド”。その魔法学校の生徒でありヒロイン“リリー・アリソン”に主人公“北上クロ”は召喚された。彼女は魔法学校の卒業試験に合格するために北上の力を借りたいという。北上はそれを承諾し、ふたりは魔法学校の卒業試験に挑むのだった』
……魔法学校に召喚される話って古典ラノベだとあるみたいなんだけど、一応ネタ被りではないかを確認しておかねば。
さて、このあらすじなのであまり風呂敷は広げず、魔法学校の中だけで終わらせ、卒業試験に絞った内容にするつもりだ。
あんまり壮大な話に素人が挑むのは無謀だろうからな……。
「東雲君ーっ!」
俺がそのようなことを考えてスマホの創作メモに思いついたアイディアをメモしていたとき、現れたのは我らが爆走にして暴走ガール羽黒さんだ。
お次は何だい……?
「ちょっと来て、ちょっと」
「はいはい」
俺は羽黒さんに引きずられるようにして、いつものように屋上に続く階段の踊り場に向かった。
「で、どしたの?」
そう俺が尋ねると羽黒さんは爆発寸前という感じにこぶしを握り締めて告げる。
「伊織が今度遊びに行こうって言うんだよ」
「いいじゃないですか。行けば」
「だけど、咲奈を誘ったんだよ!?」
「高雄さんを……?」
阿賀野が高雄さんを誘ったって? 何故に????
「高雄さんは断らなかったの?」
「それはもちろん遠慮してくれたよ? 咲奈は私の親友だからね。だけど伊織のやつ『じゃあ、他に誰か誘おうか』だって!」
……俺はこれまで羽黒さんの言い分をしっかり信じて、目をそらし続けてきたのだが、そろそろ目を向けるべきかもしれない。
「あのさ、羽黒さん。阿賀野って羽黒さんと付き合ってる気ないんじゃない?」
「ええええっ!? ど、どうして!?」
どうしてって。もうこれまでの行動全てが物語っているとしか……。
「この問題にはふたつに解釈の仕方がある」
俺はふたつ指を立てる。
「ひとつは阿賀野は羽黒さんと付き合っているけど、途方もないノンデリボーイかつ性格最悪な男と見做すこと」
「い、伊織はそんなことないよ! いい子だよ!」
「もうひとつは阿賀野は羽黒さんが言う通り、いいやつだけど羽黒さんと付き合っているつもりは全くなく羽黒さんを友達程度に思っているということ。」
阿賀野は事実としてこれまで──。
1)羽黒さんの主張するデートをすっぽかした。
2)それでいてお詫びのデートなし。
3)しかしながら、浮気はしていない。
4)羽黒さんのことが嫌いなわけではない。
ということが分かっている。
これを解釈するのが、上のふたつの選択肢だ。
阿賀野が性格が悪いからこういう行為に出ているのか、それとも阿賀野は羽黒さんを彼女だと認識していないからこういう行為に出てしまったのか。
故意か過失か。
「うぐぐ……。そ、それって、ど、どうやって確かめればいいんだろう……?」
羽黒さんはそう言って俺に尋ねてくる。
「はっきり告白したらいいんじゃね? あいまいにしているからこういう問題になってしまうわけでして」
「で、でも、もうちょっと告白前のイベントを増やしたいし!」
羽黒さんはさぁ。ギャルゲーのイベントシーンのスチル全部回収したいタイプの人?
「そうだ! 今度のデート、ダブルデートにしよう!」
「へえ。面白そうっすね」
ダブルデートか……。ラノベでしか見たことねーや……。
「何を部外者っぽく言ってるの? 東雲君が付き合うんだよ?」
「…………は????」
羽黒さんがばちっとウィンクして告げるのに、俺は一瞬で頭の中がはてなマークで満たされた。
「知ってるんだよ~。東雲君、咲奈といい感じなんでしょ~?」
意地悪げな笑みを浮かべてそういう羽黒さん。
「い、い、いやいやいや! そんなことねーし! 全然違うし!」
「またまたー。咲奈からも東雲君の話をよく聞くんだ。凄いいいやつだって、咲奈がべた褒めしてたよー?」
マジか。高雄さんが…………。
『あたしも恋をするならば、お前のような相手がいいな』
あれってマジだったり……?
待て待て、東雲。早まるな。あれはやめておいた方がいい。羽黒さん同様に見た目はいいが、中身は反応速度ピクリン酸な残念ガールだぞ!
「だからさ、だからさ! ダブルデートしよ! 私と伊織、東雲君と咲奈で!」
「いやマジでちょっと待って」
俺、これを機にマジで高雄さんと付き合うことになったりするの?
「お願い、東雲君! またお昼作ってきてあげるから!」
「いや、その……高雄さんの意見も重要だと思うな! うん、高雄さんの事情も聴いておかないと!」
俺はここでこう切り返した。
きっと高雄さんは俺とのデートなど拒否するはずだ。俺みたいな二軍男子と付き合っているなどと噂が流れては、高雄さんだって迷惑するはずだし。
「じゃあ、早速咲奈に聞いてみるね!」
そう言ってスマホを取り出し、ぱぱぱっとメッセージを送る羽黒さん。その行動力を他に活かせよ~!
「咲奈はオーケーだって! やったね、東雲君!」
「マ、マジか……」
高雄さん、絶対拒否ると思ったのに……。
「日程はね。今週末の土曜日に出かけることになっているから。詳細はあとでチャットで送るよ。絶対に来てよ?」
「…………はい」
俺は観念した。
ときとして人は運命に身を任せる必要があるのだろう。俺にとってはそれは今回のときなのだろう。
悠久に流れるガンジス川のような大いなる運命に、俺は身を任せようと思う。
……そのまま土左衛門になりそうだが……。
* * * *
「東雲君。話は凛から聞いていると思うが……」
で、問題の高雄さんが俺に話しかけてきたのは、次の休み時間で流石にうろたえた様子であった。
「聞いてます、聞いてます。その上で聞くけど、本当にいいの? 俺なんかと……」
「別にお前に不満があるわけでは……。しかし、今回の件はあくまで凜のためだ。凛が伊織とやり直すチャンスを作るために、あたしたちがダブルデートに付き合うということになる」
「そこら辺しっかり理性的で助かります」
やっぱり高雄さんも俺と彼氏、彼女の関係として付き合う気はないのだな。安心したけとちょっと悲しい……。
「すまない。お前にはいろいろと迷惑をかけて」
「気にするな。高雄さんのせいじゃないし」
そうそう、全部羽黒さんと阿賀野のややこしい関係が悪い!
「そう言ってくれて助かる。あたしも凜を応援したいし、それに……」
「それに?」
「何でもない。では」
高雄さんの顔がちょっと赤かった気がするけど気のせいか?
それにしても俺の青春の行方は…………。
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