さわやかサッカー部
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──さわやかサッカー部
俺と高雄さんはコッペパンと牛乳を手にサッカー部が練習を行っているグラウンドに向かった。
「あそこに阿賀野がいるな」
あいつ、サッカーもできるらしく、グラウンドでボールとともに駆けまわっている。まさにボールはフレンドという具合である。
おお! ゴールを決めたぞ! こいつ、マジでスポーツ万能だな……。
「東雲君。マネージャーは見えるか?」
「待て待て。探してみよう」
俺たちはサッカー部員に見つからないようにこそこそと隠れながら移動し、サッカー部のマネージャーの姿を探す。
「あれじゃないか?」
そこには体育服姿の女子がいた。
素朴な可愛さであるバスケ部の熊野先輩とは違って、ばりばりにお洒落しているカワイイ系女子だ。彼女は雰囲気がどことなく羽黒さんに似ているような気がする。
そんなマネージャーは何だかあまりやる気なさそうな感じで飲み物を配ったり、記録を付けたりしている。
「東雲君。あのやる気のなさは男目当てで入ったマネージャーというやつではないか? そうだろう?」
「いや。まだ決めるのは早い。あれがデフォの人なのかもしれないし」
俺たちがマネージャーを見張る中、再び阿賀野がゴールを決めてホイッスルが鳴った。そのホイッスルを合図にサッカー部員たちがグラウンドの中心に集まり始める。
「阿賀野! 流石だな。お前はエースの素質があるよ」
「ありがとうございます、部長」
「それでさ。サッカー部、入ってくれる気になったか?」
「実はまだ決めてなくて。すみません!」
こいつ、いくつ部活体験入部してるんだろうな?
「そうか……。まあ、高校生活はたった3年しかなくて、そのうち部活にフルに打ち込めるのは2年ぐらいだ。後悔しないように決めろよ」
「はい!」
実に爽やかな青春だな……。スポーツマン同士の青春だ。ちょっと憧れるぜ。
「おい、部員ども~。水飲めよ~。熱中症で死ぬぞ~」
と、ここでやる気なさそうにスポーツドリンクを配るマネージャー。
「ありがと、三隈」
「へいへい。このクソ熱いのにご苦労さんで~す」
阿賀野はマネージャーのことを三隈と呼んでいた。どうやら同学年らしい。
「高雄さん、同学年っぽいけどあの人知らない?」
「知ってる顔じゃないな。あとで調べてみよう」
同学年なら熊野先輩のときより調べやすくはあるだろう。恐らく。
しかし、一軍で人付き合いも広い高雄さんが知らない人か。どういう人なんだろう。
「練習再開だ!」
それから蒸し暑い中、サッカー部は練習を続け、阿賀野はエースストライカーのごとく活躍を続けていた。
「阿賀野って本当に運動得意なんだな……」
「ああ。伊織は体を動かすのが好きらしい。勉強もできるし、あいつができないことは女心を理解することぐらいだろうか」
「いやあ。それは割と難しいっすよ」
女心って本当に分からんのよ。羽黒さんも、古鷹も、何考えてるのかさっぱり。
「しかし、羽黒さんが惚れたのも分かるのは分かるっすね。あれはモテるわ」
ボールを巧みに操り、チームと連携して勝利を目指している阿賀野。あれだけスポーツができれば、多少性格に難ありでもモテるでしょ。
「だろう。だからこそ、浮気を疑っているわけだが……」
「そう言えばマネージャーさんの姿が見えなく──」
とんとんと不意に俺の肩が叩かれる。
「何してんの、あんたら?」
「うわっ!」
いつも間にかマネージャーの三隈さんが俺たちの背後に回り込んでいた!
「入部希望者、には見えないけど、どうかしたの?」
「いや。ちょっとサッカー部に友人がいて様子を見ようと……」
「ふうん?」
俺の言っていることを全く信じていないという目で三隈さんは見てくる。
「三隈、だったか。どうしてサッカー部のマネージャーを?」
ここで高雄さんがストレートにそう尋ねた。
「別に~。あたし、4月にちょっと大きな病気で入院しててさ。その分、成績が悪くなっちゃったから、先生に内申点で補うためにどこか部活に入った方がいいって言われたわけ。でも、運動は苦手だし、文科系は何か陰キャっぽしさ~」
面倒くさいというように三隈さんは後頭部を掻く。
「だから、サッカー部のマネージャーしようって思ったわけ。でも、これもクソ暑い中での活動だし、もっと楽な部活ないかな~。あんたら何か知らない、楽な部活?」
「シラナイデス」
文芸部にこれ以上個性的なメンバーはいらないです。
「そっか~。じゃあ、誰が目当てか知らないけど、ストーカーはやめなよ~」
三隈さんはそう言ってぶらぶらとグラウンドに戻っていった。
「……全然阿賀野目当てじゃなかったですね」
「……そうだな。4月にいなかったからあたしも知らない生徒だったわけか……」
阿賀野狙いではなかったことも、高雄さんが三隈さんを知らない理由も分かった。
これで万事解決!
「すまない、東雲君。またしてもあたしの思い込みだったようだ……」
「これで謎が解けてすっきりできたなら、別にいいよ」
コッペパンと牛乳を奢ってもらったしな。文句はないです。
「ああ。これからは凜と伊織のことを見守ろうと思う」
「そうしてくだされ」
俺は笑みを浮かべてそう言うと高雄さんがじーっと俺の方を見てくる。
「東雲君。お前は本当に優しい人間だな……。あたしがこうして振り回しても、嫌な顔ひとつせずにいてくれて……」
「そうですよ。東雲さんはジェントルマンですから」
「ははっ。そうだな。紳士だな」
そう言って高雄さんは笑っていた。
「あたしも恋をするならば、お前のような相手がいいな」
「え……」
高雄さんがさらりと言った言葉に俺は固まる。
「あ! い、いや、今のは、その、じゅ、純粋な感想だ! 付き合いたいとかいう意味ではないぞ!」
「わ、わ、わ、分かってますって! そんな童貞みたいな勘違いしねーし!」
ふたりして大慌てに大慌てする俺たち。
そして、俺たちは顔を真っ赤にすると視線をそらし合った。
「きょ、今日はありがとう、東雲君! それでは!」
それから高雄さんはそう言ってぶんぶんと手を振ると走り去っていった。
これってひょっとして俺たち……。
「……いやいやいや」
あの高雄さんだぞ。浮気認定センサーの感度がピクリン酸な羽黒さんに次ぐ暴走ガール2号だぞ。ないない! なしなし! あり得ない!
「くそう。最近の俺の青春はどうなっちまってるんだよ!」
羽黒さんにデートに付き合ってからというもの、俺の青春は滅茶苦茶だぞ! 責任者を出せ! 責任者を! 俺の青春の責任者はどこかーっ!?
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