お次は容疑者はサッカー部
本日2回目の更新です。
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──お次は容疑者はサッカー部
「よう、東雲。えらく最近読書家だな?」
俺が休み時間に古鷹に勧められた本を読んでいるのに、天竜がそう言ってきた。
「おうよ。東雲さんは本をこよなく愛する文学少年だからな」
「ついこの間までラノベばっかだったくせに、よく言うぜ」
天竜はそう言いながら俺の読んでいる本を覗き込んでくる。
「それ、どういう経緯で読みだしたんだ?」
「文芸部の仲間に勧められた」
「へえ。文芸部って女の子ばっかりだったよな」
「部長は男だぞ」
「他は全部女の子だろ?」
そう言えばそうだな。意識しなかったが古鷹と伊吹も女子なんだよな……。
「文芸部でモテモテハーレムは作れそうですか、東雲さん」
「無理」
「だよな」
茶化す天竜に俺は肩をすくめた。
古鷹のイメチェンや羽黒さんの恋愛思考すら理解できぬ俺にハーレムなど無理。それこそ聖徳太子みたいに10人の言っていることを理解する程度の能力がいるぜ。日本史の先生が『聖徳太子は扱いに困るんですよ~』と言っていたが。
「東雲君」
そこで天竜の後ろから現れたのは、友人守る駄犬──もとい番犬ガール高雄さんだ。
「ちょっといいだろうか?」
「ああ。いいけど……」
また阿賀野絡みか? けど、この前図書館で見たときは羽黒さんといい感じになってたけどな……?
俺はそのようなことを思いながら高雄さんについていき、体育館裏へ。
「東雲君。凛が最近また伊織とやり直すと言っていたのだが、何かあったのだろうか? 凜に聞いても教えてくれないんだ……」
「教えてくれない……?」
隠すようなことだったろうか?
「うむ。図書館でいいことがあったとだけしか教えてくれず……。あたしは信頼されていないのだろうか……」
「う~む」
何か隠さなければいけないような要素があったか……?
図書館ではただ阿賀野に会って、あいつといろいろ話して、羽黒さんは機嫌がよくなっていたように見えたのだが。
あ。匂わせの件か? あれがあるから伏せているのか? もしかして、羽黒さん、自分が俺のこと匂わせに利用していたの高雄さんがもう知ってるって知らない?
なら、話しても大丈夫そうだな。
「実は図書館で──……」
俺は図書館で何があったのかを、高雄さんに話した。
「ほうほう。伊織にやつが凛のことを思って……。それ聞くといい兆しが見えてきた気がするが、実は不穏な情報もあるんだ」
「何です?」
「伊織のやつは最近サッカー部に体験入部しているんだが、そのサッカー部に可愛いマネージャーがいるという話でな……」
またそれかよー! いくらなんでも疑いすぎだろ! あんたにとってもう阿賀野は何なんだよ!
「いやいや。阿賀野は今は羽黒さんといい感じなんだろう? 別に疑わなくても……」
「あたしもそうは思うし、心から思いたいのだが、万が一のことがあると……」
「う~~~~む」
俺が阿賀野に接した感じでは、嫌みのない噂通りの爽やかイケメンという感じで、羽黒さんが惚れるのも分かるなぁって感じだったんだけど、もはや高雄さんの中ではエリア51並に胡散臭いものになっているくさい。
「分かった、分かりました。だけど、マネージャーの件はどうやって調べるんです? また告白するってのはなしだぞ?」
「よく聞いてくれた。実はあたしにはちゃんと策があるぞ」
「一応聞かせて」
期待はしてないけど。
「まずは見張ってみようと思う。以前のバスケ部のときのようにな。それで疑わしければ……」
「疑わしければ……?」
「あたしはマネージャーとして、お前は部員としてサッカー部に体験入部する、というのはどうだろうか?」
「それは勘弁してくれ……。俺は運動てんでダメだから……」
俺、滅茶苦茶運動音痴なんだぞ。無理に決まっている。
「すまない。分かった。なら、見張るだけでいい。頼む、東雲君。協力してくれ」
「仕方ない。張り込みぐらいなら付き合いますよ。牛乳とあんパンでね」
「牛乳とあんパンで????」
張り込みと言ったら牛乳とあんパンだろ?
* * * *
そしてその日の放課後。
「先に文芸部に顔出してからでいい?」
「ああ。それはもちろん」
高雄さんに許可を取ってから俺は文芸部にまずは顔を出そうとしたのだが……。
「高雄さん、着いてくるの……?」
「? 何か困るのか?」
「いや。別に困りはしないけど……」
ひょっとして俺も見張られているのかと思ってしまうよ。
そんな疑念を感じながら俺は文芸部の部室に入る。
「おお。同志東雲! ……と、どなた……?」
「ひ、ひえっ! あ、新手の、よ、陽キャだ……!」
首を傾げる部長。ビビる伊吹。
「高雄咲奈だ。東雲君の友人。よろしくお願いする」
「そ、それはどうも。……同志東雲、こっち、こっち」
高雄さんが挨拶するのに部長がまた隅に俺を連れていき、伊吹もやってくる。
「同志東雲。女をとっかえひっかえするのは不純だぞ! それが許されるのは非現実な創作の中だけだぞ!」
「そ、そうだぞ、東雲。こ、これ以上、陽キャを増やすな! と、溶ける!」
部長と伊吹がそれぞれ俺に抗議してくる。溶けるって何だよ……。
「本当にただの友達で、文芸部に入りに来たわけじゃないですから。それよりこれからちょっと用事があるんで、あとで部活には来ます」
俺がそう長良部長と伊吹に弁明していたときだ。
「おお! 我が友、咲奈ー! どうしたの?」
ここで羽黒さんがやってきた。
「凜が楽しそうに文芸部の話をするから、ちょっと覗いてみたくなってな」
「そっか、そっか。ゆっくりしていきなよ。ここはいいところだよー」
羽黒さんはそう言って扉のところにいた高雄さんを招き入れる。
そこで俺のスマホがバイブした。
『東雲! やめさせろ! これ以上陽キャが増えたら、私が私でなくなる! 耐えられなくなる!』
……何やら暴走するフラグを立てているが、こいつが暴走してもチャットで長文送り付けてくるぐらいである。
「すまん、羽黒さん。高雄さんは俺に用事があったんだ。だから、またあとで」
「そうなの? じゃあ、またあとでね!」
伊吹がネット弁慶を越えたネット弁慶になっても、化け物になったりしても面倒なので俺は高雄さんを部室から連れ出すことにした。
高雄さんが出ていくのを見ると、伊吹が安堵の表情を浮かべている。哀れなモンスターであるなぁ……。
「東雲君。サッカー部を見張りに行く前に、ちょっと購買に寄って行こう」
「何故に?」
「お前が言ったんだろう。牛乳とあんパンを奢れと」
「そうでした」
割と冗談のつもりで言ったんだけど、高雄さんは本気にしていたようだ。
俺たちは購買に行くと残っているパンなどを見る。
「あんパンは……残っていないな」
「コッペパンならあるから、それでいいっす」
「いいのか?」
「奢ってもらうのに贅沢は言わないよ」
「じゃあ、すまないな」
高雄さんはコッペパンを2個とパックの牛乳2個を買うと、購買を出て俺にコッペパンと牛乳をひとつずつ手渡す。
「では、いざサッカー部へ」
「おう」
敏腕刑事東雲と高雄さんによる張り込みが始まる。
この事件の真相は如何に!
……まあ、しょうもないオチなんだろうけどさ。
……………………
今日の更新はこれで終わりです。
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