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図書館にて

本日2回目の更新です。

……………………


 ──図書館にて



 俺、羽黒さん、古鷹の3名は市営の図書館に入った。


「久しぶりだなぁ。ここに来るのは……」


 羽黒さんは懐かしむように図書館を眺めている。


「小学生以来って言ってたか」


「うん。昔、お母さんと一緒に来たんだけどね。それ以降は全然」


 俺も最初に図書館に来たのは小学生低学年のときだったけ。絵本が滅茶苦茶あるのに興奮した記憶がある。


「じゃあ、私は本があるはずだから探してくるね」


「ああ。俺も本探すから、あとでエントランスで落ち合おう」


「了解」


 とりあえず俺たちは目的の本を手に入れるために一度別れた。


 俺がほんのりと考えている小説はシンプルな異世界転生ものだ。


 プロットがあやふやすぎた羽黒さんを笑えないが、それ以上のことはあまり考えていないのが現状である。


 ただ異世界に行って、冒険したりして、女の子とちょっと仲良くなったりもして、そして何かしら成長するような話。


 もうありきたりな話かもしれないけど、自分で一から世界を作って、そこに登場人物を配置してと考えるとちょっとワクワクしてテンションが上がる! 自分だけの箱庭を作るような気分って言えば分かるだろうか?


 しかしながら、箱庭は何もインプットのない状態では、本当に何もないただの箱だ。なので、これから構築する異世界の参考になりそうなものをインプットするわけ。


「異世界、異世界、と」


 異世界小説は図書館にもたくさある。売れ筋というか、読む人は多いだろうから、そのニーズに応じているのだ。


 いい感じの異世界小説がないか、俺はあらすじやらを見て回り、気になったのがあれば中身を読んでみた。似ているようで確かに違う世界がそれぞれの作品にあり、俺も自分だけの世界を書いてみたいななどと思うのであった。


「東雲君。見つけたよ!」


 と、ここで羽黒さんが『ミジンコでも書けるファンタジー小説大全』を持ってきて宣言する。ミジンコが『この本なら、ぼくでもファンタジーが書けちゃう!』って言ってるシュールな表紙の代物である。


「おお。よかったな。中身は読んでみたのか?」


「これからだよ。私の求めることが書いてあるはず!」


「王子様とのデートシーンの構築とか、現代知識無双のところとか?」


「そうそう。ファンタジーだからお城でロマンチックなデートって思ったけど、私が知ってるお城って熊本城と大阪城ぐらいだから……」


「まあ、下手な城より籠城戦には向いてそうだけど」


 俺が今読んでいたきらきらなファッションの王子様がドレスのヒロインに『安心するんだ。このお城の畳は芋茎で食べられるんだよ!』っやるファンタジー小説を想像したが、脳内イメージが滅茶苦茶シュールなものになった。


「東雲君もそういうの読んでるってことはファンタジーを書くの?」


「まだ考えてる。決まってない」


「そっかー。しかし、昔は児童書のコーナーしか見なかったから、図書館がこんなに広いなんて改めて知ったなぁ」


「子供ころの記憶にある場所って今見るとかなり違うよな」


「そうそう。遊んでた公園とか通ってた小学校とかもね。『あれ? こんなに小さかったっけ?』ってなっちゃうよ」


 俺も図書館という絵本があるだけの場所だったが、今では他のコーナーにも本が充実していることを知っている。


「私たちも大人になっているんだね」


「大人、ねぇ」


 まだまだ俺たちはガキんちょだと思うけど。


「あ。さっき上げた写真に伊織がコメントしてる」


「何てコメントしてるんだ?」


「『図書館いいよな』だって。待って、チャットの方にもメッセージが来てる」


 あのマンボウ並みの鈍感さの男でも、流石に自分の彼女に男の気配がすることに気づいたか? そうなると俺がまた泥棒猫扱いされかねんのだが……。


「今から伊織が図書館に来るって! 図書館デートだ!」


「羽黒さん、しーっ、しーっ」


 はしゃぐ羽黒さんを静かに本を読んでいた利用者たちがじろりとにらんでいる。


「ご、ごめん。だけど、嬉しくて……。こういうことあんまりなかったから……」


 照れながらも嬉しそうな羽黒さん。


 図書館デートが初ということか? それともこれまでこんな感じでカジュアルにデートをしたことがないってことか?


「俺と古鷹もいるけどいいのか?」


「いいよ、いいよ。大丈夫。伊織は気にしないと思うから」


 それはそれでどうなんだろうな……。


「ふふふ。図書館デートって憧れたんだ。図書館でデートって何か賢そうでしょ?」


「眼鏡かけている人は賢いって言うぐらいの偏見だぞ」


 図書館は良くも悪くも本を読む場所であり、それ以上でもそれ以下でもない。図書館に通えば賢くなるということはないのだ。


「そろそろ伊織が来るから迎え行くね」


「健闘を祈る」


 ルンルン気分で羽黒さんはエントランスの方に向かった。


「しののめっち。羽黒さんはどうしたんだぜ?」


 ここで古鷹が様子を見にやってきた。さっき羽黒さんが騒いで悪目立ちしたせいでもあるだろうけど。


「彼氏が来るみたい。俺たちはそのままでいいとさ」


「羽黒さん、図書館デートってわけだ」


「そうなる」


 俺たちには関係ないけどな。


「そっか……。図書館デートか…………」


 古鷹はそう繰り返す。


「俺たちお邪魔虫は隅っこで邪魔しないようにしておこうぜ」


「オーケー、オーケー。じゃあ、こっちにおいでよ」


「ん?」


 古鷹に率いられて俺たちは異世界小説が置いてある場所から、別に一般書籍の場所へと向かう。何やら難しそうな一般文芸が並ぶコーナーに俺はちょっと困惑する。


「な、なあ、ここに何かあるのか?」


「おすすめの本があるんだよ。ある意味では異世界ものの元祖みたいな小説」


 そう言って古鷹が見せたのは、結構昔の小説だった。


「これ、アメリカの技術者がアーサー王の時代にタイムスリップして、そこで現代の技術で変革をもたらしていくって話なんだ。もし、しののめっちが異世界ものを書くのならば、参考にしてみたらどうだい?」


「おお。面白そうだな。ありがと、古鷹」


 古鷹の選書のセンスはやはりいいな。才能がある。


「これ、借りて読んでみる。面白そうだしな」


「おう。古鷹さんのおすすめだぜ~」


 俺が本を手に取り、古鷹は満面の笑み。


「おっと。見ろよ、阿賀野が来てる」


 俺はそこで阿賀野が羽黒さんと会っているところを見つけた。


「伊織。来てくれたんだね」


「ああ。俺も図書館に用事があったし、それに凜がいるって知ったからな」


「そ、そっか。えへへ……」


 阿賀野は何やら楽しげに羽黒さんと話しており、羽黒さんが幸せの絶頂という具合であった。この幸せが続けば、俺が羽黒さんの匂わせ作戦に参加しなくともよくなるんだけどなぁ……。


「俺も本借りに来たんだ。次の授業の予習に。凛は何を探してたんだ?」


「これ。『ミジンコでも書けるファンタジー小説大全』。文芸部で部誌を書くことになってね。そのための下調べだよ」


「小説書くのか? 凄いな。書けたら読ませてくれるか?」


「もちろんだよ」


 こうしていると本当に付き合っているカップルに見える。


 だが、俺はどうにも違和感を感じるのであった。


 阿賀野は本当に……羽黒さんと……?


……………………

今日の更新はこれで終わりです。


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