インターミッション//文芸部居残り組
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──インターミッション//文芸部居残り組
伊吹琴葉はコミュ障である。
文芸部に入ったのは数少ない友人である古鷹が文芸部に入ったからにほかならない。それがなければ人見知りの激しい彼女が、他人の接点をわざわざ増やそうなどとは考えなかっただろう。
入部当初も部長である長良や東雲に怯えながら過ごしていたが、いつしかある程度打ち解けていた。……今でも口頭で話すのはかなり困難だが……。
「ぶ、部長」
「どうしたかね、同志伊吹」
「こ、今度の作品はちゃんと完結させる、のか……?」
「……それは小説の神様だけが知ることだよ」
この反応は最後までプロットを作っていないなと伊吹は察した。
部長の長良は去年から数作品書いてるが、どれも未完となっている。紛うことなきエタ常連作家であった。
「よ、よく、そんなに、み、未完で放り出して、平気だな……」
「うぐっ!」
伊吹が責めるように言うのに長良は胸を押さえて呻いた。
「だ、だって、新しいアイディアが出たらとりあえず書きたくなるだろう!? それに人間は常に変化し続ける生き物なんだ! 過去に囚われてはいけない! 読者だって新しい話を待ち望んでいる!」
長良はそう弁明したが、伊吹はじーっと彼を半開きの眼で見ていた。
「そ、それは、そうと……古鷹に何かあった、のか……?」
伊吹が疑問に思っていたことを尋ねる。チャットを使わないのは、古鷹に見られないようにするためだ。
「同志古鷹、か。自分も知らないが、何があったんだろうね……?」
「……わ、私みたいな、い、陰キャと、え、縁を切る、ために……イメチェン、したとか……?」
「いやいや。それはないだろう。今でも仲がいいじゃないか、君たちは。同志古鷹の友情を軽視して、友人である君がそういうことを言うものではないよ」
「ご、ごめん……。だ。だけど、さ、最近、古鷹と距離を感じる……」
「ふうむ。分からなくはないが……」
これまでは地味だった古鷹が一気にお洒落になってしまったのだ。このままぬるま湯のような青春が続き、古鷹と一緒にいられると思っていた。
しかし、友人は陽キャに当てられて同じように陽キャに変質してしまったのである。
そして、陰キャと陽キャの間には確実な溝が存在している。
「こ、このまま、わ、私だけ、置いていかれたら……困る……」
「では、思い切って同志伊吹もイメチェンしてみてはどうかね?」
「ど、どんな、感じに……?」
「それはだね。眼鏡をかけるのだよ!」
長良部長が言った言葉に伊吹がきょとんとしている。
「というのも、同志古鷹は文学少女らしく眼鏡をかけていて、眼鏡談義で盛り上がったものだが、彼女は眼鏡を捨ててしまったからな。今、文芸部は深刻な眼鏡属性不足だ。それを同志伊吹には補ってもらいたい!」
パンッと両手を合わせて長良部長が頼み込むのに伊吹は一瞬唖然としたのち、すぐに胡乱な視線を向けた。
「お、お前の、フェチなだけ、じゃないか……。ぶ、部長の、そういうとこ、キモいし、よくないと思う……」
「うぐっ!」
伊吹が言い放つのに長良部長は胸を押さえて崩れ落ちた。
「わ、私も、か、髪、古鷹、みたいにしようかな……。け、けど、び、美容院に行くのが、怖い……」
「いつもどこで切ってるんだい?」
「お、お姉ちゃんが切ってくれる……」
照れながらも伊吹はそう言う。
「しかし、本当に同志古鷹はどうしたのだろうか。いきなりだったよね?」
「う、うん。は、羽黒さんが来た、その日……?」
「もしや……!」
「ど、どうした……?」
長良部長がはっとするのに伊吹がびっくりしながらも尋ねる。
「同志古鷹は羽黒さんとの出会いからお洒落を始めた。つまり全ての起点は羽黒さんにあるということだ。そのことから導き出されるのは……同志古鷹は羽黒さんのことが……好き……!」
「ま、まさかの、ゆ、百合展開!? ふ、古鷹がキマシタワー……!?」
ふたりして今明らかになった驚愕の事実のように驚いて見せたが、すぐにふたりとも馬鹿らしいと真顔に戻った。
「ありえんね。そんな伏線どこにもなかったし」
「そ、そうだぞ」
「となると……」
再び長良部長が推理モードに入る。
「同志古鷹は羽黒さんが来た日からお洒落を始めたが、羽黒さんを意識したものではない。羽黒さんと同時に変化した何かのために、イメチェンをした。あの日、変わったことをしていた人物は……」
「じ、人物は……?」
「同志東雲だ。つまり同志古鷹は同志東雲を意識して、イメチェンした!」
「な、な、なんだってー!?」
ふたりは再び驚愕の事実と言うように驚いて見せるが、またしてもすぐに真顔に戻ってしまった。
「同志古鷹と同志東雲の関係は今まで見てきたが、それらしいことは全然なかったな」
「う、うん。べ、別に古鷹は、東雲のこと好きじゃない、と思う……」
「そうそう。これまで積み重ねたイベントも特にないしなぁ。一目ぼれしたって考えるにはちょっと遅い反応だし」
そう言って長良部長は再び考え込む。
「分かったぞ。消去法で……同志古鷹は……俺のことが好きになった!」
何を根拠にそう思ったのか、どやッという風に宣言する長良部長。
それに対して伊吹は────
「絶対にない」
と、彼女にしてはどもらずはっきり返したのだった。
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