図書室でお静かに
本日2回目の更新です。
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──図書室でお静かに
「ねえ、東雲君。この本って部室にある?」
それから部活は続き、お喋りをやめて読書と執筆に精を出していたとき、羽黒さんがタブレット端末にある本を表示させて尋ねてくる。
「『ミジンコでも書けるファンタジー小説大全』か。いや、ないな」
「図書室にはあるかな?」
「あるかもしれん」
最近はWeb小説の投稿サイトがいろいろとできたおかげで、小説を書く敷居が下がっている。流行りのファンタジー小説を書きたいという生徒もそこそこいるみたいで、図書室としてそういうのを応じると校内新聞に書いてあった。
「じゃあ、行ってみようか?」
「俺も行くの?」
「もちろん」
俺は別に図書室に用事はないのだが……。
「しののめっち。図書室に行くのかい?」
「そうなりそう……」
「あたしも付いて行っていい?」
「別にいいけど。何か用事あるのか?」
「あたしも本を探しててさ。そっちも本を探すんだろー? 付き合うぜ」
「へいへい」
こうして俺たちわやわやと図書室へ。
「羽黒さん。図書室ではお行儀よくな」
「分かってるよ」
文芸部と図書室には微妙な協力関係がある。
今回のように文芸部で本が必要になったときは図書室を頼るし、文芸部で要らなくなった本を図書室に寄贈することもあるからだ。
そういう協力関係は今後とも維持したい。長良部長もそう言っていた。
なので、俺たちは関係を崩さぬようにお行儀よくせねばならぬのだ。
俺たちが図書室の扉を開くと中はやはり静かなもので、勉強に励む生徒や本を探す生徒などがちらほらしていた。
「すみません。こういう本を探してるんですけど~」
羽黒さんは早速タブレット端末を図書委員の子に見せる。
「『ミジンコでも書けるファンタジー小説大全』、ですか。ちょっと待ってください」
図書委員の子がタブレットで蔵書を検索する。
「う~ん。今は置いてないですね。『ユスリカでも分かるファンタジー小説全集』ならあるんですけど……」
「そうですか。残念……」
それにしてもミジンコとかユスリカとかどういう読者を想定してるんだ? というか似たようなものじゃないのか?
「東雲君、どうしよう。本、なかったよ……」
「こうなると図書館にいくしかないな。ほら、市営の図書館が近くにあるだろ?」
「あー。あそこか。私、あそこは子供ころに数回使っただけだよ」
図書館なら確実に本はあるだろう。割と品ぞろえというか、蔵書は豊富なところだ。俺もたまに授業の参考文献や興味のある昔の本を探しに行っている。
「カードとか作ってた?」
「……多分。本当に小学生低学年のころだから記憶があいまいで……」
「まあ、最悪失くしてても新しく発行してもらえばいいぞ」
「お母さんに聞いてみるね」
そう言って羽黒さんは一度図書室の外に出た。
「そっちはどうよ、古鷹? 求めてる本はあったか?」
「ないですね。ワンチャン、置いてないかなと思ったんだけどさー」
「何て本、探しているん? 探すの手伝うぞ」
「え。イヤイヤ、ベツニテツダワナクテイイデスヨ」
えらく棒読みでそう返された。解せぬ。
「それより羽黒さんとさ、図書館に行くの……?」
「ん? なんで俺も一緒に行く前提なんだ?」
「……最近、しののめっち、えらく羽黒さんにべったりじゃん。だから……」
「別にそんなつもりはなかったんだけどな……」
変な誤解が生まれている。俺は思い込んだら一直線な暴走ガールに振り回されているだけで、決して一緒になって暴走しているわけではないのだ。そこのところは勘違いしないでほしい。
「これ、しののめっちでしょう?」
そう言って古鷹が見せるのは羽黒さんのインスタの写真で、羽黒さんが最初の匂わせ作戦をしたときの画像だ。
「キオクニナイデス」
「また分かりやすい顔しちゃって……」
匂わせているのが俺だということは伏せておきたい。阿賀野に恨まれたくないし。
「ねえ。本当にしののめっちは羽黒さんと──」
「東雲君。お母さんと話したんだけど、カードは私の名前では……ん?」
ここで古鷹が何か言おうとしたのが、羽黒さんに遮られた。
そして張りつめる謎の緊張感。
「古鷹さん、何か話してた? ごめんね」
「気にしないでおくれ。大したことじゃないから」
羽黒さんが首を傾げながら謝るのに古鷹は苦笑。
「それならいいんだけど。ねえ、東雲君。図書館行こう。ついでに調べたけど図書館にはあるみたいなんだ、探してる本」
「俺も一緒に行かねばならぬの?」
「行かねばならぬの。こんな可愛い女の子をひとりで放り出すつもりかー?」
自分で可愛いと自称してやがる。まあ、可愛いけどさ。見た目だけな!
「しののめっち。あたしも一緒にいい? そのさ。本、探したいし」
「別にいいけど。一応部長に連絡しとくな」
俺はこれから3人で図書館に行くことを部長に連絡した。
部長からは『事故らないようにしてね』とだけ返信が。部活動の時間に事故が起きるといろいろ大変らしいと昔聞いたので、そのことだろう。
「じゃあ、行くか」
「おー!」
羽黒さんが思わずそう声を上げると図書室にいる生徒たちからぎろっとにらまれた。
「ご、ごめんなさい~」
「待て待て、暴走ガール」
羽黒さんは思わず顔を赤くしていそいそと図書室か出ていき、俺たちもそれを追ったのだった。
それから昇降口で靴に履き替え、俺たちは図書館を目指す。
と言っても、さほど離れておらず、距離は徒歩で20分程度だ。
ちょっとばかり古びた建物だが、蔵書はなかなかだ。古い本だけではなく、ときどき新しいラノベも入っていたりする。無料で無限に本が読めて、お金のない学生にはありがたい施設なのだ。
「よーし。今度こそ手に入れるぞー!」
「いや。借りるんだぞ」
羽黒さんが張り切ってそう言うのに突っ込み、俺は古鷹の方を向いた。
「古鷹も本、探してるんだろ? 一緒に探すか?」
「大丈夫、大丈夫。本くらいひとりで探せるぜ」
じゃあ、何でついてきたし。
「それならいいけど。俺も部誌に載せる小説の件でちょっと調べ物するから」
「何を書くのか決めたのかい?」
「まだ考えているけど、ぼんやりとした構想はある」
「へえ。教えておくれよー?」
「やだ」
まだ書いてない小説の話を他人するのは、どこか恥ずかしい。
しかも、俺、小説書くのなんて初めてだし『誰も見たことがない超大作ファンタジー開幕!』とか大見栄張ってあとで恥ずかしい思いはしたくないのだ。
あとで人に見られても恥ずかしくない程度の出来が保証されるまでは、何を書くのかはごまかしておきたい。
そんな出来に本当にできるのかは、小説の神様のみぞ知るだが。
……小説の神様って日本で言うと誰なんだ? キリスト教だと小説家の守護聖人がいるけど日本だと……司馬遼太郎とか……? 村上春樹はまだ死んでないから神様にはなってないだろうし。
「ふうん。けど、部誌が出来たら真っ先に読むぞー?」
「好きにしやがれ」
古鷹がからかってくるのに俺はそう返したのだった。
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今日の更新はこれで終わりです。
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