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陽キャは感染する恐れがあります

……………………


 ──陽キャは感染する恐れがあります



 放課後はいつものように文芸部に向かう。


 昼休みはいろいろあったが、放課後は俺にとって癒しの時間だ。


「こんちは~」


「おお。同志東雲か。みんな揃っているよ」


 俺が部室に入ると長良部長が出迎えてくれた。そして、部長が言うように古鷹も、伊吹も、そして羽黒さんも揃っている。


 古鷹と伊吹は部費で買った小説を読んでいて、羽黒さんは部長の隣に座って何やら学習用タブレットを睨んで考え込んでいるが。


「お。東雲君、そろそろ何書くか決めた?」


「まだ。羽黒さんは?」


「羽黒さんは決めちゃいましたよ~。今、長良部長にプロットの作り方を教わってたんだ。これ、見て見て!」


 羽黒さんはそう言ってプロットを見せてくる。


「『第1章:主人公の高校生“早乙女(さおとめ)一花(いちか)”は不思議な力を持った高校生。彼女はある日、自分の家の裏口が魔法のある異世界に繋がっており、自分に異世界に暮らす魔法使いの兄がいることを知ったのだ!』と……」


 むむ。羽黒さんの考えたものの割りに悔しいがちょっと興味を引かれた。


「『第2章:なんやかんやあって王子の妃になった一花は現代のいい感じの品で異世界を便利にする』と……?」


「どうかな?」


「プロットなら『なんやかんや』のところと『いい感じの品』のところをはっきりさせてくれ……」


 それじゃ書くとき困るだろ。プロットにならんぞ。


「だって異世界ってヨーロッパみたいな場所なんでしょ? ヨーロッパにカラオケとかボーリングとかあるのかな? 異世界のデートって全く見当がつかない……」


「ボーリングはあるんじゃね?」


 俺は中世ヨーロッパな世界で主人公とカラオケでデートしている王子様を想像して、シュールさを感じた。何歌うんだろう……?


「というかそういうの分からないなら無理に異世界舞台にする必要はないだろ。現実でもいいじゃん」


「えー。でも、せっかくだし、私もファンタジーが書きたい」


「せっかくって」


 何がせっかくなんだよ。


「それにデートの件はまだよく練ってないけど、便利な品はひとつ考えてるんだ」


「ほうほう?」


「ハーバー・ボッシュ法!」


「異世界でそれできたら神様だな」


 どうやって反応に必要な200~300気圧。温度500度の状況を作るか知らんが。


「さて、俺も他人にダメ出ししてないで自分で何書くのか決めないとな……」


 俺はそう言いながら古鷹から借りている本を取り出す。何はともあれ、まずは借りた本を読破しておきたい。


「そう言えばさ。東雲君っていつから咲奈と仲がいいの?」


 と、ここでプロットづくりにアイディアが出なくなったのか、羽黒さんが俺にそんな質問をしてくる。


「ちょっと前だよ。最近、最近」


「いいこと教えてあげるね。咲奈は彼氏いないよ!」


「…………だから?」


 耳打ちする羽黒さんに俺は真顔でそう尋ねる。


「つまり、東雲君でもチャンスはあるってこと!」


「はああああ……」


「な、何でため息を……?」


 ちょっと前の俺ならば高雄さんにチャンスがあると言われれば大喜びしただろう。


 だが、俺は知ってしまったのだ。高雄さんの残念な思い込みの激しさと恋愛へのトンチキな考え方を!


 ピクリン酸かよって反応性の浮気センサーは将来男を苦しめるものに間違いないだろう。俺は浮気をするつもりはないが、縛られるのは好きじゃない。


「咲奈はいいやつだからさ。そうだ。今度ダブルデートしない?」


「だから、別に俺は高雄さんと何かあるわけじゃなくてだな」


 俺がそう答えると羽黒さんは何やら考え込む。


「……ひょっとして東雲君、もう好きな人がいる、とか?」


「ノー。今のところ、誰も好きじゃない」


 恋愛で絶賛トラブってる連中を見てると恋愛する気になれない。


 将来的にする気はあるのだが、今このタイミングでしたくない。マラソン全力で走った直後に熱々こってりな豚骨ラーメン食いたくないのと同じ。タイミングが悪い。


「咲奈はさ。凄くいい子なんだよ。中学のときからの友達でね。昔はちょっと地味だったんだけど、根はいい子でさ。バスとか電車でもお年寄りに席を譲るし、横断歩道を渡っている小学生を見守るし、道に迷っている外国人のことだって助けるし、それで一緒に迷子になるし……」


 おい、最後。それはただの方向音痴エピソードじゃねーか。


「とにかくいい子だから一度付き合ってみない? ね?」


「やだ」


 何と言われようがノー。


「そっかー。私も東雲君や咲奈と恋バナしてみたかったんだけどなあ。残念……」


 羽黒さんはそう言ってようやくあきらめた。


「最近モテモテだね、しののめっち」


 ここでからかうように古鷹がそう言う。


「うるせー。全然モテモテじゃありません」


「確かにフラれてたしね」


 古鷹がさらっとそういうと羽黒さんが目を輝かせた。不味い。


「え!? 東雲君、誰かに告白したの? 誰!?」


「言わない。断固として黙秘する」


「まさか咲奈?」


「違う」


 面倒なことになってしまった。ここで熊野先輩の名を出すわけにはいかんし。ここはどうすべきか……そうだ!


「フラれたのマジでショックすぎるからこの話題はあまり出さないでほしい……。今の俺の心はガラスより繊細なんだ……。もしかすると太宰治のように自らの死を選んでしまうかもしれない……」


 凄く傷ついていますアピールをすることで、腫物になって触れられなくしよう。ナイスアイディア!


「そ、そうなんだ……。ごめん……。そこまでショックだったなんて……。じゃあ、次の恋を探さなきゃ!」


 どうしてそうなる????


「失恋に一番効く薬は新しい恋なんだよ。新しい恋をしよう、東雲君!」


「ぐ、ぐうっ……! 恋愛に関する単語を聞くと俺の傷ついたハートが痛む……!」


「それはすぐに恋しなきゃ!」


 駄目だ。この人には腫物には触れないという常識がない。


 そこで俺のスマホがバイブし、執拗に恋愛を押し付けようとする羽黒さんを無視して、俺はスマホの方を確認する。


 伊吹からのチャットだ。


『東雲。誰に告ったんだ? お前、好きな人いたのか? 教えろ!』


 すぐ目の前にいながらスマホでメッセージを送ってくるさまは、まさに古今無双のネット弁慶である。普通に口頭で聞けよ。


『教えなーい』


 と打つと──。


『教えろー! ……古鷹、じゃないよな?』


 と返ってきた。


『違う、違う。古鷹は俺が振られるところ見てただけ』


『でも、最近昼休みに会ってるだろ?』


『それは古鷹が俺に昼飯くれるからだ』


 そう返信すると伊吹は古鷹の方をまじまじと見ていた。


「……お、お前ら、きゅ、急に陽キャになりやがって……」


 それから伊吹はそう恨めしそうに俺たちの方を見たのであった。


「本当だよ。いつの間にそんなに浮いた話が出るようになったんだ、同志東雲。前は二次元の女の子のことだけをこよなく愛していたのに。俺と語ったスカーレットちゃんへの愛は偽りだったのか!?」


「いやいや、部長。俺、マジで誰とも付き合ってないですよ」


 スカーレットちゃんというのは『イギリスから来た留学生が俺にぞっこんのようです』のヒロインである大久保スカーレットちゃんのことである。ストレートな好意系のヒロインで滅茶苦茶可愛いので好き。


「でも、昔よりしののめっちは何だか明るくなったよ?」


「そうか?」


「そうそう」


 古鷹はそう言ってにこにこしていた。何が嬉しいのか知らないが。


「……よ、陽キャは感染する、みたいだ……。……恐ろしい……」


 で、伊吹、お前は何に怯えてるんだよ。陽キャは別にゾンビじゃないぞ。


……………………

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