友人の頼みとありましては
本日2回目の更新です。
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──友人の頼みとありましては
部誌作りも始まり、俺の平均な日常はちょっとした慌ただしさを見せた。
感想を書くならば本を読まねばならないし、作品を書くならばプロットを練らなければならない。そして、俺はそもそもどっちにするのかを未だに決めかねている。
感想か、作品か。
自分でも小説を書いてみたいという気が全くないわけじゃないが、それを文章という形にする自信はあまりない。しかも、誰かに読まれるぐらい問題ない作品を俺は書けるのだろうかと疑問がある。
そんなことを思いながら翌日火曜日のホームルームが始まるのを待っていた。
「東雲君」
そこで声をかけてきたのは高雄さんだ。
「少しいいだろうか?」
「いいっすよ」
高雄さんが求めるのに俺は別に断る理由はなかった。暇だし。
高雄さんについていくと前と同じく体育館裏。
「なあ、凛から日曜日のことは聞いただろうか?」
「聞きました。高雄さんも阿賀野に誘われた口?」
「ああ。行くべきかどうかは迷ったものの……」
そりゃ羽黒さんの友達だし、阿賀野と違って空気が読める人だから、羽黒さんがふたりのデートがいいと暗にアピールしていたのは知ってるだろうからな。
「で、どうだったんです? 羽黒さんはみんな来た時点でがっかりって感じだったが」
「カラオケに行って、ゲーセンで遊んでと大したことはなかった。なかったのだが……」
そこでがっと高雄さんが俺の肩を掴むのに俺はびくりとする。
「最後の最後であたしは見たんだ。あのバスケ部のマネージャーが駅にいたのを!」
「な、なんだってー!?」
と驚いてはみたものの……よく考えると妙は話だ。
「ん? 駅にいたんです? 阿賀野と一緒にいるとかではなく?」
「ああ。駅にいたが、私たちが立ち寄った駅だ」
「……特に阿賀野と話したり、一緒にいたりしたわけではなく?」
「そんなことをしたら浮気確定だ。あたしはお前に相談したりしていない。今ごろは凜に別れるべきだと助言しているだろう」
つまり、阿賀野は別にバスケ部のマネージャー──熊野さんだっけ──と待ち合わせをしていたわけでもなく、それどころか喋ってもいない。
熊野さんは駅にいただけである。
ちなみに俺たちが使う駅は決して小さなものではなく、利用者数20万人規模のもの。
「はああああ…………」
「な、なぜため息を吐く、東雲君」
あほくさとばかりに俺が盛大にため息を吐くと、高雄さんがうろたえた。
「恐らく阿賀野とバスケ部のマネージャーさんは何もないっすよ」
「そうなのか?」
「そうです、そうです」
怪訝そうにする高雄さんに俺はそう言って頷く。
「しかし、まだ確信が持てない。そこでまた協力してほしいことがあるんだ」
「へいへい。お次は何だい?」
「うむ。あのバスケ部のマネージャーに告白してほしい」
「ぶっ!」
高雄さんがさらっというのに俺が思わず唾が気管に入った。苦しい……!
「だ、大丈夫か」
「げほげほっ。いやいや。告白しろって冗談だよな?」
俺は高雄さんの方を見るが、この女、真顔だぞ……。
「冗談ではないぞ。お前が告白して受けなければ、やはりそれは伊織を狙っている可能性があるということだと分かる」
「万が一にも告白を本気にされて付き合うことになったらどうすんだよ」
「そのときは『冗談だった』と断れ。あたしも手助けしてやる」
何で俺の周りの女は恋愛絡みで迂遠極まりないトンチキな作戦考えるの????
「というか、高雄さんは阿賀野のことあんまり信じてないんだな」
「凛が思いを寄せる相手だ。信じたいとは思うが……」
「まあ、確かに今のところ怪しいところがあるのは認める」
どうも阿賀野は自分の彼女に接するような態度で羽黒さんに接していない感じがする。その理由は不明だが、そこを怪しく思う高雄さんの気持ちは分からんでもない。
「だが、その前にマネージャーさんをちゃんと調査してからにしよう。もし、怖い先輩と付き合ってたりしたら、俺がボコられる」
「分かった。あたしの伝手で聞いておく」
というわけで、俺は特に好きでもないバスケ部のマネージャーさんに告ることになった。何がどうしてこうなったという感じではあるが……。
* * * *
高雄さんが調査した情報を持ってきたのは、3限目の休み時間だった。
「調べてきたぞ、東雲君」
そう言って高雄さんはスマホのメモ帳を開く。
「まずあのマネージャーの名前は熊野絵梨。2年生だ」
「熊野絵梨さんね。他には?」
「付き合っている彼氏はいないと言っている」
「その調査結果で浮気疑惑は晴れて満足とかは?」
「しない」
ですよね。
「お前の心配する怖い先輩などとの繋がりもない。これで問題はないな?」
「マジでやるの……?」
「ああ。マジだ」
ワンチャン逃げられないかと考えている俺に高雄さんがそういう。
「し、しかし、どうやって熊野先輩と連絡を取る?」
「それについては既に連絡してある。告白をするとまでは伝えていないが、とある1年生が先輩に用事があるということは伝えた」
それは俺の許可とってからにしてくれないかなぁ!
退路は今や完全に塞がれた。やるしかない。
「分かった。俺も男だ。覚悟を決めよう」
「おお。ありがとう、東雲君。早速だが今日の昼休みだぞ」
「ああ。骨は拾ってくれ、高雄さん」
俺はそう言って運命の昼休みを待った。
* * * *
そして、昼休み。
「東雲君。この前の肉巻きおにぎり、どうだった?」
羽黒さんがそう言いながら俺を踊り場に連れていこうとするが今日はノーだ。
「羽黒さん。俺は今日は重要な用事があるから。すまんな」
「そ、そうなんだ? ごめん」
「失礼するよ」
このときの俺は昔から知り、俺を呼び止める幼馴染を村において魔王を倒しに行く勇者のようだと思った。まさに勇気を胸に険しい戦いに挑む戦士だ。
……羽黒さんは幼馴染でもないんでもないし、俺を呼び止めたわけでもないし、熊野先輩も魔王じゃないけど。
俺が教室を出ると高雄さんが待っていた。まるで勇者を導く賢者のように緊張した面持ちで、これから繰り広げられる戦いのことを案じている。
……高雄さんは賢者でも何でもないし、俺も別に戦わないけれど。
「いくのだな、東雲君」
「ああ。行くぜ、高雄さん。覚悟はできている」
「よし。こっちだ。体育館裏で待ち合わせてある」
高雄さんに導かれて俺は決戦バトルフィールド──体育館裏へと向かう。高雄さんが道を開き、俺が続く。
そう、俺たちの戦いはこれからだ!
東雲蒼空先生の次回作にご期待ください!
と言って逃げ出したい……。
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……トンチキな話を書いている自覚はあります。その上で因習村の奇祭を見るような気分で眺めてください。
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