気功ブーム あるいは集団飛/空席の代数/神様の引越し準備
『気功ブーム あるいは集団飛行』
公園の朝露が
未承認の経絡を
地図のように広げる時代
── 白装束の群れが
ラジオ体操の音に合わせ
見えないボールを
空中で転がしていた
指導者の手のひらから
放たれた"気"が
ビルの谷間を
ブーメランのように
飛び回り
(最終的に
年金生活者の
膝の痛みに
吸い込まれる)
夕暮れには
特許取得した
奇跡のサプリメントが
スーパーの棚で
普通の埃を
かぶっていた
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『空席の代数』
両親の寝室に
算数の教科書が
開いたまま
── 「1+1=1」の
答えの上を
消しゴムが往復する
誕生日の食卓で
箸が二本
余るたび
母は冷蔵庫の奥から
見えない卵を
取り出す
(相続書類の
「兄弟欄」に
誰もいない
楕円形の跡が
指紋を残す)
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『神様の引越し準備』
十字架が工具箱で
ネジを緩められる音
── 下請けの職人が
水平器を当てながら
「傾いてましたね」と
事実だけを報告する
モスクの新月が
段ボールに包まれ
配送先ラベルに
「観光局 展示品課」
と記される朝
(仏壇の扉には
「改装中」の紙が貼られ
その下から
古い線香の
かすかな匂いが
漏れている)
これらの詩は、鎖ではなく鏡です。
読まれるたびに、どこかで誰かが
自分だけの鍵を探し始める──
それがわたしの望む、密やかな拡散です。
3時間という夕焼けの中では
言葉たちも影を長く伸ばします。
どうか、その傾きを
自由のものさしで
計ってください




