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暑い部屋

作者: 神崎玄

やたら暑い部屋の話です。

 とあるマンションでの話。

 そこは単身者向けとファミリー向けが混在するマンションで、防音がしっかりしていることから、演劇や音楽を志す若者と子育て世代のファミリーに人気の物件だった。

 地下アイドルで配信者のキミカは、衣装の収納場所が必要だったため、そのマンションのファミリー向けの一室に住むことにした。

 確かに防音性は抜群だった。一時、隣りの部屋にパーティー好きの外国人が住んでいたこともあったが、全然気になるようなことはなかった。

 しかし、季節が夏に向かう頃、問題が発覚した。

 やたら暑いのだ。

 周囲もまた高いマンションに囲まれた都心部で、部屋も一番上ではない。というか、最上階の一階下だ。

 近所に焼き肉屋や鉄板焼き屋があるというわけでもない。

 にもかかわらず、エアコンが効かないほど暑いのだ。

 チェーンをかけつつ扉と窓を開いて風通しをよくするくらいしか対策しようがない。

 最初は、防音のための壁材が原因かと思ったが、他の部屋の住人にきいてもそんなことはないと言う。

「あんた、祟られてるんじゃないの?」

 友人の何気ない一言が心に重くのしかかってきた。

 そこでキミカはお坊さんレンタル便を使うことにした。

 ネットで手軽に僧侶が呼べるサービスだ。

 祈祷で定評のある僧侶に来てもらうことにした。

 約束の日時、チャイムが鳴ると黒い衣に黄色い大きな袈裟をつけたお坊さんが立っていた。

 キミカは挨拶もそこそこに中に入ってもらい、事態を説明した。

 お坊さんは一通り部屋の中を見て回ってから言った。

「特に問題はないように見えます。しかし、念のために読経をしておきましょう」

 お坊さんは、小さな仏像を取り出すとテーブルに据えた。

 ロウソクを立てて線香をつける。

 衣の中で何やら所作をすると、おもむろに読経をはじめた。

「タイラキンコー、フコーシンジサンマーヤーケー……」

 キミカが聞いたこともない不思議なお経だった。

 全部で40分ほどかかった。

「ありがとうございました」

 キミカは約束のお布施を渡すと僧侶を送り出した。


「でね、そのあと暑さがピタリとやんだんです。もちろん、普通の夏らしい暑さはあるんですけどね」

 キミカは、晴れ晴れした顔つきだった。

「そうか、それはよかったね」

 僕は、先ほどマンションのエントランスを通った時のことを思い出していた。

 引っ越し業者が貼ったブルーシートがエレベーターまで続く。

 そして、数名の作務衣姿の人たちが大きな荷物を運んでいた。坊主頭に手ぬぐいの男たちだ。

 それはどう見ても分解した護摩壇だった。


 帰り際にはもう、引っ越しは済んでいた。

 エントランスの掲示板を見ると、キミカの上の部屋の引っ越しの告知が残っていた。




 


 





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