傾いている世界
「あの...どこに向かって...」
「大きい通り出るから人間に擬態して」
「いやちょっと...」
今、私達は死体を二人抱えながら歩いている。
周囲からの視線がかなり痛いが気のせいだと思ってスピカに続く。
にしても男二人を引きずるのはかなり辛い。翼はともかく、
少年の方は成仏させてもいいんじゃない...とはいえ助けてくれる恩人に
そのことは言えまい。点滅する青信号に駆けて行く。
しばらく歩いていると古めかしいビルの前でスピカが立ち止まった。
「ついてきて!」
「あ、ハイ...」
かなり際どい服装の女の子のポスターが羅列されている廊下を進む。
いかにもススキノというような感じだ。
古めかしいビルだが見渡すと掃除が隅々までされている。
地下へ続く階段を降りるとスピカはバーの看板が出ている店に入っていった。
柔らかな光がスピカの髪を照らして金に光る。
店内を見渡すと、カウンターにある乗っているよくわからない置物が
視界に入る。禍々しい雰囲気を感じて目線を逸らすと席に座る
少女と目が合う。
「見て見て、面白い子連れてきたわよ~」
「うわ、またなんか連れてきたのですか!?人間一匹に天使二匹に、
めんどくさいのです。」
「まあまあ、賑やかになっていいじゃん。」
少女にジトっとした視線を浴びせられて軽くのけぞる。
それに対して隣に座る青年はにこにことお気楽に笑っている。
少女の大きく瓶の底のように分厚い丸眼鏡と重い前髪を見ればいかにも
真面目そうな顔だけれども、高い位置で結んだツインテールと蛇のように
体に巻き付いたリボンにピンク色のワンピースがファンシーな雰囲気を
醸し出していた。人間に擬態しているが彼女も休暇で遊びに来た天使だろう。
隣の青年はというと、先程は彼を笑っていると形容したけれど目は髪に
隠れていて表情を読み取れるのは口元からだけなので本心で笑っているのかは
私からはわからない。種族は...天使ではないが人間でもない?
「あの、貴方は――」
「なあスピカ~女の子が抱えてるやつら死んでるけどどうすんの?」
「とりあえず治療してから考えるかな~」
私が種族について聞こうとしたのを遮って会話をしだす。
人間でも天使でもなければ悪魔が次に浮かぶがそういう雰囲気はない。
考えても仕方がないので両脇に抱えてた二人をソファに投げ出し
少女と少し離れた位置に座る。
「あの、あたしはベガです。こっちでは菊池いろはって名乗ってるのです。
治療したらさっさとどっかに行ってほしいのです。」
「はいはいすぐ失せるよ。」
「あっ俺は桜庭水希な、スピカは布目乃夢音。」
「私は真駒愛、少しの間よろしく。」
私がそう言い終わらないうちにいろは席を立ってソファに
横たわる二人の看病をしにいった。一緒に看病される夢音の手首が
照明の光を反射し硝子のように輝くとともに背筋に寒気が走る。
しばらく硝子を見ることすら億劫になりそうだ。