プロローグ
「……くそ」
舐めていた。俺はこの世界舐めていたのだ。
どこか思春期の頃のような浮ついた気持ちでこの世界に望んでいた。
どうせ死ぬほどの危険と関わることなどないと高を括っていたのだ。
「くそっ…!」
それが覆された。目の前でかつて言葉を交わした相手が物言わぬ死体となっているのもありふれたこと。
俺の認識が甘く、覚悟は足りない。ただそれだけのことだった。
「クソッ!!!」
怒声や弓矢、魔法が飛び交う戦場でこんな呑気な後悔をしている人間は俺くらいだろう。
気を抜いたものから死んでいく、上官のその言葉が本当であれば今真っ先に死ぬべきは俺だ。
戦場で死ぬかどうかの瀬戸際で最も重要なのは運があること。俺は運があって、こいつにはなかった。
ただ、それだけのこと。なのにどうして、どうしてこんなにも腹立たしい。
「おい」
「……」
「おいっ!!」
目の前が真っ赤になった俺を誰かが揺さぶる。
「呆けている場合か!!退却だ、ここの戦線は突破される」
「ですが…」
隊長の言うことはもっともだった。それでも俺は目の前の状況を、知り合いが死んだという状況を受け入れられなくて動けないでいた。
「リュート二等兵!!!我々の任務はここで無駄死にすることではない!!この後も戦いは続く!!!」
「…」
「ここで後悔していては、仲間の死はそれこそ無駄となるぞ」
言いたいことは言ったという顔で隊長は部隊のしんがりへと向かう。
隊長はこの戦場では1番正しくて、戦場で死を受け入れられずぐずぐずしている俺はまだ甘っちょろい子供気分なのだろう。
少しばかり冷静さを取り戻し、先ほどの失態と自分の甘さを自覚する。
「…くそったれが」
呟いた言葉はこんな戦場に来なければいけない不条理に向けたものだったかもしれないし、不甲斐ない自分に向けたものだったかもしれない。
ただただ今は、残った十数人の同じ部隊の兵士とともに退却をする自分が惨めで、世界が恨めしかった。