ひとりとひとり
アイスクリームは美味しいけれど、ゆっくり食べていると、溶けてしまうの。
何事にも、食べ時っていうものがあって、私は、私の食べ時は、今だって思ってるの。
……だけど、誰もそばに寄ってくれない。私、醜いかしら?この家には鏡がなくて、私一人しかいなくて、誰も、教えてくれないの。
そっと食べ物を置いていってくれる、小さい子の後ろ姿は可愛くて……きっと私、心は醜くないわ。誰かを大切にしたいって気持ちは綺麗なもの……よね?
きっとあの可愛い子は、近づくと逃げてしまうから、いつも窓から見守るだけ。
あら?とてつもなく眠くなってきたわ。
こんな時、一人は便利ね。
うーん、むにゃむにゃ。
「……もし!もし!大丈夫ですか?!」
誰かの声で目を覚ましたの。目の前にはキレイな青年が。
「私……」
「僕は毎日食べ物を届けていた子どもです」
「あら?だって?!」
「食べ物が受け取られなくなって5日。いても立ってもいられなくなって、勝手に入ってきてしまいました。」
「でも、あなたは青年だわ?」
「僕は、魔女に子どものままでいる魔法をかけられていました。ところが!この、清浄な建物に入った途端、魔法が解けたのです!」
「まあ!」
「あなたの顔をずっと見たかった。でも、怖かった」
「私も。逃げられてしまうのではと。」
「あなたはとてもチャーミングですね」
チャーミング……嬉しい言葉だわ。
「だけど……」
「だけど?」
「この家を出たら、また子どもに戻ってしまうでしょう。それでもあなたに食べ物を届けたい」
「まあ!ありがとう……では、届けに来てくださったら、お茶でもしませんか?一時、本来の自分に戻って。そのうち魔法も解けるかもしれないわ。」
「いいんですか?」
「ええ。もう一人は嫌だもの」
ガシッ。青年が手を取った。
「ありがとう、ありがとう。」
「いえいえ、こちらこそありがとう」
青年の滞在時間は、日に日に増え、二人は楽しく過ごしました。魔女の嫉妬も暫くすると消え、青年は外に出ても青年でした。
「まるであなたが魔法使いみたいだ」
「こわーい?」
「いいえ、かわいい」
初めて見る小川、実のなる木、二人で見る世界は美しく、彼女は幸せを感じつつ、(やはり食べ時だったんだわ。)と微笑むのでした。