パートナー運のない少女
「はー、危なー。先月ぶりに死ぬかと思った」
ニコラは地面に座り込み、バイクにもたれかかった。
首の皮一枚で生き延びるのはいつものことだが、今回は少しだけ事情が違った。
「んで、まじで何なの、キミ」
「私はレイ、マスターの忠実なる僕です」
「そういうことじゃないんだけど」
隣にいるのが、頼れる相棒ではない。
というか、初対面のロボットだった。
「あいつらマジで何も説明せずにどっか飛んでくし」
豪胆なニコラと言えど、流石に戦場で得体のしれないロボと二人きりというのは、少し不安だった。
「ねえ、ロボ」
「何ですか、ゴミ」
「……ねえ、レイ」
「聞こえていますよ、ゴミ」
「何故私をゴミと呼ぶ?」
「ニンゲンなど、ゴミでしょう」
ニコラは先への不安から頭を抱えた。
人間をゴミと呼ぶあたり、レイの援護は期待できない。
『星群』は使えず、更に武器も十分だとは言い難い。
「大ピンチでは?」
「よかったですね」
「私が襲われたらキミも危ないんじゃない?」
「いいえ。私は機械ですから、多少銃で撃たれようが死にはしません。それに犯罪者からすれば、相手をする理由もないでしょう」
「いや、体見てみ」
レイは言われた通り、自らの腕をそのカメラの画角に収める。
すると、腕は布で覆われていた。
服、と言うのが適当な、白を基調とした、ポケットが多めの布だ。
肩に線が刻まれていないこと以外は、丁度目の前の少女が着ている服と全く同じデザインだ。
「何ですか、これ」
「宙域の制服」
「……チュウイキ?何です?」
「いやしらんのかーい。簡単に言うと、植樹活動で人類に貢献する組織だよ。んで今は、植える土地がなくなったから犯罪者殺して星奪って植えてる」
「人類貢献のために同じ人類を殺すとは、やはり人間は愚かですね」
ニコラはボケにツッコミが返ってこない寂しさに打ちひしがれながらも、周囲を見回す。
「ってちょっと待って下さい。まさかこの服を着ていると、そんな危険思想団体と同類と思われるということですか」
「完膚なきまでにその通り。傍から見たらキミは今、苗植えロボだよ」
「今すぐ脱ぎます」
レイは即座にジッパーを下ろす。
するとその内側から、制服と同じ模様に塗装された体が覗いた。
「はあっ!?」
「ニーッコッコッコッ!対策バッチリかよ!」
「何を笑って、いや、笑ってるんですかそれは!?」
「はー、面白。イチト、案外センスあるねえ」
ニコラは腹を抱えながら、称賛の言葉を伝えるべくイチトを探す。
だが周囲に高層ビルが林立しているせいで、何一つ手掛かりは見つからなかった。
「うーん、詰んでるなあ」
ニコラは寝転がって空を眺めた。
ビル、つまり建物がある場所というのは、それ即ち犯罪者の住処。
幾ら宙域が来たとしても、逃げるアテがないからと、未だに留まっている犯罪者がいないとも限らない。
『星群』もないニコラでは、その犯罪者と正面切って戦うのは自殺行為だ。
命懸けでコンテナの下のバイクにむかって飛んで、強引に操作して着地を成功させたとしても、まだニコラは命の危機の最中にいるのだ。
「……よくも敵陣で寝れますね」
「まあやることないからね。イチトが来るまでのんびりよ」
「……?自分で向かえばいいじゃないですか」
そう言うとレイは、落下時に爆発を観測した位置を指さした。
「あ、さっきの爆発、あっちでおきたのね。必死で覚えてなかったから、助かっちゃった」
「なっ!いいえ、違います。間違えました、あっちです」
「キミ、嘘つくの向いてないよ」
「撤回して下さい!私はこれでも、数百億もの大金を騙し取ったことがあるんですよ!」
「嘘下手、って言いたいけど、名前といい見た目といい、なーんかヤベーやつを思い出しちゃうんだけど」
ニコラは目の前のロボの正体に薄々勘付きながらも、面倒なので知らないふりをした。
そして取り敢えず、レイの指さした方向へと歩を進める。
「んで、何でついてくんの?」
「こんな格好でマスターに会うわけにはいきません。カスに会って元に戻させるんですよ」
「ふーん。でもさっき、イチトがいるのはあっちだって言ってなかった?」
「ぐっ!そ、それはその、移動したかもしれないでしょう!」
「ふーん」
オモチャとしては良い感じだな、と取り留めもないことを頭に浮かべつつ、ニコラは千鳥足で歩く。
「……もうちょっと真っ直ぐ歩いたらどうですか」
「うわー、歩き方の自由を侵害された」
「助言ですよ。従うかはゴミしだっ!?」
ガキィン!!
唐突に、けたたましい金属音。レイの頭を、吹き飛びそうなほどの衝撃が襲う。
「狙撃!?」
ニコラは追撃が来る前に、素早く建物の中へと身を隠した。
「ガッツリ当たっちゃったじゃん!?もしかして突然のソロデビュー!?」
ニコラが冗談を言いつつも命の危機を感じていると、地面に倒れたレイが即座に起き上がって睨みつけた。
「ぐっ、そもそもグループになった覚えがありません!」
「おっ、生きてた。いや、ロボだし故障しなかったかな?」
「いいえ。私に、人類の最高傑作に、弾痕が付きました。マスターの所有物に、傷がつきました!」
立ち上がったレイの頭には、ライフル弾が深く、深く突き刺さっていた。
レイは怒りに震えながら、狙撃された瞬間の位置に立ち、弾丸の形、当たった位置等の情報を分析していく。
「ゴミ」
「ニコラね」
「狙撃手は、お前にとっても邪魔でしょう。そして私は、この傷の借りを返したい」
「へぇ、共闘ってこと?」
「……有り体に言えば、そうですね」
ニコラはニコォと笑い、懐から手錠を取り出した。
「援護は任せるよ?」
「ええ。一発入れるまでは、絶対に死なせませんよ」
ニコラ、そしてレイ。
異なる価値観に縛られた二人は、全くと言っていいほど意見が合わない。
だが外部から迫る危機に対して、偶然ながらも、全く同じ答えを導き出した。
一時的に協力し、脅威を除くしかないという答えを。
ここに初対面の一人と一体の、歪な協力関係が始まった。




