任務前は物入り
「これ、ここ見てくれ」
イチトはタブレットに映像を映し出すと、その空に浮かぶ星を指差した。
ヴィーシはそれを眺めると、タブレットに天体模型を映し出して、こくりと頷いた。
「確かにそうね。この配置と時間からするに、映像が撮られたのは、天王星の衛星、セティボス」
「よし。ならネイピアに報告しておいてくれ」
「……この映像がセティボスのものだとして、そこを攻める理由は何?もしも貴方の言う通りレイの、いえ、例のAI開発者トゥルブリム博士がそこにいたとして、捕まえる理由はあるの?」
「レイは確か、陽動に使われてたんだろ?だったら予備がある可能性が高い。それにAIが使える奴相手だと、AI規制で随分と弱くなった通信関係を妨害される可能性もある」
何も考えず規制を作ったせいで、現在の法では社会の役に立っていたAIすら使用を禁じられている。
だが犯罪者には規制など関係がない。
あらゆる方法を使って、リアル、ネットを問わずに、常に金や物を奪い取る方法を考えている。
ならば事前に、トゥルブリムを潰しておくのが望ましい。
「まあ、通信落とされたらどれだけ不便かは、艦長が一番良く知ってるわよね」
「ああ。通信切られたせいで、相当余計に死人が出たからな」
「じゃあ適当に報告しとくわね。それで、あのロボ娘はどうするの?解体?」
「次の任務に連れてく」
ヴィーシは耳を疑い、イチトの顔を見た。
だが冗談を言う表情には見えなかったので、聞き間違いだとして作業に戻った。
「次の任務に連れて行く」
「狂ったの?」
「いいや、正気だ」
「自分じゃわからないものよ、狂気って」
イチトはタブレットにレイのデータを表示し、ヴィーシに見せた。
「確かにCPUは周回遅れだし、その熱対策に場所をとる水冷クーラー。バッテリーも性能が低いし、正直ハード面はいいところがない」
「粗大ゴミじゃない。というか、問題はそこにはないと思うのだけれど」
「でも、ソフトは使える」
「私は寧ろ、ソフトがダメだと思うんだけど。詐欺を働いた上に、貴方を撃とうとしたんでしょ?」
「まあな。でも、二足歩行できるってだけで十分すぎるぐらい便利だ。見てみろ」
イチトはレイ内部の空洞を指さした。
ヴィーシは何も入ってない、と言いかけてから、言わんとする事に気がついた。
何もないということは、何かを入れられるということだ。
「荷物持ちにしようってわけ?」
「ああ。修理するときに新しい部品使ったらスペースが開いたみたいでな。手榴弾に銃、ナイフに刀、何でも積み放題だ。使い分けられるってだけで、戦略の幅は全然違ってくる」
「あの女と手を切っても戦えるように?」
確かに、色々な武器が使えるのは有利だ。
だが『双騎当千』を使うなら、わざわざ移動武器庫など用意せずとも、ナイフ一本で事足りる。
故にヴィーシは、あえてリスクを背負おうとするイチトの姿勢に疑念を抱いた。
「……ニコラが、借金返し終わったそうだ」
「!」
「辞めるかは知らねえけど、そうなってもいいように準備はしたい。流石にポケットに入るだけの武器だけじゃ、生き残れねえだろ」
「ふうん。私はあの女嫌いだから助かるけど、貴方は色々大変ね」
ヴィーシは機嫌良く冷蔵庫からカフェオレを取り出すと、コップに注いでイチトに差し出した。
「祝杯よ。貴方にとっては、違うかもしれないけど」
そう言うと、自分のコップを傾けて、口に糖分を流し入れる。
「どうせ最後はこうなる予定だった。祝うことでもなんでもない」
「そう。で、ロボのことだけど、本当に大丈夫なの?『星群』無しだと、本気で撃ち殺されるんじゃない?」
「それに関しては考えがあるから気にしなくていい。それより、レイの改造部品買うのにネット通販使いたいんだが、届け先ってどうすれば良いんだ?」
宙域警備隊の本部は、常に移動する戦艦型の建物である。
その上、現在位置は敵からの攻撃を防ぐために、外部へは秘匿されている。
イチトはそのせいで商品の配送を断られてしまったのだ。
「普通に頼んだら届くの来月になると思う。次の任務に確実に間に合わせるなら、惑星に取りに行くことになるわね。手続きする?」
「……面倒だが、早めに動作チェックもしたいな。手続き手伝ってくれるか」
「商品リスト貰えればやっておくから、送っておいて。その方が早いから」
「悪いな、色々と」
「買い物代行して貰ってるんだから、このぐらいはね」
言われてみれば、買い物代行なら毎日のようにやっている。
少々面倒な注文があるから気が引けていたが、遠慮なく頼んでも良さそうだ。
「そうか。じゃあリスト送っとくから、頼んだぞ」
「了解。大した手間じゃないし……って何これ。何個一気に頼んだの?」
「どうせなら急がないけど欲しいものも頼むかと思ってな」
「にしたって、何コレ。初めのは似合わないにしても武器だろうけど、服にペンキに……液体金属?あとプラモ!これは絶対ふざけてるでしょ」
イチトとしてもプラモがふざけた注文であるということは同意なので何も言えない。
正直、頼まれた通りにリストに入れたのは、プラモを取り下げて他の注文を確実に通すためだ。
「これからも食事の配達、しっかりやってよね?」
「え、わかった。ありがとう」
「なんで驚いてるの」
「いや、まさかやってもらえるとは」
明らかにヴィーシがむっと眉間にしわを寄せた。
やってもらえない前提で余計な仕事を大量に頼んだとなると、さすがに不満があるのだろう。
「……ついでにあなたの金で私のお気に入りのお菓子入れさせてもらうからね」
「……わかったよ」
後日、想像の三倍は高い菓子の請求書がイチトの元に届いたという。




